第49話ライクイート理論?

文字数 1,618文字

そしてまた三澤さんは、パソコンのキーボードを叩き始めたのであった。
その後、暫くしてから次のように語りだした。
「そして次に何故、今回の実験が癌細胞に対して劇的な効果を 発揮したのかを調べてみました。
そこで私は欧州の医療物理研究家でノーベル賞候補にも挙がったことのある方の、糖質に関しての研究論文を検索してみました。
するとそこには、ライクイート理論という題名の論文が載っていました。
その内容とは
『病にかかった時に発生する、その箇所特有の性質には、対抗物質や攻撃物質を使用して対処してみるのだけでは無く、少し視点を変えて考えてみることも必要である。
例えばその病巣が欲している物質である糖質を大量に、且つ持続的に注入していく事によって、その細胞が元来持っている許容量をオーバーさせて酸欠死を起こさせたり、または破裂をさせ、自滅させることが出来るのである。
その後、時間の経過と共に、その周りにある正常な細胞が浸潤してきて、元の元気な細胞に生まれ変わる』
という論文です。
この論文のおもしろい所は、ふつう動物であれば、いくら大好物であったとしても、お腹が一杯になれば脳内にある満腹中枢が働きセーブが効くのですが、細胞単体ではそれが出来ません。
好物を食べ始めると、止まらなくなってしまうのです。
それは細胞が栄養分を補給する手段として、本能的にプログラミングされている為です。
その結果、癌細胞内が酸欠状態になってしまったり、許容量をオーバーして破裂し壊死してしまうのです。
特に癌細胞の特徴としましては、体内にあるブドウ糖を貪欲に摂取し続けて体を衰弱させ、その結果、死に至らせるというものが有ります。
現にその特徴を活かして開発されたのがPET検査なのです。
患者さんの静脈からブドウ糖に似た検査薬を注入し、癌細胞が他の臓器へと転移していた場合、そこの癌細胞が大量にその検査薬を取り込もうとします。
するとそこに集中していった検査薬をPETの装置で撮影する事により、新たな癌の居場所を探しだすことが出来るのです。
しかし今回は、癌細胞が有しているその貪欲さが裏目に出た結果、このようになったのです。
言ってみれば、好きな物でも食べ過ぎると仇となる。
又は墓穴を掘るという事です。
しかし残念ながら、この理論の実験に成功した人は、いまだかつて一人もいなかったのです。
その理由としましては、その病巣が欲している物質を如何にして大量に、且つ持続的に注入させて行くという事が、大変に難しかった為です。
その点、今回の実験に使用した混合液の中には、動物の血液に反応する物質が入っていたのでしょう。
その為にマウスの静脈へと注入した途端、思ってもみなかった化学反応が起きたのです。
マウスの体内にあったブドウ糖が緑色の光線に乗り、全身にある血管内を隈なく高速で駆け巡り、癌細胞を次々と死滅させていったのです。
しかし今回の実験では、癌細胞のみに効果が現れたのでは無く、残念なことに同じくブドウ糖を大量に消費する大脳や小脳にまで、副作用としての症状が出てしまい、その結果、すべての記憶が消え去ってしまったのではないのでしょうか」

その三澤さんからの説明を7名全員が、真剣にメモをとりながら聞き入っていた。
そして最後に雨宮リーダーから三澤さんに対しての質問があった。
「今回はマウスによる動物実験だったのですが、同じことを人間の患者さんに行った場合には、どのようになりますか?」
すると三澤さんは、こう答えた。
「そうですね、同じ性質を持っている哺乳類同士なので結果は同じだと思います。
しかしマウスと人間とでは当然の事ながら体格差も有りますので、効き目と副作用との関係には差が出てくるものと思われます。
それは実際に臨床試験をしてみなければ分からない事ですが」
その後、全員で三澤さんにお礼を言い、この日は散会となった。





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