第78話警察に出向くこととなった

文字数 1,432文字

そして今までに、心配や迷惑を掛けてきた人たちの顔を思い浮かべながら、やっと肩の荷が下りたことを実感していた。
その後、その弁護士の方から是非とも直接、真知子に会ってみたいというふうに懇願されたのであった。
すると辰男は、その願いを快く受け入れ、席を立ち真知子のことを迎えにいった。
そして手を引いてきて、リビングへと入りソファーに座らせた。
するとその弁護士は、正面に座る真知子の顔をよく見てから、こう言ったのである。
「肌艶も良く血色も良さそうですね。
特に口の周りなんか、脂ぎって見えるほどテカテカですね」
そう言われて辰男は嬉しさ半分、恥ずかしさ半分の心境であった。
さすがに、いま大口を開けてピザを食べていた所ですからとは言えなかったのである。
そして弁護士は、真知子に向かって話し掛けてみた。
「こんばんわ、元気になられて良かったですね。
自分の名前は言えますか?」
しかし真知子は、その問い掛けに対し、まったくの無反応であった。
そしてその真知子の様子を見てから弁護士は、辰男に向かって語りだした。
「奥さまがお元気になられて本当に何よりです。
これからの訓練も大変だとは思いますが焦らずに、ゆっくりと奥さまのことを支えていってあげて下さい。
それとですね、近いうちに警察から任意での出頭要請があり、事情聴取が行われるかも知れません。
そこでも、いま小林さんがお話しされた事を、すべて正直に話してもらって結構です。
いまお聞きした内容からして、起訴される可能性は極めて低いですから。
そして本日伺った話の内容は明日、会社の方にも連絡をさせて頂きます。
では私はこれで。
今日は本当に有り難うございました」
と言いながら立ち上がった。
すると辰男は、その顧問弁護士にお礼を言ってから玄関先まで見送りに出たのであった。
その後リビングへと戻ると、心配顔をした二人の娘たちが入って来た。
そして梓が辰男に聞いてきた。
「お父さん、弁護士さんの話、どうだった?
大丈夫だった?」
すると辰男はホッとした表情を見せながら、こう返したのである。
「弁護士さんが言うのには恐らく大丈夫だって。
お父さんが警察に逮捕される事は、ないだろうってさ。
そして近いうちに警察から呼び出される事が有るかも知れないけれど、心配はいらないって言ってたよ」
それを聞いた娘たちは、安堵の表情へと変わっていった。
それから二日後のことであった。
弁護士に言われていた通り、警察からの出頭要請があった。
そして指定された日時に、区内にある警察署へと出向くことになり、その当日、自宅の玄関を出ていった。
そして辰男はバス通りまで歩いて行き、そこでタクシーを拾い、そのまま警察署へと向かったのである。
そして玄関前へと到着し、ドアが開き、歩き始めた時であった。
どこから情報を聞き付けて来たのか、マスコミのレポーターやカメラマンたちが、大挙してそこに押し寄せていたのである。
しかし辰男は、激しくフラッシュを浴びせられる中、たじろぎもせずに堂々と、その署内へと入っていった。
そしてその後、3階にある取り調べ室へと案内され、そこで2時間にも及ぶ尋問を受けることとなった。
そこでは顧問弁護士に言われていた通りに、自分の知っている事を、すべて包み隠さず正直に話した。
その後、警察署でタクシーを手配してもらい、カメラのフラッシュを浴びる中、車に乗り込み自宅へと帰っていった。


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