04 洋館探索

文字数 3,097文字

 上った先は屋根裏収納のような場所で、小さな明り取りの窓があって開けることができるようだった。

「生活感がないでござるな」

 先に登っていたサスケが一通り物色したようで、窓から差し込む光でメモを取っている。

「応接室ははめ殺しの窓だったのにここは開けられるんだな」

 ジュリーが不思議そうに開けたり閉めたりする。

「多分わざとでしょうね」

「それもシナリオの一部?」

「それは計りかねますが、我々を残して彼らが消えたのは意図的なんじゃないかとは思います」

「先へ進もうじゃないか」

「ですね」

 クロに促される形で冒険者は部屋を出る。
 三階はいくつかの大きな部屋と廊下で構成されていたがどの部屋も使われた形跡がなく、吹き抜けから見下ろしたエントランスは彼らが入ってきたときと変わらない。
 階段から二階に降りると、総じて寝室だったが、一部がクローゼットだったりして使われた形跡がある。
 そして、この階にはいくつかの空白が存在した。
 彼らが通ってきたような幾つかの隠し部屋、あるいは何か仕掛け用の小部屋だと思われた。

「調べるのか?」

 コーがその一つと見られる場所の壁に立ってゼンをみる。

「全てを調べるのは無駄のような気がしますね……」

 と、例の仕草で思考の底に沈む。
 外はいつしか夕景になりつつあった。

「手分けして探すんじゃダメなのかい?」

 と、ヒビキがいえば
「何かあったときにリスクが高いし合流できない事態になる可能性もある。得策じゃないと思うな」

 と、ジュリーが返す。

「勝手に泉から離れたお兄ちゃんがそれ言うんだ」

「あ……いや、すまん」

「サスケ、見取り図は?」

 差し出された見取り図を見つめたゼンはトントンと二箇所を指で指した。

「何かあるとすればココとココでしょう」

「なら近い方から」

 と、クロが先行して歩き出す。

「仕掛けがあるとすれば、廊下の壁ではなく部屋の壁だと思います」
 後を追いかけながらゼンが後ろから声をかけると、クロは振り向くことなく右手をあげる。
 全員が部屋に入ったのを確認してサスケが壁を調べるが、隠し部屋に通じる入り口を開くことができない。

「どこかにスイッチのようなものがあるんでしょうね」

 部屋は書斎のようで色々と調度品があってどれも怪しそうだった。

「ありがちなのはこの書棚の本のどれかがレバーになっているとか……」

「机のどこかにスイッチでござるか?」

 ジュリーとサスケが探すもそれらしきものが見当たらない。

「この部屋……」

 と、レイナが部屋を見回す。

「どうしたの?」

「よく使われているような……」

「確かにそんな感じね。と言うか掃除が行き届いている。埃っぽさが全然ない」

 それはある意味綺麗好きな二人だから感じた印象だったかもしれない。

!? スズネ、最も念入りに掃除されてるのはどこだ?」

「念入りに? そうだね……スタンドライトかな?」

「コーさん、何か判ったんですか?」

「ん? 物語なんかでよくその手の仕掛けをそこだけ埃がないとか擦り傷とかで目星を付ける探偵的な話があるだろ?」

「あるね」

「隠し扉なんて仕掛けを考えるような奴らがそんなヘマするのかと思ってな?」

「へぇ、コーちゃんにしては鋭い洞察力じゃない」

「なんだと、スズネ」

「はいはい、痴話喧嘩はそこまでそこまで、サスケがスイッチを見つけたらしいからおしまいね」

「ちわっ……!?

「ロム、おまっ……あー、もう!」

 そんなやりとりを無視して、クロたちは隠し扉を粛々と開ける作業をしていた。
 音もなく開いた隠し扉の奥は、無機質なのっぺりとした部屋だった。

「ハズレか? !?

 と、ジュリーが足を踏み入れた瞬間、彼の足元、床が抜けてジュリーは滑り落ちていく。

「お兄ちゃん!」

 床が抜け、滑り落ちていくジュリーを助けようとコーが伸ばした手は、確かにジュリーの腕を掴んでいた。
 しかし、踏ん張りの効かない体勢では救いようがなく、ジュリー共々落ちていった。

「コーちゃん!」

「クロさん」

 心配そうなレイナとヒビキの様子を確認し、次いでゼンを見た後、ロムがクロに声を掛ける。
 こういう時は即断即決が必要だとロムは体験的に知っているからだ。
 クロもちらりとゼンを見るとロムに頷いた。

「後を追おう。ゼン、いいな?」

「え? ……ええ、そうしましょう」

 六人は急な滑り台になっている穴に間隔をおいて入っていく。
 最初にヒビキが、その後サスケ、ゼン、レイナ、ロムと続き、最後にクロが滑り降りる。
 かなりのスピードで落ちた先は穴にウレタン材が詰められた体操用のピットのようになっていて、衝撃を和らげられる仕組みになっていた。

「これは……?」

「どうやら(トラップ)とは違うもののようですね。一種の緊急離脱装置のようなものではないでしょうか?」

 先に降りてあたりを探っていたのだろうゼンがそう説明する。

「ということは……」

「ええ、

を引き当てたようです」

「進む準備は出来ているでござる」

「そうか」

 通路を歩きながら、ジュリーは何となく見覚えがあるというか知っている感覚を覚えた。

「どうかしたのか?」

 隣を歩くコーに聞かれて頭を掻きながら

「んーん……なんかこんな景色というか場面というか、知っているような気がするんだよな」

「こんな場面?」

「何知識だ?」

 と、声をかけたのはクロだった。
 どうやら彼にもそんな既視感のようなものがあるようだ。

「アニメかゲーム……オレの知識はだいたいそんなので出来てるから」

 (それは自信満々に言っていいことなのか?)と内心苦笑いをしながらもロムは自分の記憶を掘り下げていく。
 アニメに関してはリアルタイム視聴に毛の生えたくらいしか見ていない。
 あとはせいぜい両親と一緒に観た青いタヌキや父が好きだったというロボットものくらいだ。
 ゲームならシューティングゲームに限ってだが、二十世紀のタイトルもかなりやり込んでいる。

「そういえば、二十世紀の3Dシューティングに洞窟? トンネルかな? を進む感じのゲームがあってこんな雰囲気だったかもな……」

「それだ!」

 そう言ったのはジュリーではなくクロの方だった。

「いや、ゲームというより二十世紀のアニメ演出だな。父がロボットアニメが好きでな。子供の頃よく父が見せてくれた古いアニメの発進シークエンスがこんなトンネルを進む演出だった」

「あ、それならオレもウルトラマン()るにあたって観た、過去の番組でおんなじような演出を観たぞ」

「それか!?

 ジュリーも納得いったようだ。

「とすれば、この先にあるものは……」

 通路の先を見据えるゼンは興奮から武者震いをしているようだった。
 ゼンが何を考えているのか仲間たちはピンと来た。
 知らず知らずのうちに歩く速度が速くなり、いつしか先を争うように走り出していた。
 意味もなく(ワイン)曲がりくねった(ディング)(ロード)の先に光に包まれた出口が見える。

「ト……(トラップ)に気をつけて…………」

 体力差で完全に遅れて追いかけるゼンが息も絶え絶えに仲間に発する。
 彼らもそれは十分考慮していたのだろう。
 それぞれが武器を抜き放ち抜き身を握って飛び込んでいった。
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