第37話高松塚古墳へとやって来たぞ

文字数 2,315文字

そして当日となり、始発電車のつくばエクスプレスに乗り、山手線、東海道新幹線と乗り継ぎ、京都駅からは近鉄電車へと乗り換えて、一度は訪れてみたいと思っていた明日香駅へと到着したのである。
そして駅へと降り立った瞬間に俺は感じた。
「なんて長閑な所なんだろう。
この辺りが本当に古の都があった場所だなんて信じられないな。
しかし緑も多くて里山の雰囲気もあり、とてもいい所だな」
その後改札を抜け、階段を数段下った所で立ち止まってみた。
「あ、あそこにレンタサイクルがあるぞ。
丁度いいや、今日は自転車で行動する事にしよう。
チャリンチャリン出発進行。
よし早速、高松塚古墳に行ってみるか」
「今日は天気もいいし気持ちいいな。
あ、この標識を右に曲がればいいんだ。
え、もう着いちゃったのか?
こんなに駅から近いんだ」
観光ガイドにも書いてあった通り、高松塚古墳自体は公開されてはいないので、そこで隣接地に建つ高松塚壁面館に入ってみることにした。
入場料金を払い、館内ガイドをもらってから入館してみたのだが、週末という事もあり団体客もいて大変混雑していた。
人を掻き分け館内を進んで行くと、石室内の壁画を模写して作られたというレプリカが展示してあった。
「ええ、高松塚古墳は7世紀末から8世紀初頭にかけて造られた古墳なんだ。
だけど誰が被葬されていたのかは分かっていないんだな。
なになに、木製の棺桶が安置されていた石室は長さ265cm、幅が103cmで高さが113cmしかないんだ。
意外と狭いんだ。
その石室内の西壁と東壁にはそれぞれ、女子群像と男子群像とが描かれていたんだ。
あ、この西壁の女子群像は教科書でみたことがあるな。
これが飛鳥美人か。
どことなく、うちの嫁さんにも似ているな。
アハハ。
しかしビックリだなあ、色も鮮やかだし、とても1300年も前に描かれた絵だとは思えないなあ。
それと副葬品として海獣葡萄鏡やガラス玉、それに琥珀玉も石室内に入れてあったそうなのだが、盗掘被害に遭ってしまい全て失われてしまったのか。
だけどなあ、不思議なマリモのヒントとなるような物は見つからないなあ。
しょうがない、混んでいることだし他の史跡も自転車で廻ってみるとするか?
もしかすると、なにか関連する物が見つかるかも知れないからな。
よし、次はここから10分ほどの場所にある伝板葺の宮跡へと行ってみるか」
チャリンチャリン

長閑な田園風景の中を進んで行くと、早くも次の目的地に到着した。
そして駐輪場へと停めてから、立て看板に書いてある説明書きを読んでみた。
すると「え、昔この場所に女帝でもあった皇極天皇の皇居があったんだ。
それとなになに、この場所が大化の改新が起きた舞台になった所とも書いてあるぞ。
ヒェーッ、そんな歴史の分岐点となった場所が俺の目の前にあるなんて、なんか不思議な感覚だなあ。
今では10メートル四方の石組みが残っているだけなのに。
この場所で歴史が変わったんだ。
やるな明日香村、凄いぞ明日香村。
なんか俄然、この明日香村に興味が湧いてきたぞ。
さて次は、どこに行こうかな?
観光ガイドにも載っていた飛鳥寺にでも行ってみるとするか」
チャリンチャリン

到着してから広い駐輪場に自転車を置き、拝観料を払い境内へと入っていった。
そして本堂へと向かい、靴を脱ぎ板張りの廊下を歩いて行くと、そこには国内最古の仏像と言われている飛鳥大仏が鎮座していた。
高さにして3mほどは有るそうで、その柔和な表情から俺のことを迎え入れてくれているような気もしてきた。
「有り難うございます。
貴方が私のことを引き寄せてくれたのかも知れませんね。
古の時代からどれほど多くの人々たちが、貴方に救いの手を求めて来たのでしょう。
そしてそれは身分の高い低いには関係なく、平等に扱ってくれたものだと私は信じております」
俺もその御仏に手を合わせ、家族の健康と実験の成功とを祈願した。
その後、飛鳥大仏に別れを告げ駐輪場に設置してあるベンチで缶コーヒーを飲みながら、次の行程を思案していた時であった。
隣に腰掛けていた、いかにも話好きそうな初老の男性からレクチャーを受けることになった。
その方によると、この場所の近くにある飛鳥池遺跡から平成10年に富本銭という銅貨が見つかったとの事であった。
その富本銭はそれまで国内最古の通貨だと思われてきた和同開珎よりも、更に25年ほど前の西暦683年頃に造られた銅銭だという。
ここの明日香村には、日本で初めてという事柄が沢山あるのだなと俺は感心させられた。
続けてその男性は、飛鳥水落遺跡についても説明してくれたのであった。
それも我が国で初めて作られた時計だそうで、水時計の遺跡だという。
今から1300年以上も前に当時の皇太子が2階建ての建造物を作らせて、その1階には近くを流れる飛鳥川から水を引き、時刻を計っていたのだという。
それは複雑な構造をしていて、かなり精度も高かったようである。
しかもその2階には大きな鐘が吊るしてあり、その鐘を叩いて都に時刻を知らせていたのだそうだ。
「凄いなあ、当時の人々も大陸から色々な知識や技術を取り入れてきて、実際にそれと同じものを作っちゃったんだな。
俺よりも、よほど頭のいい人たちが当時から沢山いたんだ、アハハ」
その男性からのレクチャーは嬉しかったのだが、俺にはまだ行ってみたい所があった。
そこで申し訳なかったのでは有るのだが、その男性の話を途中で遮り、お礼を言ってから足早に自転車へと跨がった。
チャリンチャリン

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