05 ようこそ十分の一の世界へ
文字数 2,581文字
「ようこそ十分の一の世界へ」
ロムが開けた扉の正面、カウンターを挟んでドイツの民族衣装 風な装いの受付女性が挨拶をする。
その日本的な顔立ちには少々似合わない山吹色の髪をつむじに近い高い位置でポニーテールに結い上げ、前髪を切りそろえている。
衣装は生成 り色のブラウスと無地の葡萄 色スカートに白に近い水色のエプロンというクラシックなデザインで、着用者のスタイルに起因しているのだろうか少々胸を強調しているように見える。
「ここは出発までの準備を行う場所、ドラゴンの酒場亭です。ここでは武器や防具を貸し出しています。何か必要なものはございますか?」
そこはファンタジーゲーム世界の酒場を模した部屋になっていた。
店内は木製で調度品もオーク材に見える。
カウンターの向こう、女性の後ろは棚一面に衣装や武具・防具が陳列されている。
更衣室なのだろう、カウンター横の壁面には五つの扉が並んでいる。
「みんなはもう借りたのか?」
四人ともカウンター前に揃って来たのを確認したロムの問いに答えたのはゼンだった。
「いいえ、私たちは自分たちで用意して来ましたから」
「……あ・そう……」
気持ちを立て直すのに数秒を要したロムだったが気を取り直してカウンターの後ろ、天井高三メートルはありそうな壁面いっぱいに陳列されている貸し出し品をざっと眺める。
今現在彼に必要なのは縮小できなかったベルトと靴。
それを探すとかなり高い位置に置かれている。
「布製のベタ靴と……このズボンのベルトループを通せる帯紐 みたいのないかな?」
女性スタッフは備え付けの梯子 を登りながら訊ねる。
「武器はどうしますか?」
「いらない」
「え?」
ロムの返答に一瞬手を止め、梯子の上からチラリと振り返って見せた彼女はしかし、特に何をいうでもなく要望の品を用意する。
「拳士……ですか?」
「そんな感じ」
ゼンに訊かれて答えるロムは照れるでもなく格好つけるでもない。
極めて自然体だった。
「では、皆様お揃いのようなので、改めてゲームの説明をいたします」
梯子から降りて来たスタッフはカウンターに用意の品を揃えて置くと、これも外の世界のコンパニオン同様よどみなくダンジョンの概要を説明し始めた。
「当ダンジョンはTRPGの世界で有名なG M 安 田 良 氏が作成した迷宮 地図 を基に造形師グループ大陸堂に製作していただいたリアリティを追求したダンジョンです。ダンジョン内はコンピューター制御でモンスターやトラップをコントロールしておりますが、特撮専門の映画制作会社に監修してもらうことにより最新の小型化技術と精緻な造形美を駆使した、世界観を最大限邪魔しないリアリティが追求されています。迷宮はE社が発表した初代ミクロンダンジョンに準じた三階層構造で、各フロア六十分の制限時間以内にクリアしてダンジョンフロア屋上の赤い竜 を倒すことが目的です」
一通りの説明が終わると彼女はカウンターの下から紙片を三枚取り出した。
「これはフロアサイズが書かれた地図作成 用の方眼紙です」
それを受け取ったサスケは数秒それを見つめるとスタッフにフロアマップを向けてぼそりと呟くように訊ねる。
「このフロアサイズは本当に正確でござるか?」
「え? ……はい」
「…………あい判った」
「フロア前で招待状に書かれていたIDを入力いただきますとタイムアタックスタートです。タイムオーバー、ギブアップ後はIDが無効になりますので必ずここにお戻りください」
「よっしゃ、行くぜ!」
ジュリーの熱血芝居掛かった一声でドラゴンの酒場亭を出て行く五人の背中に女性スタッフが声をかける。
「皆様のご健闘をお祈りします。頑張って」
と。
ドラゴンの酒場亭を出ると、ダンジョン入り口へ続く一本道の通路が伸びていた。
両脇の壁は中世ドイツ風の街並みが描かれた書割 でダンジョン入り口に近づくほど森の景色になっていた。
「綺麗な街並みだね」
「ええ、通路まで凝っていますね」
四人の冒険者たちはその美麗なイラストを楽しみながらダンジョンへと歩いて行く。
先頭は戦士のジュリー。
胸、前腕と脛にレザーの防具をつけている。
縮小前に身につけていたものとは違いハードレザーの焦茶 色でつや消し仕様、おそらく財布かカバンからのリメイクなのだろう。
左腕には防具に装着する形で木製の丸盾、腰に佩 いた刃渡り九十センチ級のショートソードは黒漆風に塗られたシンプルな鞘に収められている。
二列目を歩く妹のレイナは若草色で短めのスカート、インナーに膝上丈の黒のスライディングパンツ。
佩刀 はレイピア仕様ながら刃渡り七十五センチ級と短めで、兄の剣とは違い柄 には花の模様があしらわれている。
キャメルのショートブーツはスエードで、あまり運動の妨げにならないよう控えめではあるがヒールが高くデザインされていて隣を歩くゼンよりわずかに高くなっている。
そのゼンは黒いローブを羽織り、手には節くれだった木製に見える杖を握っている。
三列目は忍者装束のサスケ。
ファンタジー的にアレンジされたものではなく時代劇などで着られている上着に伊賀袴という和装然とした黒の衣装に手甲 脛 当 て、目だけ露出させた覆面頭巾姿はロムが出会った縮小前からのためどんな顔かは判らない。
刃渡り二十センチ級の短刀を帯の後ろに差し込み手にはダンジョンマップを書き込む方眼紙にシャープペンシルの芯らしき筆記具。
最後尾を物珍しそうにキョロキョロと書割を眺めながら歩くゆったりとした黒無地のトレーナーにベージュの綿パンというロムが逆に場違いに見える世界だ。
ダンジョン入り口にたどり着くと扉の横壁に電卓のようなテンキーと液晶ディスプレイがある。
ジュリーがパーティーIDを入力すると重厚なS E を伴 って扉が開いてゆく。
ロムが開けた扉の正面、カウンターを挟んでドイツの
その日本的な顔立ちには少々似合わない山吹色の髪をつむじに近い高い位置でポニーテールに結い上げ、前髪を切りそろえている。
衣装は
「ここは出発までの準備を行う場所、ドラゴンの酒場亭です。ここでは武器や防具を貸し出しています。何か必要なものはございますか?」
そこはファンタジーゲーム世界の酒場を模した部屋になっていた。
店内は木製で調度品もオーク材に見える。
カウンターの向こう、女性の後ろは棚一面に衣装や武具・防具が陳列されている。
更衣室なのだろう、カウンター横の壁面には五つの扉が並んでいる。
「みんなはもう借りたのか?」
四人ともカウンター前に揃って来たのを確認したロムの問いに答えたのはゼンだった。
「いいえ、私たちは自分たちで用意して来ましたから」
「……あ・そう……」
気持ちを立て直すのに数秒を要したロムだったが気を取り直してカウンターの後ろ、天井高三メートルはありそうな壁面いっぱいに陳列されている貸し出し品をざっと眺める。
今現在彼に必要なのは縮小できなかったベルトと靴。
それを探すとかなり高い位置に置かれている。
「布製のベタ靴と……このズボンのベルトループを通せる
女性スタッフは備え付けの
「武器はどうしますか?」
「いらない」
「え?」
ロムの返答に一瞬手を止め、梯子の上からチラリと振り返って見せた彼女はしかし、特に何をいうでもなく要望の品を用意する。
「拳士……ですか?」
「そんな感じ」
ゼンに訊かれて答えるロムは照れるでもなく格好つけるでもない。
極めて自然体だった。
「では、皆様お揃いのようなので、改めてゲームの説明をいたします」
梯子から降りて来たスタッフはカウンターに用意の品を揃えて置くと、これも外の世界のコンパニオン同様よどみなくダンジョンの概要を説明し始めた。
「当ダンジョンはTRPGの世界で有名な
一通りの説明が終わると彼女はカウンターの下から紙片を三枚取り出した。
「これはフロアサイズが書かれた
それを受け取ったサスケは数秒それを見つめるとスタッフにフロアマップを向けてぼそりと呟くように訊ねる。
「このフロアサイズは本当に正確でござるか?」
「え? ……はい」
「…………あい判った」
「フロア前で招待状に書かれていたIDを入力いただきますとタイムアタックスタートです。タイムオーバー、ギブアップ後はIDが無効になりますので必ずここにお戻りください」
「よっしゃ、行くぜ!」
ジュリーの熱血芝居掛かった一声でドラゴンの酒場亭を出て行く五人の背中に女性スタッフが声をかける。
「皆様のご健闘をお祈りします。頑張って」
と。
ドラゴンの酒場亭を出ると、ダンジョン入り口へ続く一本道の通路が伸びていた。
両脇の壁は中世ドイツ風の街並みが描かれた
「綺麗な街並みだね」
「ええ、通路まで凝っていますね」
四人の冒険者たちはその美麗なイラストを楽しみながらダンジョンへと歩いて行く。
先頭は戦士のジュリー。
胸、前腕と脛にレザーの防具をつけている。
縮小前に身につけていたものとは違いハードレザーの
左腕には防具に装着する形で木製の丸盾、腰に
二列目を歩く妹のレイナは若草色で短めのスカート、インナーに膝上丈の黒のスライディングパンツ。
キャメルのショートブーツはスエードで、あまり運動の妨げにならないよう控えめではあるがヒールが高くデザインされていて隣を歩くゼンよりわずかに高くなっている。
そのゼンは黒いローブを羽織り、手には節くれだった木製に見える杖を握っている。
三列目は忍者装束のサスケ。
ファンタジー的にアレンジされたものではなく時代劇などで着られている上着に伊賀袴という和装然とした黒の衣装に
刃渡り二十センチ級の短刀を帯の後ろに差し込み手にはダンジョンマップを書き込む方眼紙にシャープペンシルの芯らしき筆記具。
最後尾を物珍しそうにキョロキョロと書割を眺めながら歩くゆったりとした黒無地のトレーナーにベージュの綿パンというロムが逆に場違いに見える世界だ。
ダンジョン入り口にたどり着くと扉の横壁に電卓のようなテンキーと液晶ディスプレイがある。
ジュリーがパーティーIDを入力すると重厚な