第40話上野動物園に行くぞ

文字数 1,619文字

そして翌日の日曜日、始発ののぞみに乗り上野動物園を目指した。
東京駅で山手線に乗り換え、上野駅で立ち食い蕎麦を食べてから公園口へと降り立った。
そして上野動物園の開園時刻である午前9時半には、早くも入園券売り場の長い行列に並んでいた。
少しずつその列は進んで行き、自分の順番になった時、俺は思い切って窓口の女性に聞いてみた。
「すみません、大人1枚と孔雀の羽が欲しいのですが?」
するとその若い女性はポカーンとした表情を見せたのち、何かを感じ取ってくれたのか
「はい、分かりました。
では副園長を呼び出しますので」
と言って園内放送をかけてくれたのであった。
すると暫くしてから、怪訝そうな顔をして副園長が入園券売り場の所まで来てくれた。
そこで俺は深々と頭を下げてから、名刺を差し出して話を聞いてもらう事にした。
「実はわたくし、製薬会社で新薬開発の研究をしておりまして、是非とも、その研究材料と致しまして孔雀の羽を分けて頂きたいのですが」
と話してみた。
すると副園長は柔和な表情へと変わり
「そういう事でしたら協力させてもらいましょう。
しかし生きている孔雀から抜き取ってお分けする訳にはいかないので、自然に抜け落ちた羽がないかを担当の飼育員に聞いてみましょう」
と言って携帯電話で話しながら孔雀の飼育室の所まで案内してくれたのであった。
するとそこの檻の前には、既にベテランの飼育員さんが待ってくれていた。
副園長にはそこでお礼を言って別れ、そして飼育員の方に抜け落ちた孔雀の羽が保管してあるという、産業廃棄物の倉庫まで案内してもらう事になった。
そして鍵を開けて中に一緒に入ってみると、そこには象やキリンなどの大型動物の糞や、馬などの寝床に使用された寝藁などが、それぞれ分別して整然と保管されていた。
するとその飼育員さんが倉庫のいちばん奥の方まで案内してくれ、そこにあった奥深のコインロッカーの形に似た保管庫の引き出しをひき、中にあった孔雀の羽を取り出してくれた。
その後、一本ずつ数えてから手際よく新聞紙に包み
「この中に12本入ってますので、どうぞお持ち帰り下さい。
どうせこの先、廃棄する物ですから」
と言いながら手渡してくれた。
俺はその言葉に深々とお辞儀をしながら
「有り難うございます。
新薬の開発のために有効に使わせてもらいます」
と言ってから上野動物園を後にしたのであった。
そして山手線、つくばエクスプレスと乗り継ぎ、つくばへと戻る車内で俺は考えていた。
「今回の奈良県明日香村への訪問には成果があったな。
思い切って行ってみて本当に良かった。
これでこれからの不思議なマリモの実験研究に役立つ、大きなヒントが掴めた感じがする。
もし俺が考えているように現代にも生き続けている孔雀が、朱雀や鳳凰の子孫として奇跡的に代を継いでいるのだとすると、その体のどの部分に、最も濃いDNAを引き継いできているのであろうか?
それは孔雀の最大の特徴とする中に有るのかもな。
するとやはりこの羽に付いている、蛍光色の模様の中にヒントが隠されているはずだ。
不思議なマリモも、光を当てると緑色の蛍光色を発していたしな。
それに一番の注目点は、やはりこの飾り羽の中にある目玉マークの模様。
そこに遺伝子情報が最も色濃く残っていそうだな。
その模様の中の成分に、朱雀、鳳凰の遺伝子が百万分の一でもいいから残っていてくれないだろうか?
またそのDNAを最新の技術で取り出し、不思議なマリモから抽出した新型の化合物と化学反応を起こさせ、重篤な症状に苦しんでいる人たちに奇跡をもたらせる薬を作れないであろうか?
もしそうなれば、癌で亡くなった姉の無念さを少しでも晴らすことが出来るのだが」
こうして俺の妄想は、どんどんと膨れていった。
しかしそれはその後、妄想では終わらずに、少しずつ着実に現実化へと近づいて行くのであった。
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