第44話よし動物実験だ

文字数 1,813文字

そして待ちに待った動物実験当日となった。
俺は嬉しさで興奮のあまり、寝不足の状態で目を擦りながら会社へとやって来た。
その後7名で研究ルームへと移動し、本日の実験の準備を始める事となった。
先ず初めに井上君がガン幹細胞を植え付けられて、瀕死の状態になってしまっている2匹のマウスたちを飼育室まで迎えに行った。
そして松岡君も昨日から無菌室に保管してあった、孔雀の羽の成分と不思議なマリモから抽出した成分とを混合させた液体を、ビーカーごと運んできた。
その後、そのマウスたちを作業台の上に敷いた白いガーゼの上へと寝かせ、そして注射器の中にはビーカーの中に入っている混合液を10ccだけ吸い上げ、すっかりと実験の準備は整ったのである。
そして午前10時となり、いよいよその実験の時がやって来た。
雨宮リーダーの指示のもと、松岡君が右手に注射器を持ち、マウスの静脈へと、その混合液を注入していった。
最初のマウスへ2ccを、次いでもう一匹のマウスにも2ccを注入してから注射針を抜いた。
すると暫くしてからの事であった。
2匹のマウスたちの体に異変が起きてきた。
体の表面に近い静脈の中を、緑色した光が高速で駆け巡り始めたのだ。
しかもそれが10分間以上も続いたのである。
その華やかさは、まるでLEDを使用したイルミネーションのようにも見えていた。
その後、そのスピードは徐々に減速してゆき、そして止まる直前のことであった。
その色はいきなり金色へと変化し、そしてパッと消え去っていった。
その姿は正に神々しくもあった。
そしてその一連の様子を間近で見ていた俺も含めた研究者全員は、ただ目がテンになっているだけで声も出てこなかった。
その後、俺はハッと我に返り、こう思ったのである。
「今回の実験状況は、前回までのものとは明らかに違う。
これは想像を遥かに超える異次元の化学反応が、マウスの体内で起きたのかも知れない。
すると今度こそは、大いなる効果も期待できるかもな。
そうだ、俺の目に狂いは無かったんだ」

それからは午後5時になるまで経過観察を行う事となった。
すると実験前はくすんだ色だったものが、時間を追うごとにマウスの血色も赤みを帯びるようにとなって行き、そして張りと艶も急速に回復していったのである。
その様子を見ていた研究員たちのボルテージも次第に上昇してゆき、言葉数も増えていった。
そして無事に午後5時を迎えたところで2匹のマウスたちを飼育室へと運び込み、その後全員でミーティングルームへと戻ることとなった。
その研究ルームからミーティングルームへと移動する時にも、先ほど見た、マウスの血管内を緑色の光が高速で駆け巡っていた現象についての話題で盛り上がっていた。
そしてミーティングルームへと戻ってきた所で、雨宮リーダーより今回の実験についての経過報告、及び明日以降の展望についての話があった。
「本日はどうもご苦労様でした。
これまでの実験では、なかなか思うような成果が得られずに、皆さんも頭を悩ませていた事でしょう。
しかし今回行われた動物実験の様子を見た感じでは、今までの実験とは、まるで違った経過観察を、この目でハッキリと確認することが出来ました。
私もマウスの体内を、緑色した光が高速で駆け巡っていた現象に唖然としたのですが、それ以上にマウスたちの血色が急速に回復してきたことに関して、驚きを隠せません。
これほど早くに効果が現れてきたという事は、わたくしの今までの長い研究実験生活に於いても初めてです。
これで恐らくはマウスたちも、回復基調に乗っていくものと思われます。
何はともあれ、明日おこなう予定のCT検査と腫瘍マーカー検査との結果を待ちたいと思っております。
その結果次第では、人体を使った臨床試験にも道が開けて行きますし、近い将来には癌の完治薬が完成するという時代がやって来るのも、夢物語では無くなってくるのだと考えております。
そこで日頃の皆様の活躍に感謝するのと同時に、またこれからの努力に期待する意味も含めまして、慰労会を開催したいと思っております。
当然その費用は、会社からの研究関係費で賄いたいと思います。
皆さん如何でしょうか?」
するとそれは満場一致で賛同され、そして就業後に研究所の近くにある居酒屋へと全員で向かうことになった。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み