第19話こんなにも多くの成分が含まれていたのか

文字数 2,654文字

しかしそれからの分離作業と成分のデータ化とが、完全に終了するまでには3時間は要するのではないのかという話は、あらかじめ聞かされていた。
その時、時計は既に11時半を指しており、ミーティングルームに居るリーダーの雨宮君からモニターを通しての指示が入ってきた。
「成分分析の全ての結果が出るまでには時間が空くので、その間に昼食をとって下さい」
との事であった。
その指示に従い6人揃って研究ルームを出て食堂へと向かったのだが、リーダーの雨宮君だけはモニター越しに研究ルームの様子を見続ける事となった。
そして6人で食事をとりながらも、今回の成分分析に関する皆の期待する声が多く挙がっていた。
俺はその会話を聞きながら
「やってここまで来ることが出来た。
癌の完治薬の製品化にも一歩ずつではあるが近づいているな」
と夢の実現に思いを馳せていた。
その後、時間を見計らって6人で4階の研究ルームへと戻ってきた。
そして自動分析装置が停止するまでの間、作業台の前にある椅子に座り待つことにした。
いよいよ、その時が近づいてきたのだ。
俺は手のひらに汗をかき、今か今かという思いで待っていた。
そして終了予定時刻となり全員で装置の前へと近づいていったのだが、その全自動成分分析装置は止まる気配もなく動き続けていた。
そのまま30分、1時間と時が過ぎて行き、その間、ただ見守り続けることしか出来ないでいた。
そうしていると、ミーティングルームからモニター越しに観察していた雨宮リーダーからの連絡が入ってきた。
「皆さん、ご苦労さまです。
本日成分分析を行っている不思議なマリモには、過去に例が無かったほど大量の種類の成分が含まれている可能性が有ります。
もう暫く時間が掛かりそうなので、どうぞ椅子に腰掛けてお待ち下さい」
それを聞いた6人は元の椅子へと戻り、そこから装置のランプの色が変わるのを待つことにした。
しかしそれからも、なかなか終了する気配は感じられなかった。
ただ椅子に座りランプの色を見つめているだけなのだが、俺も含めた6名全員に疲労の色が見られるようになってきた。
作業台に片肘をつく者、また両手で頬杖をつく者までが出てきた。
そして俺も待ちくたびれてしまい、うつらうつらとし始めた時であった。
全自動成分分析装置の全作業終了を知らせる青いランプの点灯と共に、ピイーッというブザーが鳴り響いたのである。
その時俺は咄嗟に時計を見てみたのだが、午後7時を疾うに過ぎていた。
するとミーティングルームにいる雨宮リーダーから、装置の右側上部にあるデータアウトプットボタンを押して下さいとの指示が入ってきた。
それに従い、藤井君がその赤いボタンを押してみた。
すると10cm幅の白いロール紙が文字を印字しながら排出を始めたのである。
そこには不思議なマリモの中に含まれる全成分の項目と、その質量とがプリントアウトされる仕組みになっているのだという。
しかし一般的な物質の成分分析検査の場合、そのデータの排出には大概30秒以内で終了するそうなのだが、今回の不思議なマリモの成分データの排出は、その想像を遥かに越えて3分間以上も続いたのであった。
その間にロール紙は床面へと届いてしまい、更にそのまま滑りながら送り出されていったのである。
そしてやっとアウトプットの終了を知らせるブザーの音と共に停止したのでは有るが、その記録紙の長さは優に3mを超えていた。
その様子を見届けた6人は、ただ呆気に取られるだけであった。
暫くして藤井君がこう言い出した。
「私もこれほど長いデータ表を見るのは初めてです。
これだけ多くの種類の成分が検出されたのだとしますと、希少で貴重な成分も含まれているのではないのかと期待も持てます」
その後、自動分析装置から排出された不思議なマリモの成分分析データ表を橋本君が切り取り、ロール状にしてからミーティングルームへと持ち帰り、この日の作業は終了となった。

そして翌日は朝から7名揃っての検討会議が開かれる事になった。
先ず初めにリーダーの雨宮君が不思議なマリモの成分分析データ表を見ながら、一項目ずつの成分をホワイトボードに書き記していった。
するとそこには馴染みのある窒素、酸素、水素から始まり、ナトリウム、マグネシウム、硫黄へと進んで行き、そして金、銀、銅へと続いていった。
その後、今までには知ることの無かったスカンジウム、セレン、ビスマスといった文字も表れてきた。
そう続いていく内におもて面だけでは書ききれずに、雨宮リーダーはホワイトボードを反転させてその続きを書いていった。
そしてその書き記し続けていた成分名が裏面にもギッシリと埋まった所で、ようやく雨宮リーダーの手が止まり、そしてこう言ったのだ。
「ここまでが不思議なマリモを形成していた成分の内訳となります。
これだけの127という種類が確認された事に関しまして私は驚きを隠せません。
それと言うのも現在地球上の自然界に存在していると言われている90種類の元素すべてが、この中に含まれているのです。
その他にアンモニア、塩酸、カフェイン、二酸化炭素、メタン、硫酸などの化合物も多数確認されました。
それと意外な物質としては特に地球の地殻上に多く存在していると言われているケイ素化合物も多く発見されたのですが、私が今回最も驚いた事としましては幻と言われている3種類の新型化合物が混入していたのです。
それら3種の新型化合物は私も以前に書物で見たことが有るのですが、西洋の神話の中にも登場してくる物質なのです。
それらは奇跡を引き起こす液体として、西洋人たちには古くから信じられています。
そしてその書物の文章の終わりには、それらを同時に体内へと取り入れると、フェニックスが現れるという意味深な言葉遣いで締められているのです。
しかしその3種類とも、世界中の化学者たちが今まで人工的に作り出そうとはしていたのですが、超高圧と超高温での合成が必要な為、今のところまだ作製に成功した人はいないのです。
それらの事を総合的に判断してみますと、不思議なマリモには地球内部に存在するマグマと密接な関係が有るものと考えられます」
それを聞いていた俺は思った。
「やはり不思議なマリモには、俺が想像していた通りに特別な成分が含まれていたんだ。
その成分を利用して、今までに無かった新薬の開発に繋がっていってくれれば良いのだが」

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