05 役割と成果
文字数 2,688文字
「面白い」
と唸ったのは蒼龍騎の隣にいた三十手前のやや太めの男だった。
「何が面白い?」
蒼龍騎に訊ねられて男はしたり顔で周りに説明するように解説を始めた。
「僕らはRPGや過去のミクロンダンジョンをプレイした経験や思い込みから、光源を用意するときに松明やランタンをイメージする。そしてやはりその思い込みからランタンを用意してきた。実際、ランタン型ミニライトなんてのが百円ショップあたりで手に入るからね、君らもそうだろ?」
蒼龍騎をはじめ何人かが無意識に頷く。
「僕はミクロンダンジョンが現実世界のアスレチックゲームの一種であると考えていた。RPGを模したね。僕らのパーティは五人だがみんなそう考えていたと思うんだ。だから全員が戦士だ。体型からドワーフを自認してる奴もいるけどね」
そんなジョークで客席に苦笑が漏れた。
「でも、ちょっと考えてみたまえ。ファンタジー世界には魔法という概念がある。どのゲームでも明かりの魔法はごく初期から使える初歩的なものだ。今彼が持っている杖を光源にしているのは明らかに『明かりの魔法』を再現したものだ。面白いだろ?」
彼の解説は次第に熱を帯び、自然と周りの注目を集めて行く。
「面白いじゃないか、そうは思わないかい? 僕らはミクロンダンジョンをクリアすることばかりに夢中になった結果R P G の楽しみ方を忘れていたのさ。彼らはちゃんと本来の遊び方である『役柄を演じること』を実行しているんだ」
「面白い解釈だ。だがRPGは何もファンタジーばかりじゃないだろ?」
と、反論してきたのはもう少し年齢層の高めで、神経質そうな痩せぎすの男だった。
「そうですね。でもダンジョンアタックという表現が示す通り、少なくともこれまでのミクロンダンジョンはファンタジー世界の地下迷宮を模したアトラクションだ。そして彼らはそうした設定を前提に自分たちの役割を演じている」
「ふぅむ」
「そういうことなんだ」
黙ってしまった男の代わりに呟いたのは蒼龍騎の冒険仲間紅 蓮 の鳳凰 だった。
しかし、突拍子もないつぶやきだったため誰もがその意図を汲めず、蒼龍騎などは頭の上にいくつもの『?』を浮かべてしまう。
「何がそういうことなんだよ?」
「いや、千葉のダンジョンだよ。俺たちのパーティも基本ファイターだらけだろ? だけどゲームシナリオ制作者三田善治プロデュースのダンジョンだってんならファンタジーRPG的アプローチが必要なんじゃないかと思ってさ」
それを聞いた会場中の観客がざわざわと騒ぎ出した。
新しいダンジョンの情報だ。
危険を冒してプレイしている筋金入りのプレイヤーたちが、色めき立たないわけがない。
不用意に口走ってしまった紅蓮の鳳凰だけでなく蒼龍騎や他の仲間まで詰め寄られることとなる。
もちろん千葉のダンジョンのことを噂レベルで知っていたもの、今日のダンジョンアタック前に店主が言っていたように四人がそのダンジョンの唯一のクリアパーティであることを知っているものなどもいたのだが。
騒ぎが思ったより大きくなりかけた時、店主が大きな咳払いをする。
それに呼応して観客のざわめきが潮が引くように静まり、結果必然的にモニターに視線が戻って行く。
そのメインモニターには、今まさに最初の遭遇 が仕込まれている部屋の前にたどりついた四人の姿が映っていた。
冒険者たちは最初の扉の前に立っていた。
扉は木製で鍵穴はない。
サスケが調べた限り特に仕掛けもないようだった。
「わざわざ扉を用意しているってことは、当然何かがあるってことだよな?」
「そうとも限りませんが、第一階層ですしまだシナリオが動いていないことを考えれば何かはあるでしょうね」
「願わくば怪物 であってほしいね」
すらりと腰の剣を抜くと、ジュリーは無造作に扉を開けた。
開けた先は彼らの想定通り部屋となっていた。
さっと部屋に散会した四人は、ぐるりと部屋を見渡す。
ゼンの杖は部屋いっぱいを照らすだけの光量を持っているようだ。
ドアの向こう正面に二体の豚型の怪物、和製RPGのビジュアルとして描かれる典型的なオークだ。
ブーンという通電した気配があり、オークが前後に移動を始めた。
「打撃反応型のモンスターだな。ロムは見ていてくれ」
ジュリーは言うと、サスケに目配せをすると右手のオークの前に出るて剣を両手で握り正眼に構える。
オークはジュリーの胸あたりの体長なので普段の構えより少し低いのが違和感になっていたが、落ち着いて準備ができる今のうちに慣れておけばいい。
意識的にゆっくり息を吐き出し、腹式呼吸で息を吸いながら剣を上段にふりあげる。
前後するオークが前に出てくるタイミングに合わせて二歩、間合いを詰めながら腹から声を出し剣を振り下ろす。
オークは悲鳴を上げて壁際に戻っていった。
一撃で倒したのは初めてだった。
サスケは左手のオークと対峙すると、腰から短刀を抜き逆手に握る。
彼も前後に移動するオークの動きを見定めて姿勢を低くしながら体当たりでもするように突っ込むと、わずかに体をひねって短刀を首筋に当てる。
こちらも一撃で倒せたらしく悲鳴をあげながら所定の位置へ戻っていった。
二人は互いの武器をしまうとニヤけた顔(もっともサスケは覆面をしているが)で無言のハイタッチをする。
「合格なのでしょうか?」
ゼンがロムに訊ねる。
「
「厳しいねぇ」
会心の一撃に酔いたかったジュリーは大げさな表現でいじけてみせる。
しかし、ロムの言いたいことも重々承知している。
彼らが挑もうとしているのは
「マップの方はOKでござる。おそらくこのダンジョン、一ブロック半フィートでござろう。通路幅が一ブロックとして十五センチでござる」
「なるほど、体感百五十センチ……狭いわけだ」
ロムが棍をぐるりと振り回す。
「どうせならTRPGのスタンダードに合わせて一ブロック十フィートを採用してくれればよかったのですがね」
「最近の和製RPGはメートル換算だろ?」
などと軽口を言い合いながら四人は先へ進む。
と唸ったのは蒼龍騎の隣にいた三十手前のやや太めの男だった。
「何が面白い?」
蒼龍騎に訊ねられて男はしたり顔で周りに説明するように解説を始めた。
「僕らはRPGや過去のミクロンダンジョンをプレイした経験や思い込みから、光源を用意するときに松明やランタンをイメージする。そしてやはりその思い込みからランタンを用意してきた。実際、ランタン型ミニライトなんてのが百円ショップあたりで手に入るからね、君らもそうだろ?」
蒼龍騎をはじめ何人かが無意識に頷く。
「僕はミクロンダンジョンが現実世界のアスレチックゲームの一種であると考えていた。RPGを模したね。僕らのパーティは五人だがみんなそう考えていたと思うんだ。だから全員が戦士だ。体型からドワーフを自認してる奴もいるけどね」
そんなジョークで客席に苦笑が漏れた。
「でも、ちょっと考えてみたまえ。ファンタジー世界には魔法という概念がある。どのゲームでも明かりの魔法はごく初期から使える初歩的なものだ。今彼が持っている杖を光源にしているのは明らかに『明かりの魔法』を再現したものだ。面白いだろ?」
彼の解説は次第に熱を帯び、自然と周りの注目を集めて行く。
「面白いじゃないか、そうは思わないかい? 僕らはミクロンダンジョンをクリアすることばかりに夢中になった結果
「面白い解釈だ。だがRPGは何もファンタジーばかりじゃないだろ?」
と、反論してきたのはもう少し年齢層の高めで、神経質そうな痩せぎすの男だった。
「そうですね。でもダンジョンアタックという表現が示す通り、少なくともこれまでのミクロンダンジョンはファンタジー世界の地下迷宮を模したアトラクションだ。そして彼らはそうした設定を前提に自分たちの役割を演じている」
「ふぅむ」
「そういうことなんだ」
黙ってしまった男の代わりに呟いたのは蒼龍騎の冒険仲間
しかし、突拍子もないつぶやきだったため誰もがその意図を汲めず、蒼龍騎などは頭の上にいくつもの『?』を浮かべてしまう。
「何がそういうことなんだよ?」
「いや、千葉のダンジョンだよ。俺たちのパーティも基本ファイターだらけだろ? だけどゲームシナリオ制作者三田善治プロデュースのダンジョンだってんならファンタジーRPG的アプローチが必要なんじゃないかと思ってさ」
それを聞いた会場中の観客がざわざわと騒ぎ出した。
新しいダンジョンの情報だ。
危険を冒してプレイしている筋金入りのプレイヤーたちが、色めき立たないわけがない。
不用意に口走ってしまった紅蓮の鳳凰だけでなく蒼龍騎や他の仲間まで詰め寄られることとなる。
もちろん千葉のダンジョンのことを噂レベルで知っていたもの、今日のダンジョンアタック前に店主が言っていたように四人がそのダンジョンの唯一のクリアパーティであることを知っているものなどもいたのだが。
騒ぎが思ったより大きくなりかけた時、店主が大きな咳払いをする。
それに呼応して観客のざわめきが潮が引くように静まり、結果必然的にモニターに視線が戻って行く。
そのメインモニターには、今まさに最初の
冒険者たちは最初の扉の前に立っていた。
扉は木製で鍵穴はない。
サスケが調べた限り特に仕掛けもないようだった。
「わざわざ扉を用意しているってことは、当然何かがあるってことだよな?」
「そうとも限りませんが、第一階層ですしまだシナリオが動いていないことを考えれば何かはあるでしょうね」
「願わくば
すらりと腰の剣を抜くと、ジュリーは無造作に扉を開けた。
開けた先は彼らの想定通り部屋となっていた。
さっと部屋に散会した四人は、ぐるりと部屋を見渡す。
ゼンの杖は部屋いっぱいを照らすだけの光量を持っているようだ。
ドアの向こう正面に二体の豚型の怪物、和製RPGのビジュアルとして描かれる典型的なオークだ。
ブーンという通電した気配があり、オークが前後に移動を始めた。
「打撃反応型のモンスターだな。ロムは見ていてくれ」
ジュリーは言うと、サスケに目配せをすると右手のオークの前に出るて剣を両手で握り正眼に構える。
オークはジュリーの胸あたりの体長なので普段の構えより少し低いのが違和感になっていたが、落ち着いて準備ができる今のうちに慣れておけばいい。
意識的にゆっくり息を吐き出し、腹式呼吸で息を吸いながら剣を上段にふりあげる。
前後するオークが前に出てくるタイミングに合わせて二歩、間合いを詰めながら腹から声を出し剣を振り下ろす。
オークは悲鳴を上げて壁際に戻っていった。
一撃で倒したのは初めてだった。
サスケは左手のオークと対峙すると、腰から短刀を抜き逆手に握る。
彼も前後に移動するオークの動きを見定めて姿勢を低くしながら体当たりでもするように突っ込むと、わずかに体をひねって短刀を首筋に当てる。
こちらも一撃で倒せたらしく悲鳴をあげながら所定の位置へ戻っていった。
二人は互いの武器をしまうとニヤけた顔(もっともサスケは覆面をしているが)で無言のハイタッチをする。
「合格なのでしょうか?」
ゼンがロムに訊ねる。
「
まとも
なミクロンダンジョンをやるだけなら合格かな。とりあえず及第点だ」「厳しいねぇ」
会心の一撃に酔いたかったジュリーは大げさな表現でいじけてみせる。
しかし、ロムの言いたいことも重々承知している。
彼らが挑もうとしているのは
あの日
の、いやあの日以上の戦いになるかもしれないダンジョンなのだ。「マップの方はOKでござる。おそらくこのダンジョン、一ブロック半フィートでござろう。通路幅が一ブロックとして十五センチでござる」
「なるほど、体感百五十センチ……狭いわけだ」
ロムが棍をぐるりと振り回す。
「どうせならTRPGのスタンダードに合わせて一ブロック十フィートを採用してくれればよかったのですがね」
「最近の和製RPGはメートル換算だろ?」
などと軽口を言い合いながら四人は先へ進む。