01 北の門から旅立つ九人の冒険者
文字数 3,335文字
街の北を探索するのは九人の冒険者だ。
リーダーは黒川 陸 斗 。
剣道の有段者で、メンバー屈指の実力者だ。
厚手の生成 り色の剣道着に白袴は街で仕立てたもので、色が揃っていないのは乏しい物資事情によるものだ。
身につけている小手と胴のような防具は、ジュリーの鎧を参考にしつつ、着慣れた剣道の防具を模したものだ。
腰に佩 いた武器は「オレが使うよりいい」とジュリーから渡された真剣。
剣道で培った所作と演技派の俳優として鳴らした風格で、さながら幕末の剣客のように見える。
クロに次ぐ実力者である響 木 涼 音 はアクション女優らしくきりりと整った顔立ちに腰まで届く長い黒髪。
すらりと長い手足とくびれたウエストに鍛えられた大きな腰回りで、革製の黒いタイトなライダーススーツからこぼれそうなほど豊かな胸の持ち主だ。
プロテクターとして前腕と脛には金属プレートがあてがわれるている。
手には自身の身長ほどの短槍を持ち、腰には三節棍を下げている。
ウルトラマンの主演を務めていた浅 見 洸 汰 も若手俳優らしく耳にかかるほどの無造作ヘアにも関わらず、人好きのする清潔感を感じさせる見た目をしている。
しかし、見た目とは裏腹にこの過酷な戦場で主力を張ってきた努力と根性によって鍛え上げられた強靭な肉体を、簡易ながらジュリーの鎧を参考にした全身鎧で覆っている。。
武器は幅広の刀身を持つ両手持ちの剣だ。
葡萄 色 のローブ姿の三田 善 治 はフードを目深に被り、魔法の杖を模した科学の杖を持っている。
ローブの下には鎖帷子を着込んでいるので、接近戦でも簡単にはやられないだろう。
柿渋色 の忍者装束は佐 藤 航助 である。
ゼンのものより太い鎖で編まれた鎖帷子を着込み、目出しの覆面は鉢金付きの平頭巾。
光沢のない赤 銅 色 の手甲、籠手、脛当て履き。
帯には刃を研いだ脇差を差し込み、背中には鍔広の刀を背負っている。
懐にはマキビシなども用意している。
珠 木 理 の防具は本人が徹底的に改良を施した南蛮胴具足ベースの鎧だ。
鎧と同じく朱塗りで統一された兜もアニメのロボット風にデザインがアレンジされているが、機能性が高い。
クロに日本刀を託したため、鎧とは多少不釣り合いなショートソードを佩いているが、最も重武装な戦士姿となっている。
妹の珠 木 玲 奈 は赤 龍 にさらわれた時の格好だった。
若草色のスカートは短めで、下に黒のスライディングパンツを履いている。
中学を卒業したばかりだった頃の衣装は成長のせいか、当時は控えめだった胸の辺りが窮屈そうだ。
もちろん革製の防具は街で金属プレートによって補強されている。
佩刀はレイピアだが、こちらは当時のものでなく、畑中 耕作 が作ったなかなかの逸品である。
最も軽装だろうと思える伊達 弘 武 は筋肉の動きを悟られないようにゆったりとした身頃の藍色の拳法着姿。
服の中に前腕と脛のプロテクターは装着しているがそれ以上の装甲はない。
裾は足首の上で軽く紐で縛り、袖は指先が軽く見える程度に折り返されている。
武器の棍は二メートル相当で、本来のサイズで振った時の手応え、しなりを再現したジュリー渾身の逸品だ。
そして、この旅についてたき最後の一人、遠藤 修 斗 は街で支給された一般的なファンタジー風軽鎧に身を包み、星球式槌矛 を肩に担いている。
九人の冒険者が街の防衛戦で見慣れた戦場を通り過ぎ、なおも五分程進むと心持ち登りの傾斜になった。
定期的に集団が移動しているからなのか路 ができている。
さらに十分、登りが終わるとはっきり判る下り坂になった。
物見櫓からは目視で十数キロ先まで見通せるように感じられたが、実際には発見から接敵まで三十分とかからなかったカラクリが判ったのだ。
「なるほど、見渡す限りの荒野はこういう仕組みで表現されていたのですね」
奥行きを広く見せる工夫があったとしても、縮尺十分の一とはいえ柱のない空間というのはかなり高い技術力である。
南門の向こう、街へ追い立てられたスタート地点から街までもかなりの距離があった気がしたが、深い霧の中何かしら錯覚させる仕掛けがあったかもしれない。
とはいえ、ざっと計算しても実測で奥行き一キロ以上、横幅が仮に街の幅以上なかったとしても幅二百メートルの空間が地下に広がっているのだ。
そのまま歩き続けて十分、やがて絵に描かれた塔が見えてきた。
遠くから見ると実際に存在しているように見える緻密な塔は背景まで精細に描き込まれた壁面に描かれている。
その塔で唯一本物なのが大きな金属製の扉だった。
冒険者たちが念のため周囲を探索して見ると隠し扉 が二ヶ所に存在し、怪物の足跡はその二箇所から続いているのが判る。
九人は塔の前で周囲を警戒しながら話し合うことにした。
隠し扉の方はどうやらこちら側からは開けられないようになっているようなので、塔の扉から入ることは決を採るまでもない。
扉には鍵穴はなく、サスケが念入りに調べた結果少なくとも扉自体に罠が仕掛けられていることはないようだった。
「しかし……あからさますぎて相手の罠ですよね、コレ」
「だろうな。しかし、我々には先へ進む以外の選択肢はないぞ」
「ですね」
話し合いといってもすることはすでに決まっていた。
これはそれぞれの覚悟を確認する作業だったと言っていい。
もちろん誰一人覚悟の決まらなかったものはいない。
観音開きのその扉をコーとジュリーが慎重に開けると味気ないコンクリートの閉鎖空間で、正面に下り階段があるだけの埃っぽいエントランスホールがあった。
階段は三人が並んで通れるほどの幅がある。
「隊列を考えなければいけませんね」
ゼンがクロに提案すると彼はメンバーの顔を見回して選抜する。
先頭は実力ナンバー2のヒビキと完全武装のジュリー、二列目は右からサスケ、クロ、シュウト、三列目にレイナとゼン、殿 はコーとロムが務めることになった。
「さすがですね」
と、階段を降りながら用意してきたランタンを持ったゼンがつぶやく。
「隊列のことか?」
と後ろからコーが声をかけるとゼンが嬉しそうに解説を始めた。
その饒舌さにコーが辟易とする様子にレイナとロムが目配せしながら苦笑するのをシュウトが鋭い視線で振り返る。
クロはそれに気づかないフリをして薄暗いランタンに照らされた通路のさきを警戒していた。
程なく扉が行く手を塞ぐ。
「警戒する必要はないでしょう。推測ではありますが、この地下迷宮 も我々が拉致されたミクロンダンジョンと同じコンセプトで作られているのだと思います」
「とすると、中に入ると戻れなくなるってことだな?」
「楽観視はできないと思うんだけどなぁ」
ゼンとジュリーの会話にロムが割り込むとヒビキも同調する。
「油断させるのは奇襲の常套手段だ。思い込みは致命的な失敗を生み出す」
「……そうでしたね」
「でもまぁ、油断させるためには布石が必要だ。ここはゼンの意見に乗っていいと思うぞ」
「オレもコーの意見に賛成しよう。少なくともここは問題ない」
クロが最終的に決断を下した形になり、その間に扉を入念に調べ上げていたサスケが罠のないことを確認した。
扉はジュリーが開けることになった。
鉄扉 の軋む音が響き押し開かれた扉の向こうが姿を現わす。
そこは小さな部屋になっていて右手に木の扉が一つ、案に違わずそこはミクロンダンジョンのセオリー通り最初の小部屋 となっていた。
リーダーは
剣道の有段者で、メンバー屈指の実力者だ。
厚手の
身につけている小手と胴のような防具は、ジュリーの鎧を参考にしつつ、着慣れた剣道の防具を模したものだ。
腰に
剣道で培った所作と演技派の俳優として鳴らした風格で、さながら幕末の剣客のように見える。
クロに次ぐ実力者である
すらりと長い手足とくびれたウエストに鍛えられた大きな腰回りで、革製の黒いタイトなライダーススーツからこぼれそうなほど豊かな胸の持ち主だ。
プロテクターとして前腕と脛には金属プレートがあてがわれるている。
手には自身の身長ほどの短槍を持ち、腰には三節棍を下げている。
ウルトラマンの主演を務めていた
しかし、見た目とは裏腹にこの過酷な戦場で主力を張ってきた努力と根性によって鍛え上げられた強靭な肉体を、簡易ながらジュリーの鎧を参考にした全身鎧で覆っている。。
武器は幅広の刀身を持つ両手持ちの剣だ。
ローブの下には鎖帷子を着込んでいるので、接近戦でも簡単にはやられないだろう。
ゼンのものより太い鎖で編まれた鎖帷子を着込み、目出しの覆面は鉢金付きの平頭巾。
光沢のない
帯には刃を研いだ脇差を差し込み、背中には鍔広の刀を背負っている。
懐にはマキビシなども用意している。
鎧と同じく朱塗りで統一された兜もアニメのロボット風にデザインがアレンジされているが、機能性が高い。
クロに日本刀を託したため、鎧とは多少不釣り合いなショートソードを佩いているが、最も重武装な戦士姿となっている。
妹の
若草色のスカートは短めで、下に黒のスライディングパンツを履いている。
中学を卒業したばかりだった頃の衣装は成長のせいか、当時は控えめだった胸の辺りが窮屈そうだ。
もちろん革製の防具は街で金属プレートによって補強されている。
佩刀はレイピアだが、こちらは当時のものでなく、
最も軽装だろうと思える
服の中に前腕と脛のプロテクターは装着しているがそれ以上の装甲はない。
裾は足首の上で軽く紐で縛り、袖は指先が軽く見える程度に折り返されている。
武器の棍は二メートル相当で、本来のサイズで振った時の手応え、しなりを再現したジュリー渾身の逸品だ。
そして、この旅についてたき最後の一人、
九人の冒険者が街の防衛戦で見慣れた戦場を通り過ぎ、なおも五分程進むと心持ち登りの傾斜になった。
定期的に集団が移動しているからなのか
さらに十分、登りが終わるとはっきり判る下り坂になった。
物見櫓からは目視で十数キロ先まで見通せるように感じられたが、実際には発見から接敵まで三十分とかからなかったカラクリが判ったのだ。
「なるほど、見渡す限りの荒野はこういう仕組みで表現されていたのですね」
奥行きを広く見せる工夫があったとしても、縮尺十分の一とはいえ柱のない空間というのはかなり高い技術力である。
南門の向こう、街へ追い立てられたスタート地点から街までもかなりの距離があった気がしたが、深い霧の中何かしら錯覚させる仕掛けがあったかもしれない。
とはいえ、ざっと計算しても実測で奥行き一キロ以上、横幅が仮に街の幅以上なかったとしても幅二百メートルの空間が地下に広がっているのだ。
そのまま歩き続けて十分、やがて絵に描かれた塔が見えてきた。
遠くから見ると実際に存在しているように見える緻密な塔は背景まで精細に描き込まれた壁面に描かれている。
その塔で唯一本物なのが大きな金属製の扉だった。
冒険者たちが念のため周囲を探索して見ると
九人は塔の前で周囲を警戒しながら話し合うことにした。
隠し扉の方はどうやらこちら側からは開けられないようになっているようなので、塔の扉から入ることは決を採るまでもない。
扉には鍵穴はなく、サスケが念入りに調べた結果少なくとも扉自体に罠が仕掛けられていることはないようだった。
「しかし……あからさますぎて相手の罠ですよね、コレ」
「だろうな。しかし、我々には先へ進む以外の選択肢はないぞ」
「ですね」
話し合いといってもすることはすでに決まっていた。
これはそれぞれの覚悟を確認する作業だったと言っていい。
もちろん誰一人覚悟の決まらなかったものはいない。
観音開きのその扉をコーとジュリーが慎重に開けると味気ないコンクリートの閉鎖空間で、正面に下り階段があるだけの埃っぽいエントランスホールがあった。
階段は三人が並んで通れるほどの幅がある。
「隊列を考えなければいけませんね」
ゼンがクロに提案すると彼はメンバーの顔を見回して選抜する。
先頭は実力ナンバー2のヒビキと完全武装のジュリー、二列目は右からサスケ、クロ、シュウト、三列目にレイナとゼン、
「さすがですね」
と、階段を降りながら用意してきたランタンを持ったゼンがつぶやく。
「隊列のことか?」
と後ろからコーが声をかけるとゼンが嬉しそうに解説を始めた。
その饒舌さにコーが辟易とする様子にレイナとロムが目配せしながら苦笑するのをシュウトが鋭い視線で振り返る。
クロはそれに気づかないフリをして薄暗いランタンに照らされた通路のさきを警戒していた。
程なく扉が行く手を塞ぐ。
「警戒する必要はないでしょう。推測ではありますが、この
「とすると、中に入ると戻れなくなるってことだな?」
「楽観視はできないと思うんだけどなぁ」
ゼンとジュリーの会話にロムが割り込むとヒビキも同調する。
「油断させるのは奇襲の常套手段だ。思い込みは致命的な失敗を生み出す」
「……そうでしたね」
「でもまぁ、油断させるためには布石が必要だ。ここはゼンの意見に乗っていいと思うぞ」
「オレもコーの意見に賛成しよう。少なくともここは問題ない」
クロが最終的に決断を下した形になり、その間に扉を入念に調べ上げていたサスケが罠のないことを確認した。
扉はジュリーが開けることになった。
そこは小さな部屋になっていて右手に木の扉が一つ、案に違わずそこはミクロンダンジョンのセオリー通り