第33話東京の自宅へ帰ってきた

文字数 1,208文字

その後、俺たちも部屋へと戻り、帰りの身支度を始める事にした。
メソメソしている真知子を元気づけようとして俺は、なるべく話し掛けるようにと努力した。
「今回は楽しかったね」
「娘たちへのお土産には何を買っていこうか?」
「今度は夏休みにでも、またここに来ようね」
「その時にまた、和代さんと連絡を取り合って合流するようにすればいいじゃん」
すると真知子は
「分かったわお願いね、またここに連れて来てね」
と小さな声で返してきた。
その後、フウーッと大きな溜め息をつき、自分で何かを吹っ切らせているかのようにも俺には思えた。
そうしてからフロントでチェックアウトを済ませ、宿の玄関を出て駐車場まで歩いて行き、二人で車に乗り込んだ。
そして俺は助手席に座る真知子の様子が気になり、そっとその顔を覗き込んでみたのである。
するとその目は真っ赤に充血していた。
「可愛そうに、本当に和代さんとの別れが辛かったんだな。
そうだ、真知子の好きなジャニーズの曲でもかけてやるかな」
そしてエンジンを掛け、音楽を流し、シートベルトを締め、ハンドルを左に切って舗装路へと出ようとした時であった。
宿の前にある橋の欄干の横で、手を振る和代さんの姿が見えた。
その姿を発見した真知子は嗚咽しながら、言葉にならないような声でこう言った。
「和代さん、身寄りがひとりも居ないんだって。
淋しいだろうな、不安だろうな。
有り難う、また連絡するからね」
俺は隣で啜り泣いている真知子のことを気遣いながら車を走らせ、須玉ICまでの高低差のある坂道をユックリと下っていった。
そして中央高速道へと入り、粉雪が舞い始めた冬の道を東京へ向けて走らせていった。
そうして談合坂SAに着く頃には真知子も落ち着きを取り戻してきていて、いつの間にか好きな音楽に合わせ、右足でリズムをとるようにもなっていた。
パーキングに車を停めトイレ休憩をとり、娘たちへのお土産を探しに売店を見てまわる事にした。
そして山梨県のお土産としては定番である信玄餅と月の雫、それとほうとうを購入した。
それから先も目立った渋滞も無く、石川PAで遅い昼食を済ませてから午後3時前には自宅へと戻ってきた。
しかし二人の娘たちは外出していて居なかったので、リビングでテレビを見ながら寛ぐことにした。
その後、外も薄暗くなり始め、カーテンを閉めている時に次女の祥子が帰ってきた。
そして手洗いとうがいを済ませ、足早にリビングへと入って来てから、真知子に増富温泉での思い出話を聞いてきた。
すると真知子は、その増富温泉での湯治の様子を楽しそうに説明していた。
そして時刻も午後6時となり、真知子と祥子の二人は今日買ってきたほうとうを料理する為に台所へと向かった。
俺はと言うとソファーの上で横になりテレビを見ていたのだが、車の運転の疲れもあったのか、知らぬうちに居眠りをしてしまっていた。

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