03 失踪者の共通点
文字数 2,919文字
リニアのホームに降り立ち、改札を通るとゼンが携帯端末で目的地までのルートを検索する。
その間手持ち無沙汰な四人はおもいおもいの暇つぶしをしていたのだが、その中でサスケがネットの新着ニュースから気になる記事を見つけ出していた。
「またでござる」
「何かあったのか?」
問いかけたジュリーに画面を向けると、記事を読み始めたジュリー以外の三人に説明するように話す。
「浅 見 洸 汰 が失踪したそうでござる」
「浅見洸汰って、去年のウルトラマンの?」
蒼龍騎が訊ねる。
サスケは無言で頷く。
七年前から子供向け特撮ヒーローウルトラマンがTVシリーズとしてリメイクされており、去年シリーズ再開五周年を記念した久しぶりの新作ウルトラマンとして注目されていた作品の主役を演じていたアクション俳優だ。
当初ミクロンシステムを利用したミニチュアセットでの撮影は、等身大スケールでは難しかった世界観表現で話題となった。
しかし、「ゲームエクスポミクロンダンジョン崩壊事故」の煽りを受けた路線変更を余儀なくされ、等身大スケールでのセット作り直しや屋外ロケに伴う予算圧迫。
スケール感の縮んでしまった作品世界のチープさで当初一年四クールを予定していた放送期間は三クールで打ち切られた。
その時の主人公カゼ・ヒカル隊員を演じていたのが浅見洸汰だった。
「あの番組の 俳優、もう一人行方不明になってなかったか?」
「ゴンドウキャップ役の黒川 陸 斗 な」
ジュリーが記事を読みながら蒼龍騎に答える。
「記事にも書いてある。今年に入って有名人だけで四人。実際には去年の十二月の仕事納めから連絡が取れなくなっていたらしい若手の女優響 木 涼 音 、元サッカー日本代表だった武本 修 斗 、今言った黒川陸斗に今回の浅見洸汰」
「去年も何人かいなかったか?」
蒼龍気が記憶を探るように視線を上げる。
「私の記憶の限りですが二人……現役美人アスリートとしてメディア露出が増えていた女子プロ野球選手の加 藤 亜 里 香 と、体を張った芸風でバラエティ番組に引っ張りだこだった持 田 ねばる。ほぼ同時に失踪したので『駆け落ちか?』なんてゴシップになっていました」
「あったなぁミクロンダンジョン攻略番組でパーティを組んでて、演出だと思うが加藤亜里香を庇って率先してアトラクションに挑むねばるくんが人気だった」
「えぇ。初回が好評だったのかその後の三度の特番すべてに実質レギュラーとして出演し、ゲストプレーヤーとパーティを組んでいました。常に同じ役割でね」
ロムはふと浮かんだ疑問を口にする。
「みんなミクロンダンジョンに関係してない?」
四人から沈黙が生まれる。
ミクロンダンジョンは当時最先端の人気ゲームだった。
テレビでもネットでも様々な番組で取り上げられており、スポーツ選手や芸能人が多数体験・参加していたので気にもしてなかったが、言われてみればミクロンダンジョン攻略番組のレギュラー出演者とミクロンシステムを撮影に利用したアクション映画のヒロインに特撮番組のレギュラーキャスト、そしてミクロンダンジョンフリークを公言していた元サッカー選手。
関わりの深そうな人ばかりという気もしてくる。
「調べてみる価値がありそうですね」
鼻に人差し指、顎に親指を当てて難しい顔をするゼンが呟く。
そんなゼンが思索モードに入りかけたのを見たジュリーが、彼の肩を小突いて促す。
「それは後だ。で?狂戦士 の墓標亭までのルートは判ったのか?」
「え? ええ、問題ありません」
公共機関を乗り継ぎ少々怪しげな住宅街のはずれにある四階建ての雑居ビルを見上げる。
なるほど、これは怪しい。
そんな雰囲気がプンプン臭う。
今やミクロンダンジョンは非合法遊戯だ。
これまでのダンジョンにも裏社会の影が見え隠れする場所はあったが、ここまであからさまな雰囲気はなかった。
少なくとも表向きは怪しさ・怖さを覆い隠していた。
四人は奥歯を噛み締め唾を飲み込む。
しかし、いつまでもこうしてはいられない。
「い、行きましよう」
ゼンがなけなしの覚悟を固めて一歩踏み出すと、彼らはそれに続く。
入口の横にあった古い鉄製の階段を無言で四階まで足取り重く登って行く。
何らかの事務所といった趣の扉横にあるインターホンを押すと、若い男が顔を出す。
白いスラックスに黒いヨレヨレのタンクトップの上からは派手な刺繍入りのジャンパー。
下品なほどジャラジャラとしたネックレスが目立つ。
顎にだけ整える気の無い無精髭を蓄え、こちらも無造作な金髪は根元から二センチほど黒い地毛の色が伸びている。
ここまで見事なチンピラは今日び漫画の中にもなかなか出てこない。
そんな男が、来客だというのにガムをくちゃくちゃと噛みながら眠そうな焦点のあやしい目でこちらを見ている。
「先日お電話した東京の三田です」
緊張で乾いた喉から、ひりつくようなかすれ声でいう。
非合法とはいえ客商売であるはずなのにその辺りに頓着する様子は一切ないようだ。
「ああ……合言葉いいっすか?」
「……狂気は瞳 に宿る」
「どうぞ」
中は申し訳程度の事務机とファイルが並べられたスチール製の書棚があるだけの殺風景な事務所だ。
案内をする男と五分刈りのスーツ姿の壮年が一人。
「こっちっす」
案内の男はそう言って奥の扉を開ける。
中には男が二人。
一人はジーンズに濃灰色のカットソーを着たどちらかといえばインテリな若者。
フレームの細いスクエアのメガネがその印象を強調している。
もう一人は臙 脂 色のスリムなレザーパンツに襟ぐりの広い黒のタンクトップを着て短い茶金の髪を逆立てた若者。
細いがしまった体をしているのだが、その表情はニヤけていた。
「ようこそ。まずはこちらの書類に必要事項をご記入ください」
メガネの男に促されるままに事務手続きを進める四人は完全に雰囲気に呑まれていた。
ただ一人、ある種の場慣れで冷静だったロムは、そんな四人を半ば無視して部屋の様子を確認する。
窓のないその部屋は元々は会議室だったのだろうか、それなりの広さはあるがミクロンダンジョンを提供するには少々手狭のようだ。
設置されているダンジョンは「賢者の迷宮亭」と比べても外観上ふたまわりは小さく見える。
特筆すべきはダンジョンフィールドを小さくする最大の要因とも言える三台のミクロンシステムだ。
ジーンクリエイティブ社製のシステムが他社製システムと比べて劇的に小型化されていたとはいえ、人が入るものである以上それなりの容積が必要であり、自ずとダウンサイジングには限界がある。
そんな機械がスチールロッカーのように壁際に並んで三台も設置されていた。
その間手持ち無沙汰な四人はおもいおもいの暇つぶしをしていたのだが、その中でサスケがネットの新着ニュースから気になる記事を見つけ出していた。
「またでござる」
「何かあったのか?」
問いかけたジュリーに画面を向けると、記事を読み始めたジュリー以外の三人に説明するように話す。
「
「浅見洸汰って、去年のウルトラマンの?」
蒼龍騎が訊ねる。
サスケは無言で頷く。
七年前から子供向け特撮ヒーローウルトラマンがTVシリーズとしてリメイクされており、去年シリーズ再開五周年を記念した久しぶりの新作ウルトラマンとして注目されていた作品の主役を演じていたアクション俳優だ。
当初ミクロンシステムを利用したミニチュアセットでの撮影は、等身大スケールでは難しかった世界観表現で話題となった。
しかし、「ゲームエクスポミクロンダンジョン崩壊事故」の煽りを受けた路線変更を余儀なくされ、等身大スケールでのセット作り直しや屋外ロケに伴う予算圧迫。
スケール感の縮んでしまった作品世界のチープさで当初一年四クールを予定していた放送期間は三クールで打ち切られた。
その時の主人公カゼ・ヒカル隊員を演じていたのが浅見洸汰だった。
「
「ゴンドウキャップ役の
ジュリーが記事を読みながら蒼龍騎に答える。
「記事にも書いてある。今年に入って有名人だけで四人。実際には去年の十二月の仕事納めから連絡が取れなくなっていたらしい若手の女優
「去年も何人かいなかったか?」
蒼龍気が記憶を探るように視線を上げる。
「私の記憶の限りですが二人……現役美人アスリートとしてメディア露出が増えていた女子プロ野球選手の
「あったなぁミクロンダンジョン攻略番組でパーティを組んでて、演出だと思うが加藤亜里香を庇って率先してアトラクションに挑むねばるくんが人気だった」
「えぇ。初回が好評だったのかその後の三度の特番すべてに実質レギュラーとして出演し、ゲストプレーヤーとパーティを組んでいました。常に同じ役割でね」
ロムはふと浮かんだ疑問を口にする。
「みんなミクロンダンジョンに関係してない?」
四人から沈黙が生まれる。
ミクロンダンジョンは当時最先端の人気ゲームだった。
テレビでもネットでも様々な番組で取り上げられており、スポーツ選手や芸能人が多数体験・参加していたので気にもしてなかったが、言われてみればミクロンダンジョン攻略番組のレギュラー出演者とミクロンシステムを撮影に利用したアクション映画のヒロインに特撮番組のレギュラーキャスト、そしてミクロンダンジョンフリークを公言していた元サッカー選手。
関わりの深そうな人ばかりという気もしてくる。
「調べてみる価値がありそうですね」
鼻に人差し指、顎に親指を当てて難しい顔をするゼンが呟く。
そんなゼンが思索モードに入りかけたのを見たジュリーが、彼の肩を小突いて促す。
「それは後だ。で?
「え? ええ、問題ありません」
公共機関を乗り継ぎ少々怪しげな住宅街のはずれにある四階建ての雑居ビルを見上げる。
なるほど、これは怪しい。
そんな雰囲気がプンプン臭う。
今やミクロンダンジョンは非合法遊戯だ。
これまでのダンジョンにも裏社会の影が見え隠れする場所はあったが、ここまであからさまな雰囲気はなかった。
少なくとも表向きは怪しさ・怖さを覆い隠していた。
四人は奥歯を噛み締め唾を飲み込む。
しかし、いつまでもこうしてはいられない。
「い、行きましよう」
ゼンがなけなしの覚悟を固めて一歩踏み出すと、彼らはそれに続く。
入口の横にあった古い鉄製の階段を無言で四階まで足取り重く登って行く。
何らかの事務所といった趣の扉横にあるインターホンを押すと、若い男が顔を出す。
白いスラックスに黒いヨレヨレのタンクトップの上からは派手な刺繍入りのジャンパー。
下品なほどジャラジャラとしたネックレスが目立つ。
顎にだけ整える気の無い無精髭を蓄え、こちらも無造作な金髪は根元から二センチほど黒い地毛の色が伸びている。
ここまで見事なチンピラは今日び漫画の中にもなかなか出てこない。
そんな男が、来客だというのにガムをくちゃくちゃと噛みながら眠そうな焦点のあやしい目でこちらを見ている。
「先日お電話した東京の三田です」
緊張で乾いた喉から、ひりつくようなかすれ声でいう。
非合法とはいえ客商売であるはずなのにその辺りに頓着する様子は一切ないようだ。
「ああ……合言葉いいっすか?」
「……狂気は
「どうぞ」
中は申し訳程度の事務机とファイルが並べられたスチール製の書棚があるだけの殺風景な事務所だ。
案内をする男と五分刈りのスーツ姿の壮年が一人。
「こっちっす」
案内の男はそう言って奥の扉を開ける。
中には男が二人。
一人はジーンズに濃灰色のカットソーを着たどちらかといえばインテリな若者。
フレームの細いスクエアのメガネがその印象を強調している。
もう一人は
細いがしまった体をしているのだが、その表情はニヤけていた。
「ようこそ。まずはこちらの書類に必要事項をご記入ください」
メガネの男に促されるままに事務手続きを進める四人は完全に雰囲気に呑まれていた。
ただ一人、ある種の場慣れで冷静だったロムは、そんな四人を半ば無視して部屋の様子を確認する。
窓のないその部屋は元々は会議室だったのだろうか、それなりの広さはあるがミクロンダンジョンを提供するには少々手狭のようだ。
設置されているダンジョンは「賢者の迷宮亭」と比べても外観上ふたまわりは小さく見える。
特筆すべきはダンジョンフィールドを小さくする最大の要因とも言える三台のミクロンシステムだ。
ジーンクリエイティブ社製のシステムが他社製システムと比べて劇的に小型化されていたとはいえ、人が入るものである以上それなりの容積が必要であり、自ずとダウンサイジングには限界がある。
そんな機械がスチールロッカーのように壁際に並んで三台も設置されていた。