第24話実験は失敗に終わってしまった

文字数 2,099文字

そして雨宮リーダーの指示のもと、実験の準備に取り掛かることになった。
植え付けられたガン細胞が増殖したために痩せ細ってしまい、横たわったままになってしまっている7匹のマウスたちを、プラスチック製の飼育ケースの中から取り出して、厚く敷き詰めた7つの白いガーゼの上へと移しかえていった。
次にガーゼの端に黒マジックを使い、1から7までの数字を書き記していった。
そしていよいよ不思議なマリモから抽出して作られた7本の実験液によるマウスへの注入の時がやってきた。
マウスの腹部の静脈は細いので、7人の中では比較的若くて視力のいい松岡君と川上君とが、注射器による実験液を注入する役目に指名された。
そして午後1時半を回ったところで雨宮リーダーからマスク越しに、ゴーサインが下されたのである。
二人は1と2と書かれたガーゼの上に横たわっているマウスの首から背中にかけての部位を、左手で優しく包み込むようにして掴んだ。
そして右手には側面にそれぞれ1、2と記入された注射器を持ち、腹部の静脈への注入を開始した。
二人とも注射器の側面に書かれてある目盛りを見ながら、慎重に1ccだけを注入していったのである。
それ以外の研究員たちは助手となり、注入の終了したマウスを二人から引き取り、また次に注入する3番と4番のマウスを松岡君と川上君の左手に手際よく手渡していった。
そして二人の右手にも3と4と側面に書かれている、実験液の入った注射器を手渡したのであった。
するとまた二人はマウスの腹部の静脈を目掛けて3番のマウスには1ccを、そして4番のマウスには3種類の新型化合物の希釈液が入った混合液を3cc注入した。
その作業を繰り返し、5番、6番、7番と書かれたマウスには、それぞれ3種類の新型化合物の希釈液と抗癌剤とを、同量ずつ加えて作製した実験液を2ccずつ注入していったのである。
そして7匹のマウスに実験液を全て注入し終わり、そのマウスたちを無菌室まで運んで行ったところで本日の作業は終了となった。
翌日もマウスへの同じ注入作業を行い、そしてその後5日間続けて土日の休日も返上し、都合7日間連続で注入作業が実施された。

それから一週間が経過し、初めての経過観察を行う日となった。
1番から7番までのマウスの静脈から少量ずつの血液を順次採取してゆき、それを血液検査室へと持ち込んだ。
次に7匹のマウスたちをCT検査室へと運んで行き、ガン細胞の状態を撮影したのであった。
その後、午後からミーティングルームにて7名でCT画像の検証を行うこととなった。
雨宮リーダーがモニター画面のスイッチを入れ、先ほど撮影したCT画像をその画面に写し出してみたのである。
するとハッキリとした違いが確認出来た。
1番から4番までのマウスたちの体内では依然としてガン細胞が増殖を続けており、逆に5番から7番までのマウスたちの体内では僅かながらでは有るのだが、ガン細胞が縮小を始めていたのであった。
それに続いて7匹のマウスたちの飼育及び観察係を担当している松岡君から、日常の様子での報告が行われた。
それによると1番から4番までの新型化合物の希釈液のみを注入したマウスたちは、衰弱具合がより進んできているという事であった。
それに比べ5番から7番までの新型化合物の希釈液に抗癌剤を混ぜ合わせて注入したマウスたちは、少しずつでは有るのだが回復傾向にあるという。
そしてその二つの途中経過を踏まえて7名で協議に入ったのである。
何故このような状態になったのか?
当然7人の意見は一致していた。
新型化合物だけを使用した抗癌剤対策は完全に不発に終わってしまったのだ。
それに比べ、抗癌剤を混入させた実験液の方は、その抗癌剤の効果のみが現れてきて僅かながらでは有るのだが、ガン細胞が縮小を始めていたことになる。
ということは、3種類の新型化合物には効果が全く得られなかったということが判明してしまった。
このような事態となり、7人は苦悩を帯びた表情での沈黙の中、時間だけが過ぎていった。
それから暫くしてからの事であった。
血液検査室から7匹のマウスたちの腫瘍マーカー値が届いたのである。
その用紙に書かれている数値を全員が食い入るようにして見つめたのだが、しかしそちらの数値も落胆に拍車を掛ける結果となっていた。
1番から4番までのマウスたちの数値は依然として上昇を続けており、逆に5番から7番までのマウスたちの数値は少しでは有るのだが減少していたのである。
その時、
「やっぱりか」
という諦めとも取れる寂しい声だけが部屋に響いていた。
それから先も経過観察をしながらマウスたちの症状と検査データとを蓄積していく予定ではあったのだが、その後一週間と経たないうちに1番から4番までの4匹のマウスたちは、次々と亡くなっていってしまった。
そして抗癌剤との混合液を注入した5番から7番までの3匹のマウスたちの症状も、現状維持というのが精一杯の状態であった。
その時点で、今回の実験の中止が雨宮リーダーの口から発表された。
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