第35話またしても実験は失敗に終わった

文字数 1,413文字

そして日が変わり1月8日となり、研究所へと出社して新年の挨拶を済ませた。
その後、さっそく実験の準備に取り掛かることになった。
前回と同様に、動物実験に使用するマウスへのガン幹細胞の植え付け作業を藤井君と若手の二人に任せて、他の4人は4階にある研究ルームへと向かった。
そして空調が完備されている保管庫から、一つだけ残っていた不思議なマリモを取り出してきて、成形をしてから、前回と同じく全自動成分分析装置へとかけた。
それから9時間後、装置内での全作業が終了し、3種類の新型化合物を抽出することが出来たのであった。

それから4週間が経過し、マウスに植え付けられたガン細胞の増殖具合が前回と同程度であることが確認された。
そしてその日のうちに、雨宮リーダーから実験開始の日が2月7日に決まったとの連絡が入った。
週が明け実験当日となり、ミーティングルームの隣にある作業室へと7名全員が勢揃いした。
そして始業時間を知らせる9時のチャイムが鳴り、今回使用する癌治療薬であるオプジーボを藤井君が薬品庫へと取りに向かった。
この薬とは高額な薬価で世間を騒がせた事もある免疫チェックポイント阻害薬である。
今までの抗癌剤のように直接、ガン細胞を攻撃するのでは無く、自分の体内にある免疫細胞を活性化させて、その力でガン細胞を攻撃し続けられるようにするという薬である。
その薬効としては一部の人にでは有るのだが、今までの抗癌剤とは比較にならぬほどの、劇的な治癒能力が確認されている。
その薬を不思議なマリモから抽出した3種類の新型化合物と合成させて、より強力な治癒力を発揮する新薬を開発するというのが今回の実験の目的でもあった。
その後、予定通りに実験は順調に進んでいった。
しかしである。
3種類の新型化合物であるA、B、Cの希釈液とオプジーボとを合成させた実験液の注入と、オプジーボのみを注入した動物実験の結果を比較検証してみたところ、奏効率で見てみると大きな隔たりが無いことが分かった。
その結果、またしても実験は失敗に終わってしまい、7人全員が落胆の色を隠せなかった。
そして暫くして雨宮リーダーから、今後に向けての説明があった。
「今回も残念な結果には終わってしまいましたけれども、私は望みを捨ててはおりません。
予定していた通りに生薬との混合実験は行います。
山深い所で発見された不思議なマリモと大自然由来の生薬とでは、意外と相性が良いのかも知れませんから」
そのリーダーの自信無さげな言い回しが、俺には気になっていた。

それからまたひと月が過ぎ、当初の予定通りに冬虫夏草、朝鮮人参、鹿茸の三大漢方を使用しての動物実験を行うこととなった。
それら3種の漢方を粉末状にしてから混合させ、そして溶液に浸けた。
そしてそれを3種類の新型化合物と合成させてから、7 日間続けてマウスに注入していった。
その後、一週間経過してから検証をしてみたのだが、過去の実験と同様に、またしても大きな成果は得られなかったのである。
これでとうとう不思議なマリモから抽出された新型化合物3種の希釈液の残量が、それぞれが7ccずつとなってしまい、あと実験一回分を残すのみとなってしまった。
そしてその日のうちに雨宮リーダーの口から、不思議なマリモに関しての実験を当分の間休止し、充電期間を設けるという事が発表された。
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