第41話DNAの解析をお願いしよう

文字数 1,949文字

翌日の月曜日の朝、俺は雨宮リーダーと連絡をとり、メンバー全員に召集を掛けてもらいミーティングルームへと集まってもらった。
そして俺はリーダーの了解を得て、この二日間のあいだに体験してきた事を、ホワイトボードに書き記しながら説明していったのである。
すると話が進むにつれ雨宮リーダーを含めた6名全員が興味を持ち始め、次第にその視線にも力強さが増してきていた。
黒マジックを握りながら説明をしている俺にも、その6人の気持ちは痛いほど良く分かっていたのだ。
それは不思議なマリモから抽出した新型化合物の実験を始めてから5ヶ月以上も経過していながら、未だに何の成果も挙げられずにいたからである。
それに現状としては八方塞がりの状態にも陥ってしまっている。
その為にも俺の話の中に、何か突破口にでもなるようなヒントを得ようとして、全員が必死なのであった。
そして俺の説明は15分ほど続いて終了した。
しかしである。 その内容が皆んなからしてみると、突拍子もない話ではあったので、最後の頃には疑心暗鬼の表情へと変わっていた。
そこで俺は、その不信感に包まれた部屋の雰囲気を変えたいと思い、次のような行動に出てみた。
前日に上野動物園から貰ってきた孔雀の羽を作業台の上へと置き、青、紺、緑の蛍光色を放つ模様を指さして、強い口調でこう言ったのだ。
「私はこの孔雀の飾り羽の最大の特徴でもある妖しい目玉模様の中に、太古からの遺伝子情報が最も色濃く残されているのでは無いのかと思うのです。
何とかその情報を取り出すことは出来ないでしょうか?」
その迫力のある言葉に6人は呆気にとられていた。
すると少しの間、間を置いてから、遺伝子工学に詳しい橋本君が説明してくれた。
「遺伝子に関する研究は日進月歩を続けておりまして、我が社にも導入されているDNA解析装置にかけますと、このぐらいの少量の物質でもDNAの検出は可能です。
そして既に検出されている不思議なマリモのDNAと一致すれば、同じ祖先に辿り着くという事です」
俺はその言葉を聞いて、是非ともこの孔雀の羽のDNA解析をして欲しいと思い、そのことを雨宮リーダーに懇願したのであった。
それを受け雨宮リーダーはさっそく、上司に電話で掛け合ってくれたのだが、準備も含めてその決裁が下りるまでには一週間ほど掛かるとの事であった。
その後ミーティングは終了し、この日は散会となった。
それから一週間が経過し、孔雀の羽のDNA解析に許可が下りたことを俺は雨宮リーダーから伝え聞いた。
それから更に5日間が経ち、DNA解析の当日がやって来た。
その日の朝、俺自身がH棟5階にあるヒトゲノム、DNA解析グループに孔雀の羽を持ち込むこととなった。
俺はその部屋へと向かいながら、徐々に緊張感が増してきていた。
それと言うのも、そのグループは我が社の中に於いても、特に優秀な人材が集められているという風に噂になるほど、一目を置かれている頭脳集団であったからである。
部屋の前へと到着した俺は、緊張した面持ちでドアをノックしてみた。
すると
「はいどうぞ、お入り下さい」
と優しい声で俺のことを迎え入れてくれた。
ドアをあけ中へと入って行くと、若き青年がパソコンの画面を操作していた座席から立ち上がり、握手を求めてきた。
そして俺のことは既に噂で聞いていたとの事で、次のように言葉を掛けてくれた。
「小林さんのことは、変わった略歴も含めて伺っております。
そして不思議なマリモにつきましても、面白そうな研究材料として常々、気には掛けておりました。
今回持ち込まれました孔雀の羽のDNA解析につきましても、真摯に向き合って行きたいと思っております。
そしてそのDNAが不思議なマリモのDNAと一致することを、心から願っております」
その有り難い言葉をもらい、俺は感動していた。
実を言うと、ここのグループに所属している研究員たちはエリートで有るのと同時に、プライドも非常に高いと聞かされていたからであった。
今回この部屋を訪ねて来た時にも、つっけんどんな対応や上から目線的な態度を取られるのでは無いのかとも思っていたのだ。
しかし俺の空想した、いや妄想的な考え方にも、正面から向き合ってくれている事に対して、感謝の気持ちで一杯になった。
そしてまた俺は、そこまで思いやりのある温かい言葉を貰えるとは思ってもいなかったので、逆に拍子抜けしてしまった部分もあったのだ。
その後俺は、その人の名札に書いてある名前をしっかりと記憶に留めてから部屋を後にした。
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