６５

　一郎が小学一年生の時、突然学校に行きたくないと泣き出した。

　よくよく聞くと、山田健太と言う同級生から苛めにあっていることが分かった。

　大人しくて気持ちの優しい一郎は、健太に苛められてもやり返すことができないでいた。

　マリアはそのことを、相撲取りのような立派な体格をした中年女の担任に話すも、担任はそんな事実はないときっぱり否定した。

「先生、一郎のことちゃんと見ようがですか？　
　うちの子は噓をつくような子じゃあないですよ」

　マリアが横柄な態度の担任に腹が立ち、少し声を荒げた。

「私も一応気を付けて皆のことを見てるんですがね、苛めがあるようにはみえませんし、一郎君からもそんなことを言われませんしね」

「一郎は先生に申し上げるような子じゃないですよ、先生は子どもが苛めを訴えなければ何もせんゆうことながですか？」

「いやいや、そんなことは言ってませんよ」

　担任が苦笑しながら言った。

　マリアは、昔自分が苛められた時、担任が助けてくれなかったことを恨んでおり、今でも学校に対する不信感が拭えないでいた。