第42話孔雀の羽とのDNAが一致した

文字数 1,813文字

それから3週間が経過し、ゴールデンウィークが明けてから、ヒトゲノム、DNA解析グループより雨宮リーダーの元へと解析結果の報告書が届いた。
その後、直ぐにリーダーから召集が掛かり、プロジェクトチームの7名全員がミーティングルームへと集合した。
そしてメンバーが注目する中、雨宮リーダーがその報告書を封筒の中から取り出し、机の上へと置いたのであった。
続けて全員が固唾を呑み、その内容に聞き耳を立てていると、リーダーが表紙をめくり、そして解析結果の書かれている欄を読み上げていったのである。
「今回の孔雀の飾り羽に含まれていた成分をDNA解析してみたところ、蛍光色の模様の中に、以前うちのグループで得ていた不思議なマリモのデータと、一致する部分が確認出来ました。
その結果からして、双方の祖先に共通する生物が存在していた確率は99.999%であります」
その数字が発表された瞬間、全員から歓声が上がった。
当然、俺もガッツポーズをしながら喜んだ。
「やはり、あの不思議なマリモと孔雀との間には、俺が推測した通り特別な関係があったんだ。
よし、でもまだこれからだ。
不思議なマリモから抽出した新型の化合物と、孔雀の羽の目玉模様の成分とを混ぜ合わせた時に、果たして、どのような化学反応が起こるのであろうか?
是非とも、その結果を知ってみたいな」
その後、雨宮リーダーが今後の実験方法について上司と電話で打ち合わせをしている間に、俺は今までに辿ってきた道のりを回想してみた。
「よしよし、これで俺が思い浮かべていた通りになって来たぞ。
これらすべては寺島君のひと言から始まったんだ。
その言葉をヒントにして俺は八ヶ岳の山中から、不思議なマリモを探し出してきた。
その不思議なマリモはこうして誕生したんだ。
太古の昔から、八ヶ岳の山中に凄みついていた鳳凰は、何度も何度も生死の旅路を繰り返していた。
そして今から約800年前、八ヶ岳にある横岳の噴火が起きた時に、その近くで暮らしていた鳳凰が、そのマグマの中に身を投げて消えていった。
そしてそれまでの長い間、その鳳凰が棲家としていた巣の内部には、藁で形造られた摺鉢状の寝床が残された。
その中には自らの抜け落ちた羽や、食料としていた光苔の一部などが堆積していた。
それらが長い年月の経過と共に風の影響を受け、転がり続けてあの不思議なマリモの形になったのだ。
そして今回、その鳳凰が残していった不思議なマリモの中に含まれていたDNAと、俺がその子孫なのでは無いのかと思いついた孔雀の羽に含まれていたDNAの一部とが一致した。
この2つの成分である過去に生きていた者と、現代にも生き続けている者との800年という空間差は、何を語るのであろうか?」
俺の心臓の鼓動も、期待値と比例するようにして高ぶってきていた。
その後、雨宮リーダーと上司との電話も終了し、その内容についてリーダーから説明が行われた。
その話によると、不思議なマリモとの合成実験に必要な孔雀の羽の数は、少なく見積もっても100本は必要だという結論になり、その数が集まり次第、DNA解析グループに於いて、次の実験に必要な成分の抽出作業を確約してもらったとの事であった。
そのリーダーからの話の内容に、研究員全員がざわめき立ち、活気が戻ってきた。
そしてその翌日から、雨宮リーダー以外の6名で手分けをして日本中の動物園を廻り、自然に抜け落ちた孔雀の羽を掻き集めてくる事になった。
それから2週間が経過し、北は北海道、南は九州の鹿児島まで、皆んなで掻き集めてきた孔雀の羽の数は何と、200本を優に越えていた。
後日それらを全てH棟5階にあるヒトゲノム、DNA解析グループへと持ち込み、孔雀の羽の中でもDNA情報が一番色濃く凝縮していると思われる、目玉模様の組織成分の抽出をお願いする事となった。
そして一週間後、その抽出された成分がシャーレの中へと入れられ、その上からラップで密封された状態となって我々の元へと届けられたのである。
それは如何にも妖しい色を見せていた。
粉末状になっており、見る角度によって青、赤、緑と色が変化するのであった。
しかもそれらは、どの色も独特の蛍光色を放っていた。
そして雨宮リーダーから、4週間後の6月26日から実験を開始するという事が発表され、それまでの間、マウスへのガン幹細胞の植え付けなど、実験に向けての準備を進めて行くこととなった。
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