第12話黄金に耀いた

文字数 2,069文字

正面玄関の扉を開け表に出てみると、6月下旬の太陽の日差しは眩しいほどであった。
そして他の車の邪魔にならぬようにと奥の方の場所を選び、トレイの上に載せたままの状態で、その丸い物体一つを地面の上に置いてみた。
すると何という事であろうか、湿らせてある新聞紙越しにでは有るのだが、微かに金色に発光してきたのが確認出来たのであった。
俺はその瞬間、思わず胸を撫で下ろしていた。
そして「いいぞいいぞ、これで大いに期待が持てるようになって来たぞ」
とほくそ笑んでいた。
すると周りからは8人の反応が声となって表れてきた。
「オー何だ、光ってきたぞ」
「こんな現象は見たことが無いぞ」
「とても神秘的な耀きだ、素晴らしい」
その他にも
「オーオー凄い凄い」
といった歓声も多く上がり、俺は全員が動揺している様子を肌で感じていた。
その後、8人が、その丸い物体に近づいて来て、熱心にその視線を集中させている光景を2~3m後方から眺めていた俺は嬉しく感じ、またこうも考えていた。
「流石に研究職一筋の人たちだ。
いま、目の前で起きている不思議な現象に、研究者魂と好奇心に火が着いたのであろう。
先ほどまでとは明らかに目の色が変わってきている」
そして皆のざわめきが収まってきた所で俺は、その物体を包んであった湿った新聞紙を解いてみる事にした。
しかしそこで俺の脳裏に不安がよぎった。
「そうだ、離れた場所であった権現岳の山頂から見た時でさえ眩しさを感じたほどであったのだから、こんな至近距離から直に見てしまうと角膜を痛めてしまう恐れがある」
そこで俺は周りにいる仲間たちに聞いてみた。
「誰かサングラスを持っている人はいませんか?」
するとその中にいた田中さんが
「あ、俺が持ってるよ」
と言いながら自家用車のダッシュボードに入れてあるというサングラスを取りに行ってくれた。
その後、俺はそのサングラスを借りて掛けてからこう言った。
「これから包んである新聞紙を解こうと思うのですが、この物体は太陽光に対して強烈な耀き方をします。
皆さんの目に障害が起きてはいけないので、離れた場所まで下がってはもらえないでしょうか?」
するとその説明に納得した8名は、広い駐車場の端である約百メートル離れた所にまで移動してくれて、遠巻きに見てくれる事になった。

そして運命の時がやって来た。
その時、すでに俺の心臓の鼓動はピークを迎えていた。
俺は8人の仲間たちが遠くから見守る中、その丸い物体を仲間たちとの間に挟むような形で腰を下ろした。
そして右手を使い、包んである新聞紙の端を掴み、左手を頭の上へと挙げた。
その後、その左手の指を使いカウントダウンを始めたのである。
5、4、3、2、1、ゴーの掛け声と共に俺はその新聞紙を勢いよくスルスルーッと捲り上げた。
するとその丸い物体は四角いトレイの中を2回転ほどしてからトレイの角の所で止まったのである。
それを確認した俺は目を逸らしながら後退りしていった。
そして20mほどであろうか下がった位置から、ユックリと顔を上げてみた。
するとその丸い物体は鈍い光を放ったのち、あっという間に黄金の耀きへと変化していった。
その姿はサングラス越しの俺の目にも神々しく見えていた。
「思っていた通り、この丸い物体は本物だった。
鳳凰なんだ。
いったいどれくらいの未知のパワーを秘めているのだろうか?」

その後俺は暫くの間、その黄金に耀く物体を見続けていた。
するとその耀く物体を間に置いて、遠くの対面にいる仲間たちの方から声が聞こえてきた。
「小林さーん、おめでとうございます」
「疑っていて済みませんでした」
「本当だったんですね」
俺は頭を上げ仲間たちの方を向いてみると、8人全員が両手で大きく手を振ってくれていた。
「これで皆は俺の話を信じてくれたんだ。
納得してくれたんだ。
俺も実際に権現岳山頂から見た現象と同じことが起きてくれるのかが不安だったのだけれども、これで証明出来て良かった。
もしこれで耀かなければ、虚言人間としてのレッテルを貼られてしまう所だった。
ああ良かった」
その後俺は、その丸い物体にユックリと近づいて行き、持っていた新聞紙をそっと被せた。
すると発せられていた金色の光は徐々に薄れていった。
そこで俺は今の耀き方の原理が知りたくなり、恐る恐る新聞紙の上から手をかざしてみたのだが、熱を感じることは無かった。
「いったいどうして金色に耀いたのであろうか?太陽光を受けても熱くはなっていないし」
俺の頭の中では益々、謎が深まるばかりであった。
そうしている内に研究室仲間の8人が俺の元へと近づいて来てくれて、木村君がこう話し掛けてきた。
「小林さん、本当だったんですね。
あんな耀き方をするなんて、もうビックリしちゃいましたよ」
すると、その周りにいた7人からも拍手が沸き起こった。
その皆が祝福してくれている状況に俺は、今後進めて行く実験に弾みがついたという事を頭の中で確信した。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み