第14話つくばへと向かうことになった

文字数 1,787文字

それから1週間後の7月25日、茨城県つくば市にある第一研究所へと不思議なマリモを運搬する日がやって来た。
俺はいつもより早く起き研究所の守衛室に立ち寄り、研究室の鍵を借りてから中へと入っていった。
そして事前に用意しておいた大きなクーラーボックスの底に、緩衝材である細かく砕いた発泡スチロールを敷き詰めた。
そしてその上にドライアイスと、湿らせた新聞紙で包んだ二つの不思議なマリモを置いてから上蓋を閉めた。
その後、プチプチと毛布を使用して全周を囲ってからガムテープで接着をして準備が完了となったのである。
そして寮へと戻り朝食をとっていたところ今日、明日の二日間、同行してくれる事になった木村君が挨拶に来てくれた。
研究室長が気を効かしてくれて、一番若くてバイタリティーのある木村君を助手として付けてくれていたのである。
軽く会話を済ませてから、いよいよ出発する事となった。
二人で研究室へと向かい、不思議なマリモが入っているクーラーボックスを台車の上に載せてから駐車場へとやって来た。
そして社有車であるライトバンの荷室に、そのクーラーボックスと台車を積み込み、いよいよ出発する事となった。
俺が運転をして木村君が助手席に座り、緩やかな山岳道路を下っていった。
梅雨が明けてから1週間が経つのだが、今日も一日中快晴の予報が出ており暑くなりそうな気配であった。
その後、県道から国道へと入り中央高速道のETCレーンを通過し、八ヶ岳をバックミラー越しに見ながら加速車線から本線へと合流していった。
その時俺は、これから待ち受けている不思議なマリモの成分分析の好結果に期待して、既にテンションが上がっていた。
「ありがとう八ヶ岳、おまえが育んでくれた不思議なマリモを人類のために、有効に使わせてもらうよ」
と思わず叫んでいた。
それを見ていた木村君は助手席で苦笑いを浮かべていた。
その後、右前方に褐色の夏富士を見ながら車は順調に走行して行き、八王子JCTから圏央道へと入り、そして早めの昼食を狭山PAでとる事にした。
そこでの食事中に木村君とは、お互いの身の上話で大いに盛り上がった。
俺は2歳年上の姉を癌で亡くし、その無念さを晴らすために北杜市にある研究所へと異動してきたことや、単身赴任で北杜市へとやって来てから4ヶ月が経つのだが、まだこの歳でもホームシックに掛かっている事などを話した。
そして木村君からは片想いの彼女がいることや、実は自分は他の人と比べるとマザコン度が高いんだという事が、最近になって分かったと告白された。
その木村君との会話は食事中の時間だけでは足りずに、その後、車で高速道路を走り出してからも続いたのであった。
その木村君とは28歳という年齢差の割には、ジェネレーションギャップを感じることも無く、楽しい時間を持つことが出来た。

そして時の経つのは早く午後3時前には、つくば中央ICを降りて我が社の第一研究所へと到着した。
俺は過去にも何度か訪れた事はあったのだが、北杜市にある第二研究所と比較してみると、改めてその規模の大きさを実感する事となった。
守衛室で入門手続きを済ませてから、C棟2階にある基礎研究課の会議室へと案内された。
すると間もなくしてから担当課長が部下二人を引き連れて部屋へと入ってきた。
そしてお互いに自己紹介を済ませてから、俺は不思議なマリモを発見するまでの経緯を細かく丁寧に説明していったのだが、それを3人はメモを取りながら熱心に聞いてくれていた。
続けて俺は無理を承知で、もしも今回の分析結果に於いて薬としての有効成分が確認された時には是非とも、その新薬開発グループの一員として参加させて欲しいとのことを懇願してみたのである。
それに対して担当課長からは前向きな返答をもらえたのだが、それ以外にも
「今回の事案は太陽光に対して金色に耀くなど過去に例がない特色を持っています。
その為に成分分析が非常に難しくなってくる可能性が有ります。
それ故に結果報告には時間を要するかも知れません」
という言葉も付け加えられていた。
その後、俺は木村君と一緒に会社が用意してくれていたホテルへと向かい、夜景が綺麗に見える最上階のレストランで、不思議なマリモの分析が好結果となることを期待して前祝いの乾杯をしたのであった。




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