第47話 鬼子の宴 幻影

文字数 1,303文字

弐弧の方に顔を向けた少女は戯けてウィンクし ぺろっと舌を出す。
其の台詞が弐弧の耳に入り 恐怖が全身を駆け巡る前に 巨大なギロチンでも落ちたかの様な轟音と共に衝撃が走り
「 … っ!
何が起こったのか分からぬ儘、目を開けると 自身の足元から数十センチも離れていない地面に、背筋も凍る程の深い地割れが出来ていた。反射的に身を引いたが 地割れの上では蒼い炎が円を描いて、弐弧の心情も知らず優雅に踊っている。
「もう~!眞輪ちゃんったらぁ!ひどぉい!ぷんおこ~!」
何処かから場違いな声が聞こえて来たが 声の主は何処にも見当たらない。炎が舞っているのは つい先程まで少女が立っていた場所だ。
「あたしの前でつまらない真似しないで」
バネの様に巻いた髪の先から青白い炎がゆらゆらと燃え立ち 其の蒼い目は 見る者を凍てつかせる。
蒼い炎を纏った巨大な円刀を手にし 凜として立つ姿さえも美しい。
「会場」は消え失せていた。
此処に在るのは 闇だけだ。
四方をコンクリートに囲まれた 無の部屋。
弐弧が感じていたのは 唯の違和感ではなかった。幻だったのだ。入った時から 囚われていた。
華やいだ空間も 煌びやかな人々の姿も 会場全体が幻影だった。
唯一 展示台だけは本物の様だったが ―  一歩の距離も踏み込めない。手を出す前にやられる。闇の中に 鼠をいたぶる猫の様な 残忍な気が満ちている。
何のゲームか知らないが 参加者は此の銃が欲しいのではない。銃を巡って殺し合いをしたいのだ。
其の場に凍り付いた儘 動く事も出来ない。炎を纏った円刀が、次々と弐弧の周りに墜落し 其処彼処から金属が弾かれる鋭い音がした。
眞輪が弐弧を攻撃する者から其の円刀で護ってくれている。
ずらりと鋭い牙の並んだ巨大な刃が一閃し 蒼い炎が激しく飛散する。眞輪の体を切断出来ず 刃は蒼い炎となって一度は砕かれたが 瞬く間に再生した。
襲撃者に冷たい目を向ける眞輪に 少年は凶悪な笑みで返し
「邪魔してんじゃねーよ、眞輪」
「お前らできてんのか?」
眞輪の円刀と激しく打ち合いながら 好戦的な少年は軽口を叩く。
「馬鹿じゃないの? つまらない男ね …」
対する眞輪も攻撃の手を緩めず 表情のない顔とは裏腹に 言葉には此の男に対する嫌悪が顕著に表れている。

蒼い炎が渦巻き 狂喜に満ちた闇の中に 激しくぶつかり合う金属音と 自分に集中して迫り来る脅威が引きも切らない。

―   俺らの力ってさー 自分を護る為に働くじゃん?

慧はそう言ったが 「予知」も働かず 襲撃も予測出来ず 唯々無力な自分が居る。
まただ。
また 同じ事を繰り返すのか? 何度繰り返せば気が済むんだ?
廃トンネルの時も 堕鬼の女と一縷が戦っていた時も、歯軋りする程悔しくて悔しくて堪らないのに、何も出来なかった。今も 苛立つ程に体が動かない。
人に戦わせて 自分は安全な所から見ているだけではないか。護ってくれているのは自身の「力」ではなく 「誰かの力」だ。

「皆さ~ん!ご来場有り難う御座いまぁす♡」
「本日のとっておきのイベントがいよいよ始まりますよ~!」

「ゲームもますます盛り上がって参りましたぁ~♡」
「今日は楽しんでいって下さいね~!」

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登場人物紹介

百鬼弐弧(なきり にこ)廃墟で育った平凡な高校生だが予知能力がある。

蒼鷹一縷(そうよう いちる)廃墟から弐弧が連れて来た鬼の少年

眞輪(まりん) 魅惑ボディの美少女。炎の輪を武器にする鬼姫。

甜伽(てんか) 一縷と弐弧を捕えに来た敵だが、今は同級生。

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