第66話よし新しい病院へ転院だ

文字数 2,320文字

そして翌日になり、転院をする為に病院の会計課へと赴き、入院費の精算をすることとなった。
治療費、差額ベッド代、食事の費用とトータルでそれなりの金額となっていたので、辰男はクレジットカードでの支払いをお願いすることにした。
そして精算を済ませ、何気なくその病院からの明細書を見てみたのであった。
「この二日間は個室に入っていたからな、差額ベッド代が嵩むのはしょうがないか。
それに昨日はCT検査もしてもらったからな」
と明細書に記入してある、前日の検査項目にも目を通してみた。
すると辰男はその中に、思ってもみなかった検査内容が載っていたことに驚いた。
それとはMRIの検査費用であった。
「確か先生は、MRI検査をするとは言っていなかったよな。
CT検査と血液検査をしてくれたという事は、俺も把握していたのだが、まさかMRI検査までされていたとは知らなかった。
専門家にあの画像を見られてしまうと、まずい事になる。
真知子の脳障害を指摘されてしまうかも知れない」
辰男の脳裏に不安がよぎった。
「しかし、ここでジタバタしていてもしょうがない。
今はこのまま、時が静かに流れすぎて行くのを見守るしかないな」
辰男は、そう心に決めた。
その後、真知子のいる個室へと戻り、転院の為の身支度をしている所に娘たちも合流をし、一緒に手伝ってくれる事になった。
そして荷物もまとめ終わり、3人で自動販売機で購入したペットボトルのお茶を飲んでいた時だった。
辰男の携帯電話に連絡が入り、予約しておいた福祉タクシーが駐車場に到着したとの事であった。
目は覚めてはいるのだが、ポカーンとした表情でいる真知子を3人で車椅子へと乗せ替えて、荷物を抱え病室を後にした。
そして廊下の途中にあるナースセンターに寄り、お礼を言い、一階へと下りて車寄せに向かった。
その後、真知子をその福祉タクシーの後部から車椅子ごと乗せて、三澤さんに紹介された城北エリアにある病院へと向かうことになった。
その福祉タクシーの助手席には辰男が乗り、その車の後ろを付いてくる形で、祥子が運転する自家用車の助手席には梓、そしてトランクには荷物を載せて出発したのである。
その後2台の車は順調に進んで行き、1時間後には、その目的地となる病院へと到着した。
そしてそこで見た第一印象として辰男は、些かでは有るのだが不安になってきた。
それは先ほどまで入院していた大学病院とは比べ物にはならぬほど、建物も古く、また規模も小さく見えた為であった。
玄関先で真知子を降ろし、中へと入って行き入院手続きを済ませ、それから2階にあるいちばん奥の個室へと通された。
室内へ入ってみると、最近リフォームをしたばかりだという話の通り、外観とは違い、そこは快適な雰囲気のする部屋になっていた。
荷物をほどき一段落したところで、祥子が1階のロビーの所に置いてある自動販売機まで、缶コーヒーを買いに向かった。
その間に梓が、部屋に備え付けのテレビをつけてみると、そこの画面にはNHKEテレの人形劇が映し出されたのであった。
すると、その大きめな音量と人形たちのコミカルな動きとかが気になったのか、まだ車椅子に座ったままの真知子の目が一瞬にしてパッと開き、視線がそれに釘付けとなってしまった。
その後、祥子が戻って来てからもその状態は暫くの間、続いていた。
そしてその様子を見ていた3人は手を叩いて喜んだ。
すると今度は真知子の視線が、その手を叩く音のする方へと移っていったのである。
それを見て辰男は
「やっぱり赤ちゃんと同じだな。
動きのある物や、音のする物に関心が寄せられるんだ。
お前たちも生まれた頃は一緒だったんだぞ」
と言いながら梓と祥子の顔を見つめた。
すると梓がこう言った。
「ああ、そうなんだ。
お母さんもこれから、一日一日そうして自然に学習しながら成長していくんだね。
それも楽しいかもね。
ところで、これからはお母さんに、私のことを何て呼ばせようかな?
私は今までずっとお母さんに、あずちゃんて呼ばれて来たから、これからは少し気分を変えて、あず姉ちゃんがいいかな?」
それを聞いていた祥子も
「じゃあ私も、しょう姉ちゃんがいいや。
お父さんは何て呼ばれたい?」
すると辰男は照れながら、こう言った。
「そうだなあ、お前たちがそう来るのなら俺は、辰にいでいいや。
いや待てよ、、それは何処かで聞いたことのある呼び名だな。
やっぱりやめた、ただのお兄ちゃんでいいや、アハハ。
それともお父ちゃん?アハハハハ」
すると姉妹は、呆れた顔をして苦笑いをしていた。
そうこうしていると 、ドアをノックする音がして看護師さんが入ってきた。
そして軽く挨拶を済ませてから、今日のスケジュールについて教えてくれた。
「このあと12時半から、点滴による栄養補給を行います。
そのあと午後2時からは、脳のMRI検査の予約を入れて有りますので。
そして午後4時に院長先生の診察があります」
辰男はその時、三澤さんの顔を思い浮かべた。
「さすがに三澤さんだ、抜かり無く予定を組んでくれていたんだ。
恐れ入りました、有り難うございます」
そして真知子が点滴をしている間、3人で交代に昼食を食べにいった。
その後、点滴、MRI検査と順調に終了し、午後4時からの診察の時間が近づいてきた。
真知子を車椅子へと移してからエレベーターに乗せ、1階にある診察室を訪ねていった。
そしてその部屋の前で待っていると、予定していた時刻よりも少し早く名前が呼ばれ、4人して中へと入っていった。
するとそこには、若き青年医師の姿があった。
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