第67話真知子の愛称がマーちゃんに

文字数 1,706文字

そしてお互いに自己紹介を始めた。
しかし辰男のことは三澤さんを通じて、こと細やかに知らされていたようで、今回治療に使用した不思議なマリモと孔雀の羽から抽出した混合液の事も知っていた。
それに加え真知子の病状についても、こんにちに至るまでの経過も含め、すべて把握していたのである。
その一方で、その若き院長先生の自己紹介を聞いているうちに、驚きの部分が数多く出てきた。
名前は高橋豊といい、何でもうちの会社の三澤さんとは大学時代の同級生であり、その後大学院へと進んでからも同じ研究をしていた仲だったと言う。
その後、三澤さんはアメリカへと渡ったのだが、こちらの院長は3年間は大学病院で研修医として働いたのち、この病院を父親から引き継ぐために父の元で修行をし、そしてこの4月に院長に就任したばかりだという事であった。
歳は三澤さんと同じで32歳。
辰男はその歳を聞いて驚いた。
恰幅の良い体型といい、貫禄のある髭を蓄えたその姿は、どう見ても自分より歳下には見えなかったのだ。
そして早速、車椅子に乗せたままでの状態で真知子の診察が始まった。
血圧の測定、眼底出血の有無、聴覚の異常の確認、そして触診へと続いていった。
そのあと真知子の今後についての説明があった。
今回の治療に於いて、癌が消滅していたという件については、三澤さんから連絡を受けていたと言うのだが、その副作用により起きてしまった脳障害については、先ほど撮影したMRI画像を参考にして明日、三澤さんと一緒に考察する予定になっているのだと言う。
その内容によって出来る治療が有るのであれば施すことにもなるし、もし治療法が無いと言うのであれば、これから先の生活に対するサポートをしていきたいとも言ってくれた。
その温かい申し出に辰男の涙腺は、すっかりと緩んでしまった。
そして真知子の現状としては顔色も良く、脳の問題以外には内臓も含め、どこも不安に感じる所は無いというお墨付きを貰えた。
それと院長からの助言で
「食事の方も口から少しずつ、摂取させる練習をしてみては如何ですか?」
とも勧められた。
そうして院長の診察も終わり、4人して個室へと戻って来てから真知子をベッドの上に移動させた。
その時、時刻は既に午後5時を疾うに過ぎていた。
そこで辰男は娘たちに提案してみた。
「さっき院長先生にも言われたように、真知子に食事を与えてみたいんだけれども、どう思う?」
すると梓が即座に答えた。
「私もそう思ってたんだ。
ナースセンターに行って聞いてくるね」
すると
「じゃあ私も付いていく」
と言って祥子も一緒に向かったのであった。
そしてそれから5分後に二人して戻ってきた。
「看護師さんに相談してみたら、調理室へと連絡してくれて、お粥を作ってくれる事になったの。
出来しだい、病室まで運んで来てくれるって」
と梓が嬉しそうに話してきた。
そして暫くしてからの事であった。
看護師さんが熱々のお粥を、トレイの上に乗せて持ってきてくれた。
それを見て祥子は介護ベッドのリモコンスイッチを押して、真知子の上半身だけを少しずつ起き上がらせていった。
すると真知子はニコリと笑い、祥子の顔を純粋無垢な瞳で見つめてきた。
その愛らしい笑顔を見て祥子は、真知子の頭を撫でながら、こう言ったのである。
「マーちゃん良かったねえ、起きれたの?
嬉しいでしょ」
その様子を見ていた辰男と梓はクスッと笑った。
そして梓が祥子に質問した。
「あんた、お母さんのことをマーちゃんて呼ぶことにしたの?」
すると祥子は直ぐに返答した。
「そうなの、私はお母さんのことが可愛くて、妹のような気がしてきたの。
お母さんの名前は真知子だから、マーちゃんがいいかなと思って昨日から考えてたの」
すると梓も賛同して
「じゃあ私もマーちゃんて呼ぼうかな」
と話していた。
それを隣で聞いていた辰男は、頭の中で考えてみた。
「マーちゃんか?
確かに呼びやすくていいかもな。
でも俺は女房のことを、そうは呼べないな。
今まで通りの真知子でいいや」
と変に納得をしていたのであった。






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