第43話ここまでの化学反応が起こるとは

文字数 1,288文字

その後、梅雨時へと季節も変わり、動物実験の前日、マウスへの注入に使用する実験液の作製に取り掛かるため、7名全員で防塵服をまとい4階にある研究ルームへと向かった。
そして最初の作業として、リーダーから指名された最年少の松岡君が、粉末状になっている孔雀の羽から取り出した成分を、シャーレの中からスプーンで掬いビーカーの中へと移した。
その後30ccの溶媒液を少しずつ加えながら、よく撹拌させていったのである。
そしてその出来上がった溶液の中へ、不思議なマリモから抽出した新型化合物3種の残っていた希釈液を、すべて混ぜ合わせてみる事にした。
そこで松岡君が、その試験管の中に入っている3種の希釈液を、孔雀の羽から取り出した成分の溶液の中へと、ガラス棒で撹拌させながら混入させていった。
そしてすべてを注入し終わってから、直ぐの事であった。
そのビーカーの中で化学反応が起き始め、ブクブク、ブクブクと気泡が上がってきたのだ。
その異変に気付いた松岡君は慌ててガラス棒を引き抜き、作業台から離れていった。
またその事態を見ていた他の6名も、それに連られて後退りをして行き、遠巻きにその様子を眺めることにした。
するとその化学反応は次第に威力を増してゆき、音も大きくなり、終いには湯気までもが発生し始めたのであった。
その状態が5分間ほど続き、そして徐々に沈静化していったのである。
その後暫くしてから、恐る恐るではあるのだが皆んなで作業台へと近付いて行き、その様子をビーカーの上から覗き込んでみた。 するとその深緑色した液体からは、まだ湯気が出ていたのであった。
そこで俺は思った。
「先ほどの勢いからして、いったい何度まで上昇したのだろう?
もしかすると沸点まで到達してしまったのかも?
これは相当な化学反応が起きたのかも知れないぞ」
そしてそのまま観察を続けていると、次第に色が変化して来たのである。
深緑色だった液体が淡い緑色へと変わってゆき、その後、黄緑色から黄色へとなり、終いには透明な液体へと変わっていった。
その色の変化を見ていた他の研究員たちも、ただ呆気に取られているだけで、いま目の前で起きた現象に関しても信じられないというような表情をしていた。
しかしであった。
ビーカーの中の様子を側面からよく見てみると、細かい粒子がキラキラと光っているのが確認出来たのである。
そしてそれは何なのかという話になり、一人ずつ拡大鏡を使い、懐中電灯で照らしながら観察をしてみた。
するとそこには金色に光耀く微粒子が、透明な液体の中で無数に漂っていたのであった。
しかしその微粒子と透明な液体との比重が同じなのであろうか、いつまで経ってもそれが沈殿することは無かった。
その後、そのビーカーを無菌室で保管することにして、この日は研究ルームを後にした。
そして防塵服を脱ぎ、階下のミーティングルームへと戻る移動中もメンバーの表情は明るく、前向きな発言が多く飛び交っていた。
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