第50話 鬼子の宴 戦利品

文字数 761文字

コンクリートの地面に弾き飛ばされ 何度か転がって漸く止まった。
体は脳が指示などしなくとも直ぐ様飛び起きる様に出来ている。
煩いのは心臓の音だけでなく 心臓に合わせて吐き出される荒い息遣いが加わっている所為でもあった。
体を起こした弐弧は 半ば茫然として辺りを見回した。
壁一面落書きだらけのビルの一階から赤々と火が出ている。悪巫山戯で火炎瓶の様な物を投げ込んだに違いない。どうせ燃えるものも無いので其の内鎮火するだろう。人を呼ぶ気は無い。其れ以外に灯りはなく 在るものと言えば物言わぬ廃墟の静寂だけだ。
超能力で言えば瞬間移動能力だが 飛ぶ場所はある程度限られている様だ。
どうやら火のある所にしか移動出来ないらしい。
混乱を抑える為に 冷徹にそんな分析をしている。
行き成り見知らぬ場所に飛ばして人を茫然とさせる元凶は 少し離れた場所で身を起こしていた。
明け方近くの薄闇の中に いつか見た同じ光景が懐かしく思い出された。
「… ! はは
声に反応した少年が弐弧に目を向けた。
あの時と違うのは 少年は怪我一つ無く 紅い目を爛々とさせ 魚を咥えたどら猫の様にあの男の腕を咥えた儘 どや顔で弐弧を見ていると言う事だ。
咥えている物にはぞっとさせられるが ― 気味の悪い事に 腕は血の気を失っておらず、今にも動き出しそうに見えた ― 少年のふてぶてしい顔付には思わず笑ってしまう。
戦利品なら弐弧にもある。
右手の銃を持ち上げると 悪戯に成功した子供の様に得意気な笑顔で一縷に見せた。
今度ははっきりと 見間違えようのない笑顔を一縷が返す。

やったな!  ―  そんな声が聞こえてきそうな気が為た。

弐弧を真似たのではなく 一縷の心が表情をつくったのだ と今は強く確信出来る。
互いの戦利品を賞賛し合い
悪戯好きの少年達は 明けゆく空を見ながら暫しの休息を得た。


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登場人物紹介

百鬼弐弧(なきり にこ)廃墟で育った平凡な高校生だが予知能力がある。

蒼鷹一縷(そうよう いちる)廃墟から弐弧が連れて来た鬼の少年

眞輪(まりん) 魅惑ボディの美少女。炎の輪を武器にする鬼姫。

甜伽(てんか) 一縷と弐弧を捕えに来た敵だが、今は同級生。

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