第52話 鬼子の宴 迎え

文字数 1,234文字

「こんな所で何してんのよ」
治りかけの傷痕も痛々しいが 此の少女の口は死ぬ迄攻撃をやめないだろうと思わせる。
「… んー? 迎え待ち」
送迎車の待合ベンチに座ってスマホを弄っている慧に 甜伽がいつもの空元気で攻めて来る。
「はぁ?誰が迎えに来るって言うのよ?」
新那慧は寮住まいの筈で 其の寮は校舎からも見えている。歩いても十分位のものだ。
「今日カレパするから」
抑揚の無い声が 良く分からない言葉を発して来た。
「か … ?
眉根を寄せた甜伽が 慧の発言の究明と次の非難の言葉に乗り出す前に
「其れは何?」
ぞくっとさせる程の蠱惑を声に秘め 気配もなく背後に現れた将生眞輪が口を挟んだ。
甜伽は飛び上がりそうになる体を鋼の意志で押さえ付け 喉元までせり上がって来た悲鳴を口腔内で撃退した。
「カレーパーティ」
新那慧はスマホから目も離さずに淡々と答える。目を惹き付ける様な画面でもないが 女二人に囲まれたからと言って、心を惹かれる様な場面でもない。
女と言っても 片や狩猟犬、片や雪豹だ。
「… 其れの何が面白いの?」
眞輪は何事に対しても面白いか、と良く問う。馬鹿にしているのでは無く 子供が物を不思議がるのと同じ純粋さで知りたい様だ。
「別に … 面白くはないけど、腹は膨れるかな」
まぁそうだろう。甜伽は小馬鹿にした目を新那慧にくれた。
「そう …」
眞輪も其れ以上何も言わなかったが ―
「お待たせしやした!どうぞ乗って下せぇ!」
黒服を着た明るい赤茶色の髪の男が 常夏のリゾートホテルの出迎え宛らの陽気さで、送迎車レーンに光沢も美しい漆黒のリムジンを乗り付けて後部ドアを開けるや
「ちょっと!?何乗ってんのよ!」
「どう見たって貴方の迎えの車じゃないでしょうが!」
しれっと真っ先に乗り込んだのは眞輪だった。
眞輪の送迎車は確かに同じ様な漆黒のリムジンだが 付き人は金髪の男で
此の赤毛の男が南国の陽気な太陽なら 眞輪の付き人は無慈悲な砂漠の月を思わせる。
冷静、冷徹、冷ややかと言う言葉で表せる様な雰囲気を持った男だ。
とは言え 此れには流石に赤毛の男も陽気さを欠いて
「え?!いやいや!あの、え?
目に見えるほど狼狽えた。不測の事態にも我関せずとばかりに 新那慧が平然と続いて乗り込む。
「… !」
厚顔無恥も甚だしい二人の行動に 甜伽は呆気にとられて言葉もなかった。
赤毛の男も困った顔をしてはいるが 追い出す気は無い様だ。
「甜伽ー、行かねーの?」
新那慧が然も行くのが当然かの様な口振りで声を掛けてくる。
「は? 何で …
「あーそっか、テイクアウトのカレーなんか お前の口には合わねーよな」
薄く意地の悪い笑みを見せる。
「はぁ?食べるわよ!」
売り言葉に何とやら。
名家の養女は庶民的な食事などしない、とでも言いたいのか。否 馬鹿にした様な言葉で態と焚きつけているのだ。毎回其の口にしてやられている。甜伽にも其れは分かっているのだが 自身の口は身体能力の中でもダントツの速さを誇っている上に 天性の天邪鬼は止まる事を知らない。
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登場人物紹介

百鬼弐弧(なきり にこ)廃墟で育った平凡な高校生だが予知能力がある。

蒼鷹一縷(そうよう いちる)廃墟から弐弧が連れて来た鬼の少年

眞輪(まりん) 魅惑ボディの美少女。炎の輪を武器にする鬼姫。

甜伽(てんか) 一縷と弐弧を捕えに来た敵だが、今は同級生。

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