第13話不思議なマリモに命名した

文字数 1,294文字

それから丸い物体を四角いトレイに載せたままの状態で研究室へと持ち帰り、暗い無菌室の中で保管することにした。
その後、会議中であった研究室長も加わり、10名全員で緊急会議を開くこととなった。
そこで先ず議題として挙がってきたのが、今後どのようにして研究実験を進めて行けば良いのだろうかと言う話になり皆の意見を聞いてみたところ、科学的な成分分析を行うことが最優先の課題であるとの認識で一致した。
しかしその為には、ここの山梨県北杜市にある第二研究所ではなく、最新の成分分析装置を導入している茨城県つくば市にある第一研究所へと持ち込んだ方が良いとの事であった。
そしてその日程も研究室長が調整してくれる事となり、緊急会議も終了を迎えようとしていた。
すると最年少の木村君が、こんなことを言い出したのである。
「折角ですからこの際、この丸い物体に名前を付けてみませんか?
僕の提案としましては、見た目が阿寒湖に生息しているマリモにソックリなのと、実態がまだ掴めていない事も含めて、不思議なマリモが良いと思うのですが」
すると周りからは一瞬、笑いが漏れたのだが賛成の意見が相次いで出てきた。
「面白いねえ」
「それもいいんじゃない」
「賛成、賛成」
「どこかで似た言葉を聞いた事があるけれど、まあいいか」
など、その全てが肯定的なもので占められており、その後満場一致で決定したのであった。
それ以降その丸い物体は、社内では不思議なマリモと呼ばれるようになったのである。
さすがに我が研究室で最年少の木村君はムードメーカーである。
その後、その不思議なマリモの話題も瞬く間に社内中へと広がり、本社のある丸の内でも重役会議の議題に挙がったとの話も伝え聞いた。

そして前回の駐車場での不思議なマリモの発光実験から3週間が過ぎた頃、ようやく研究室長から成分分析の日程表をもらうことが出来た。
それには次のような内容が記載されていた。
表紙には不思議なマリモプロジェクトという題が記されており、そのページを捲ってみた。
①第一研究所への移送日は7月25、26日に決定致しました。
②社有車を使用して自らが責任を持って運搬して下さい。
それと助手として1名を付けること。
③安全を確保するため、1泊2日の行程とします。但し、宿の手配は第一研究所の方で済ませてあります。
④絶対に公共交通機関を利用しないで下さい。
⑤不思議なマリモの実態が、まだ解明されていないので、厳重に梱包して自然発火に充分注意すること。
⑥第一研究所に到着してから1週間を掛けて外観の検査をしたのち、成分分析の検査も開始する予定です。
⑦この不思議なマリモについては存在自体を社外秘とする。
以上の内容であった。
俺はこの文面に記載されていた、不思議なマリモについては存在自体を社外秘とする。
という文字にも驚いたのだが、それ以上に驚愕したのは下部に印刷されている5つの決済欄のうち、一番右側に社長自らの印鑑が押されていた事であった。
その事からして、この不思議なマリモに対する会社側の期待度を窺い知ることが出来たのであった。

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