第10話やっと鳳凰に出逢えた?

文字数 2,693文字

「やはり、この場所だったんだ。
するとこの中に、権現岳山頂から見えた金色に耀く何者かが棲息しているに違いない。
あれはいったい何だったのか?」
その時の俺は、好奇心と恐怖心とを併せ持つようになっていたのだが、圧倒的に好奇心の方が勝っていた。
その後も俺は懐中電灯を手にしたまま、薄暗い中の様子を照らし続けた。
すると徐々にではあるのだが左手の奥の方から、緑色の蛍光色が現れ始めたのである。
しかし細い枝葉が複雑に絡み合っているが為に、クッキリとは確認することが出来ないでいた。
そこで俺はどうしても、この中に入ってみたいという衝動に駆られ覚悟を決めた。
持参してきたサバイナルナイフをリュックから取り出し、人が入れるほどの大きさの穴を、くり貫くことにした。
そして高さ40cm、幅60cmぐらいの蒲鉾状の形に侵入口を確保しようと思い作業に入った。
しかし枝葉が複雑に絡み合っている事は分かっていたのだが、何とその厚みが10cm近くもあり、汗だくになりながら1時間も費やしてしまった。
やっとの思いでくり貫き終わり、それをパカッと引き抜いた。
そして膝まずきながら懐中電灯で中の様子を窺ってみたのである。
するとその内部は平らに均してあり、左手奥の方からは僅かでは有るのだが、また緑色の蛍光色を発し始めた。
俺はその現象が気になり暫くの間、その方向に懐中電灯の灯りを照らし続けてみた。
すると、その緑色の蛍光色は徐々に照度を増してゆき神秘的な耀きへと変化していった。
その時、俺の冒険心は最高潮を迎え、その耀く物体が何であるのかを確かめてみたくなったのである。
しかし不安もあった。
もしかして得体の知れない何かの生物が棲みついている可能性もある。
そこで俺は思いきり手を叩き、その反応を確かめてみる事にした。
「パチンパチン、パチンパチン」
しかし何の反応も無かった。
そして次に恐怖心を持ちながらも声を掛けてみた。
「おーい誰か居るのか?」
しかしシーンとしたままであった。
そこで俺はどうしても中の様子が知りたくなり、行動に移してみる事にした。
背負っていたリュックを降ろし、懐中電灯だけを手に持ち腹這いになり、くり貫いた入り口から体を捩じ込んでいった。
そしてやっとの思いで潜り抜け、立ち上がってみた。
すると足元はクッションが効いており、東南東の方角の上方を見上げてみると大きな丸い穴が開いていた。
そしてそこからは柔らかな日差しと共に、爽やかなそよ風が入り込んできていた。
「やはり、この場所だったんだ。
権現岳山頂から見えていた丸い穴は、これだったんだ。
間違いない」
次に俺は懐中電灯で照らし、中の全体の様子も見回してみた。
円形状になっているその内部は、畳8畳分くらいの広さがあり、東南東の方角に開いている丸い穴の対角線上の位置には、直径で1mほどあるお皿状の物があった。
俺は懐中電灯で照らしながら近づいて行き、それに触れてみた。
すると触感的には稲藁のような感じで、程よくクッションが効いており、中央に行くほど窪みが深くなっていた。
そしてその円形状の一番窪みが深い所には、阿寒湖で有名なマリモに良く似た物体が3個転がっていた。
俺はその不思議な物体に、至近距離から懐中電灯の光を直接あててみた。
すると神秘的な緑色の蛍光色が現れ始め、それは徐々に照度を増してゆき、終いには眩し過ぎるほどの耀きを放つようになってきたのである。
「やはりこの物体は、光に対して反応するみたいだな」
俺の好奇心はピークを迎え、他にも生物や物質が存在しないかを隅々まで探してみた。
しかしこのマリモに似た物体以外には何も発見出来なかった。
そこで俺は考えた。
「俺が権現岳の山頂から見た眩しすぎるほどの金色の耀きは、いったい何だったのであろうか?場所的にはここで間違いないと思うのだが。
ん、もしかするとこのマリモに似ている物体は、ライトに対しては緑色に発光し、そしてまた太陽光を浴びた時には金色に耀くという特徴を持ち合わせているのかも知れないな。
しかしこの物体の正体は、いったい何なのか?
鳥の卵なのか?それともただの苔玉なのか?」
俺は軍手をはめてから触れてみることにした。
するとそれは適度に柔らかく、そして持ち上げてみると思っていたよりも軽く感じられた。
直径は15cmほどあり、鼻を近づけてみたのだが匂いは全くしなかった。
「どうやら何かの卵では無さそうだな」
俺はその物体を両手で持ちながら考えてみた。
「この場所はどう見ても自然に出来た物だとは、とても思えない。
普通に考えてみると何らかの生物の棲家であったのだろう。
しかし地上には出入り口が無く、東南東の方角の上部に開いている、あの丸い穴から出入りしていたという事を考えると、鳥類しか思いつかないよなあ。
しかも直径で1m以上もある穴の大きさからして、よほど大きな鳥の棲家であった可能性が高いな。
しかし待てよ!
高松塚古墳から新たに発見された文字が、この場所のことを表しているのだとすると、このフワフワしているマリモみたいな物体が鳳凰その物という事になる。
もう何がなんだか分からなくなってきたぞ」
俺の思考能力は肉体の疲れもあり混乱を極めていた。
「これ自体が鳳凰だと言うのか?
それともこの場所が、その鳳凰の棲家であり、この緑色の物体がその遺物であると言うのか?」
今この場所で、その答えを導き出そうとはしたものの結局解答は出てこなかった。
そこで俺は、このマリモに似た物体を持ち帰ろうと考えた。
しかしである。
もしこの場所が伝説の鳥と関係しているのだとすると、将来またその鳥がここへ戻って来た時に、自分の痕跡が全てが無くなっていた事を知ると、嘆き悲しむかも知れないと思った。
そこで俺は一つだけは残しておき、二つをコンビニ袋に入れて持ち帰ることにした。

そしてこの中へと入って来た時と同じようにして腹這いになり、足の方から抜け出して、先ほどくり貫いた枝葉も元の状態に戻しておいた。
その後、リュックを背負い山を下りながら考えていた。
「やはりここは、人が容易に近づける場所では無いな。
この大自然に囲まれた荘厳さといい、神秘的な雰囲気からして、もしかすると神様との約束の地であるのかも知れない」
俺は疲労困憊のなか、達成感に包まれながら最後の力を振りしぼり山を下っていった。
そして車の所へと戻ってきた頃には既に日は暮れていたのである。
その後、ねむい目を擦りながら車を運転し寮へと戻っていった。




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