第80話 閃光
文字数 1,285文字
弐弧の声が聞こえて来たが 聞き入れる訳にはいかなかった。
弐弧が余りにも男の言葉に囚われ過ぎているからだ。
何かがおかしい。何処かが間違っている。
騙されるな 自分の中の「声」はそう言っている。
確かに 穿たれた穴から髪の様なものが飛び出しては来たが
単に男の言葉を裏付ただけに過ぎず 其れ自体は、びっくり箱の中の玩具だ
何の手応えも感じ無かった
あれは急所ではない
なのに 何故
少年の「力」は何を伝えたいのだろうか
或いは
急所が恰も「心臓」であるかの様に巨人は見せ掛けたが 其の実、巨人には抑も急所等無い
男は巧みな言葉で弐弧の心を操り 「心臓」を攻撃させようとしている
此れは 弐弧の「心臓」を奪う為に仕組まれた罠だ ―
其の目が まるで男の心を覗き見たかの様に険悪に細められた。
「…
お見通しか。頭の良い堕鬼は やはり詭弁に騙され無かった。其れ故に
直情型の「目」には最早先が見えず 此の状況を打破する方法は一つしか無い と考えたのも無理からぬ事だ。
諸悪の根源を斃す ― 其の原点回帰に徹する事にしたらしい。
思うに 此れは堕鬼であって堕鬼ではない
自ら堕ちる事で 自身を殺せる誰かに命を委ねた
最初から 此の堕鬼は正気だったのだ
怒れる牙が男に向けられたが 先程の状況を鑑みては巨人の攻撃に対して反撃する訳にもいかず 猛攻をかいくぐりながら機会を狙っている。
「いっそ 一息に殺っちゃえば?」
巨人は白い髪の男を藁の掌に乗せ 胸の前に持ち上げた。
「三つ数える間 動かないでいてあげるよ
「ほら 三
― ほら
「二
― 一縷
来る ― 紅い目は誰よりも早く、凶兆を捉えていた。
自身が齎す厄災を打ち破る、其の存在を
一縷の動きが完全に止まった。
馬鹿。
何なんだよ。何奴も此奴も。
他人を護る事を優先するなんておかしいだろ。そんな下らない事の為に命を落として平気なのか。
「自分」は 一縷を犠牲にしてまで、生き存えたいとは思わない ―
「… っ
死をも決意した銃弾は白い髪の男を目掛け 稲妻の襲撃を受けて弾かれた。
茫然としたのは男も同じだった。走り抜けた雷は黒焔を切り裂き 咄嗟の事に、何が起こったのか分からなかったが 目に見えて男に隙が出来た。
背後の巨人の心臓ごと撃ち抜く。自身の心が今一つになった。
其処には、もう何の迷いも 恐怖もない。
― 自分の行動に責任も取れねーようないい加減なヤツとつるんだりしねーだろフツー
だよな
お前もそうだろ?一縷
慧の言葉を思い出し 心が凪いだ。こんな酷い状況にも関わらず、微笑している。
きっと此れが 自身の望んでいる「死」だからだ。
覚悟して放った筈の銃からは何の音もしなかった。
不意に 全ての音が消えた。
自分の体まで無機質な人形になってしまったかの様に
感情は失われ 感覚もない。呼吸は止まり 鼓動も聞こえず
目に映るのは 明るい色の短髪 黒い着物に濃い蒼の羽織を雑に引っ掛けた長身の男。
口の端に煙草を咥え
静かな脅威 ―
男に銃を持った腕を掴まれ 其の蒼い目に殺される前に、世界は凄い速さで眼前から消え去った。
弐弧が余りにも男の言葉に囚われ過ぎているからだ。
何かがおかしい。何処かが間違っている。
騙されるな 自分の中の「声」はそう言っている。
確かに 穿たれた穴から髪の様なものが飛び出しては来たが
単に男の言葉を裏付ただけに過ぎず 其れ自体は、びっくり箱の中の玩具だ
何の手応えも感じ無かった
あれは急所ではない
なのに 何故
弐弧
は巨人の「心臓」を狙ったのだろう少年の「力」は何を伝えたいのだろうか
或いは
其処に何も無い
事を示したのではないのか?急所が恰も「心臓」であるかの様に巨人は見せ掛けたが 其の実、巨人には抑も急所等無い
男は巧みな言葉で弐弧の心を操り 「心臓」を攻撃させようとしている
此れは 弐弧の「心臓」を奪う為に仕組まれた罠だ ―
其の目が まるで男の心を覗き見たかの様に険悪に細められた。
「…
お見通しか。頭の良い堕鬼は やはり詭弁に騙され無かった。其れ故に
直情型の「目」には最早先が見えず 此の状況を打破する方法は一つしか無い と考えたのも無理からぬ事だ。
諸悪の根源を斃す ― 其の原点回帰に徹する事にしたらしい。
思うに 此れは堕鬼であって堕鬼ではない
自ら堕ちる事で 自身を殺せる誰かに命を委ねた
最初から 此の堕鬼は正気だったのだ
怒れる牙が男に向けられたが 先程の状況を鑑みては巨人の攻撃に対して反撃する訳にもいかず 猛攻をかいくぐりながら機会を狙っている。
「いっそ 一息に殺っちゃえば?」
巨人は白い髪の男を藁の掌に乗せ 胸の前に持ち上げた。
「三つ数える間 動かないでいてあげるよ
「ほら 三
― ほら
「二
― 一縷
来る ― 紅い目は誰よりも早く、凶兆を捉えていた。
自身が齎す厄災を打ち破る、其の存在を
一縷の動きが完全に止まった。
馬鹿。
何なんだよ。何奴も此奴も。
他人を護る事を優先するなんておかしいだろ。そんな下らない事の為に命を落として平気なのか。
「自分」は 一縷を犠牲にしてまで、生き存えたいとは思わない ―
「… っ
死をも決意した銃弾は白い髪の男を目掛け 稲妻の襲撃を受けて弾かれた。
茫然としたのは男も同じだった。走り抜けた雷は黒焔を切り裂き 咄嗟の事に、何が起こったのか分からなかったが 目に見えて男に隙が出来た。
背後の巨人の心臓ごと撃ち抜く。自身の心が今一つになった。
其処には、もう何の迷いも 恐怖もない。
― 自分の行動に責任も取れねーようないい加減なヤツとつるんだりしねーだろフツー
だよな
お前もそうだろ?一縷
慧の言葉を思い出し 心が凪いだ。こんな酷い状況にも関わらず、微笑している。
きっと此れが 自身の望んでいる「死」だからだ。
覚悟して放った筈の銃からは何の音もしなかった。
不意に 全ての音が消えた。
自分の体まで無機質な人形になってしまったかの様に
感情は失われ 感覚もない。呼吸は止まり 鼓動も聞こえず
目に映るのは 明るい色の短髪 黒い着物に濃い蒼の羽織を雑に引っ掛けた長身の男。
口の端に煙草を咥え
静かな脅威 ―
男に銃を持った腕を掴まれ 其の蒼い目に殺される前に、世界は凄い速さで眼前から消え去った。