02 そんな1990年代的シチュエーション知らないので付き合えません
文字数 2,305文字
出会いはゲームエクスポだった。
最新のゲームを紹介する会場の中、ひときわ耳 目 を集める広大なブース。
よくこれだけのスペースを確保できるものだというのが弘武の最初の感想だった。人集 りを掻き分けると一辺が十メートルほどで高さが九十センチくらいのミニチュアビルのような構造物。
その屋上には赤い竜が据えられている。
その横には露出度高めなビキニアーマーでコスプレした若い女性 が二人、その後ろにはロッカーや試着室のようなものが並んでいて二組の集団が体験プレイの順番を待っているようだった。
弘武はそれらの様子を興味深そうにチラチラと見やりながらブースの展示内容を紹介しているパネルの説明文を読む。
ゲームはいたって単純で、障害を乗り越え最上階(ダンジョンフィールドは三階建になっている)に棲 むドラゴンを倒し財宝を手に入れるという内容だ。
しかしクリアするのは簡単ではない。
タイムトライアルになっていて時間内に障害を乗り越えて各階をクリアして行かなければならないようだ。
「一人かい?」
そんな弘武にかけてきたのだろう妙に馴れ馴れしい芝居がかった声に振り向くと、そこには彼に笑顔を向けるコスプレ集団がいた。
ローブ姿に忍者服、何製かは知らないが手作りらしい鎧を着た男と三人の後ろに控えている涼しげな若草色の短いスカートをはいた少女。
弘武の第一印象は決してよくない。
手作り鎧の男が話しかけてくる。
まさに正義に目覚めた熱血少年……のつもりらしい話し方だ。
もっとも、彼を少年とは誰も呼ばないだろうが。
弘武はとっさにそのテの末期症状を示すマニアではないか、と思った。
一歩、彼が後退しようとしかけるとその男は慌ててこう言った。
「私たちは、別に怪しい者じゃありませんよ」
十分に怪しい。
「完全に怪しまれているでござる」
「フッ、相変わらず交渉スキルが低レベルですね」
忍者男とローブ男に突っ込まれた熱血戦士が言い訳を始めると、三人は弘武を放ったらかしてあーでもないこーでもないとひとしきり話し合う。
それがよくあるファンタジー物語のシチュエーション的な会話だなどとは、素人には理解出来るものではない。
(お前らみんなひっくるめて怪しいわけだが……)
と、成り行きを見つめていた弘武に向き直ったのは背の低い小太りのローブ男だった。
「突然のことで失礼をいたしました」
妙に鼻にかかった節のある話し方だ。
「あなたが、ミクロンダンジョンにかなりの興味を示していたのでお声をかけさせていただいたのですが、ご迷惑でしたでしょうか?」
「……迷惑といえば迷惑だけど、何か用かい?」
言われた三人は言葉を失ってしまう。
それを見かねて男たちの後ろに立っていた少女が三人を押し退 ける。
小柄で華奢 、控えめながら女性的なラインは着ている衣装の効果だろうか?
栗毛で肩に掛かるくらいのストレート、大きな目は心持ち垂れたラインを描いたあどけなさの残る少女だ。
「あー、もう……どいて! 私が頼むから」
その声は親しい相手に発する少々ツッケンドンなもの言いながら、透明感のある心地よい印象を与える。
しかし、その表現は容赦ない。
「まずはごめんなさい。ちょっと拗 らせてる人たちだから他人 との会話が苦手なの」
「俺も得意じゃないからそれはいい。で?」
と、弘武が先を促すと少女は安心したのかいくぶん柔らかな、友達に話しかけるような言い方で説明を始めた。
「私たち、そこの試作展示の体験プレイに招待されてるんだけど、一パーティ五人まで参加できるのね? で、せっかくだから誰か誘おうって……」
そう言われて弘武はやっと理解した。彼らが弘武を誘っていたのだと。
「え? で俺? え? 何で?」
「理由は大きく二つ」
と、痩せ気味の青年戦士が割り込んできた。
「一つは君が一人だったから。見ての通り、我々は四人パーティ。招待券一枚で参加できるのは最大五人までだから誘えるのは一人だけ。今回事前登録で招待されたのは二日間で十五組。招待されているなら仲間と一緒に来ているはずだとしばらく様子を見ていたが、君が誰かと一緒に来たという様子は見受けられなかった」
話し始めると止まらないタイプなのか合いの手を入れることもできないようなまくし立てかたをする。
「ゲームエクスポに一人で来るのは相当のゲームマニアだ。当然ミクロンにも大いに興味があるだろう?」
ようやく質問の形で会話のボールがこちらに投げられた。
「確かに全く新しいジャンルのゲームの最新モデルと聞けば、やってみたいと思うけど……」
実際、弘武はそれなりにゲームマニアだがシューティング系のゲームを好んでやることが多かった。
ミクロンダンジョンは正確にはアスレチックでありアドベンチャーのようなものだが、ゲームジャンル的にRPGとして扱われている。
昨今人気のゲームながら筐 体 (というより体験空間 )が大きく、遊べるゲームセンターが限られていていつも順番待ちの上「安全のため、三人以上一組で参加願います」と注意書きされていたし、一プレイ一人二千円という金額も高校生の身にはハードルが高かった。
「でも、ゲーマーなら他にもいっぱいいるだろ?」
「そこであなたを選んだ二つ目の理由……ですよ」
と、ローブ男がニヤリと笑いかけてきた。
最新のゲームを紹介する会場の中、ひときわ
よくこれだけのスペースを確保できるものだというのが弘武の最初の感想だった。
その屋上には赤い竜が据えられている。
その横には露出度高めなビキニアーマーでコスプレした
弘武はそれらの様子を興味深そうにチラチラと見やりながらブースの展示内容を紹介しているパネルの説明文を読む。
ゲームはいたって単純で、障害を乗り越え最上階(ダンジョンフィールドは三階建になっている)に
しかしクリアするのは簡単ではない。
タイムトライアルになっていて時間内に障害を乗り越えて各階をクリアして行かなければならないようだ。
「一人かい?」
そんな弘武にかけてきたのだろう妙に馴れ馴れしい芝居がかった声に振り向くと、そこには彼に笑顔を向けるコスプレ集団がいた。
ローブ姿に忍者服、何製かは知らないが手作りらしい鎧を着た男と三人の後ろに控えている涼しげな若草色の短いスカートをはいた少女。
弘武の第一印象は決してよくない。
手作り鎧の男が話しかけてくる。
まさに正義に目覚めた熱血少年……のつもりらしい話し方だ。
もっとも、彼を少年とは誰も呼ばないだろうが。
弘武はとっさにそのテの末期症状を示すマニアではないか、と思った。
一歩、彼が後退しようとしかけるとその男は慌ててこう言った。
「私たちは、別に怪しい者じゃありませんよ」
十分に怪しい。
「完全に怪しまれているでござる」
「フッ、相変わらず交渉スキルが低レベルですね」
忍者男とローブ男に突っ込まれた熱血戦士が言い訳を始めると、三人は弘武を放ったらかしてあーでもないこーでもないとひとしきり話し合う。
それがよくあるファンタジー物語のシチュエーション的な会話だなどとは、素人には理解出来るものではない。
(お前らみんなひっくるめて怪しいわけだが……)
と、成り行きを見つめていた弘武に向き直ったのは背の低い小太りのローブ男だった。
「突然のことで失礼をいたしました」
妙に鼻にかかった節のある話し方だ。
「あなたが、ミクロンダンジョンにかなりの興味を示していたのでお声をかけさせていただいたのですが、ご迷惑でしたでしょうか?」
「……迷惑といえば迷惑だけど、何か用かい?」
言われた三人は言葉を失ってしまう。
それを見かねて男たちの後ろに立っていた少女が三人を押し
小柄で
栗毛で肩に掛かるくらいのストレート、大きな目は心持ち垂れたラインを描いたあどけなさの残る少女だ。
「あー、もう……どいて! 私が頼むから」
その声は親しい相手に発する少々ツッケンドンなもの言いながら、透明感のある心地よい印象を与える。
しかし、その表現は容赦ない。
「まずはごめんなさい。ちょっと
「俺も得意じゃないからそれはいい。で?」
と、弘武が先を促すと少女は安心したのかいくぶん柔らかな、友達に話しかけるような言い方で説明を始めた。
「私たち、そこの試作展示の体験プレイに招待されてるんだけど、一パーティ五人まで参加できるのね? で、せっかくだから誰か誘おうって……」
そう言われて弘武はやっと理解した。彼らが弘武を誘っていたのだと。
「え? で俺? え? 何で?」
「理由は大きく二つ」
と、痩せ気味の青年戦士が割り込んできた。
「一つは君が一人だったから。見ての通り、我々は四人パーティ。招待券一枚で参加できるのは最大五人までだから誘えるのは一人だけ。今回事前登録で招待されたのは二日間で十五組。招待されているなら仲間と一緒に来ているはずだとしばらく様子を見ていたが、君が誰かと一緒に来たという様子は見受けられなかった」
話し始めると止まらないタイプなのか合いの手を入れることもできないようなまくし立てかたをする。
「ゲームエクスポに一人で来るのは相当のゲームマニアだ。当然ミクロンにも大いに興味があるだろう?」
ようやく質問の形で会話のボールがこちらに投げられた。
「確かに全く新しいジャンルのゲームの最新モデルと聞けば、やってみたいと思うけど……」
実際、弘武はそれなりにゲームマニアだがシューティング系のゲームを好んでやることが多かった。
ミクロンダンジョンは正確にはアスレチックでありアドベンチャーのようなものだが、ゲームジャンル的にRPGとして扱われている。
昨今人気のゲームながら
「でも、ゲーマーなら他にもいっぱいいるだろ?」
「そこであなたを選んだ二つ目の理由……ですよ」
と、ローブ男がニヤリと笑いかけてきた。