第64話 硝子の銃弾

文字数 1,613文字

ギィン ギィン ギィン
音が耳に届いた時には既に撃ち込まれている、と言う為体だ。
狙いは正確で 外す事はない。どう動くかを読まれている。
鎧武者は生者ではない。人間と違って急所も無いが 流石に此れだけ撃ち込まれては躰を保てない。大鎧を容易く貫通し、刀を砕き、頭を木っ端微塵に吹き飛ばす程弾の威力は絶大で 何発撃っても尽きず 其れと言うのも、放たれた弾がブーメランの様にまた銃身に帰って行くからだ。此れならば 弾は無限と言う事になる。
弾き返した時に分かったが 弾は鉛ではなく
   ビー玉?
十ミリ程の小さな透明の硝子玉の様だ。どう言う構造になっているのか 硝子玉が発射されるとは何とも奇妙な銃ではないか。
― 鬼子なら「気」を弾に変えて撃ってくるかも知れない
とは言っていたが 確かにない話ではない。唯 此の弾に込められた「気」は 百鬼弐弧のものではないと言う気がする。
月の耀きにも似た白光を纏い 其の速さは 流れる星の如く ― 鬼であっても、動体視力だけで追うのは先ず無理だ。自身の感覚を頼る他ないが 威力が唯の鬼子の比では無く 更には此の少年の能力によって、銃弾が正確な位置を狙って来る。
此の少年が「鬼」で無かった事に感謝すべきかも知れない。嘸かし物騒な「鬼」になっていた事だろう。
残念だが 鬼眼を持っていても所詮は人間。体力の限界は鬼よりも先に訪れる。今もそうだ。
立て続けに撃ってはいるが どう頑張った所で機関銃にはなりえない。弾を自ら装填する必要が無い分、時間の損失は少ないが やはり連射の合間には隙が出来ている。
其れに 怪我の治りも遅い。
大した怪我でも無さそうだが 頭が痛むのか、目を開けていられない様だ。
瓦礫の雨を降らせてやると 怯みはしたものの、此方の攻撃はお見通しで
「チッ …!
先程からろくに立ち上がる事も出来ていないのに 倒れた姿勢からでもすかさず撃って来る。
相手が飛び道具を持っていると 至近距離に詰めるのは難しい。俊敏さでは此方が上だが 此の銃弾は放たれて戻る時ですら威力を失わない。しかも 戻る時の軌道は予測不可能で 銃身に近付けば近付く程 往復する銃弾によって蜂の巣にされる危険性が増す。
だが そんな一進一退の攻防も間も無く終わる。
「…  っ!
ビー玉に邪魔をされて奪う事は出来なかったが 漸く刃の切っ先が届き 少年の腕に紅い線が走った。

幾ら吹き飛ばそうとも 本体であるアキを倒さなければ、鎧武者を完全に消し去る事は出来ない。
アキの

。そしてまた 


簡単には獲らせないだろう。其れに たかが底の知れた攻撃力では 千載一遇の好機でも訪れない限り獲れない、と言うのも


鎧武者は炎となっては消え、また炎から生み出される。頭を失っても巨大な刀を振り回し 腕を奪っても突進して来る。原型を失うほど撃ち込まないと倒せない。武者にばかり気を取られているとアキの襲撃を受ける 其の繰り返しだ。鼠をいたぶる猫の様に弄び 此方の体力を奪おうとしているのだろうが 其れは功を奏していた。
早くも引き金を引く指が痺れて、思うように動かなくなって来ている。此の儘では もう保たない。
四方八方から嵐の様に襲い来る攻撃に 真面に立ち上がる事も出来ず 疲労と痛みで体は既に限界に達している。
そんな最中 眼前を鋭く走りぬけた斬撃の烈風に煽られ 瓦礫と共に弾き飛んだ。
其の先には
「!?
深い闇が 歪んだ巨大な口を開いて待ち構えて居た。
間も無く激しい衝撃が全身を走り 痛みも分からぬ程意識が混濁した。
「… う
「如何したー?もう終わりかー?」
陥没した道路の上から、無情な嬉々とした声が降って来る。
声に反応した体が上半身を起こし、アキに銃口を向けたが 手はわなわなと震えて狙いが定まらない。
視界が紅く染まってゆく。息が 苦しい ― 

ドン と言う短い轟音が心臓を揺るがし 紅い飛沫が弐弧の目に映った。

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登場人物紹介

百鬼弐弧(なきり にこ)廃墟で育った平凡な高校生だが予知能力がある。

蒼鷹一縷(そうよう いちる)廃墟から弐弧が連れて来た鬼の少年

眞輪(まりん) 魅惑ボディの美少女。炎の輪を武器にする鬼姫。

甜伽(てんか) 一縷と弐弧を捕えに来た敵だが、今は同級生。

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