04 戦士は二度目の冒険で成長を実感する
文字数 2,844文字
改めて時をその日の午 下 りに戻す。
四人の冒険者が最後のダンジョンアタックになる。
いや、すると決めた札幌のダンジョンに足を踏み入れたところだ。
東京同様縮小前に一人、縮小後にも一人受付担当の女性がドイツの民族衣装 を着て彼らを迎えてくれた。
必要以上にリアリティを追求した内装と演出に否 が応 にも緊張を高める。
第一階層の地図を書き上げる頃、サスケが確信をもって呟く。
「同じでござる」
「何がだ?」
いつもの芝居臭い言い回しでジュリーが訊ねる。
「ダンジョンの構造が、ですね」
答えたのはサスケではなくゼンだった。前世紀のアニメのお気に入りキャラクターを真似た鼻にかかった声である。
「まったく同じ?」
「うむ」
「怪物 の配置も?」
「家具の配置までそっくり同じでござる」
「それってつまり……」
二の句が継げられずごくりとジュリーは生唾を飲む。
「同じことが起きるってことだな」
沈黙を破ったのはロムだった。
ようやく気を取り直したゼンが推測を口にする。
「このダンジョンは一種の篩 なのでしょう。同じ条件をクリアした冒険者をどこかへ連れ去るために同じ構造、同じシナリオのダンジョンになっているんだと思われます」
「てことは仙台や広島のダンジョンも」
「ええ、同じダンジョンでしょうね」
「じゃあ、とっととクリア……」
「いいえ、いつもの通り淡々と。です」
ジュリーの提案をゼンは即座に否定する。
「それでは早すぎます。
「本当に来ると思うか?」
「ええ、少なくともちゃんと指示した店長と蒼龍騎は必ず来ます」
「充さんも来ると思うよ」
ロムの声にも確信めいた響きがある。
ジュリーがサスケを見上げると、彼もまた力強く頷いた。
「じゃあ、いつもの通り。だ」
隠し扉 のある部屋へ行き、ベッドをどかして丸い窪みに鍵となる燭台を押し当てる。
階下への入り口が完全に開くのを待って階段を下る。
最初の小部屋 で第二階層への準備を済ませて石の扉を開く。
東京のダンジョン同様に石の扉は自然に閉まり後戻りができなくなった。
ゼンが呟く。
「東京のような幸運は期待できませんよね」
「あの事故が幸運というかは別として、ここでは何があっても戻らず先へ進むでござる」
「『抗うな、捕まれ』だったよな?」
ジュリーの問いにロムは静かに頷いた。
「さて、このフロアもまったく同じなのか一応確認するとしようか」
ジュリーは記憶を頼って落とし穴 を見つける。
東京の時同様誰かが落ちた痕跡があった。
ロムが棍で開けると、やはり針山があって血がついている。
「同じでござるな」
「てことは蟻が一匹ダンジョン内を徘徊しているってことだな」
ジュリーは東京のダンジョンの時と同じく腰にショートソードを戻し、背負っていた日本刀を抜く。
今日のジュリーは戦国時代末期の防御力と機動性に優れたデザインをベースに、ダンジョンアタックを繰り返してきた経験に基づくダンジョンアタックに最適と思える改良を重ねた、威圧感のある真新しい朱塗りの南蛮胴の具足を身につけている。
兜もアニメのロボット風にデザインされてはいるが、目 庇 や面頬 など機能性の高い意匠だ。
その和風然とした鎧に不釣り合いな西洋風のショートソードを腰に佩 いているのは、真剣である日本刀と状況に応じて使い分けるためである。
下町の迷宮亭以来使い続けている剣はしかし、ジュリー自身の真剣かつ熱心な修行という不断の努力によって本来の攻撃力を十分に引き出されており、前回のダンジョンで苦労していたAI搭載の怪物 を一人で倒せるほどになっている。
サスケも帯に挟んでいる刃引きされた脇差ではなく、ジュリー同様背負っていた鍔 の広い長尺の刀だ。
今日の忍者装束はデザインこそ変わらない伊賀 袴 に目だけ露出させている覆面の平 頭 巾 、鉢金 姿。
自ら柿渋 で染めた柿渋色 はまだ仕立てたばかりで明るい茶色といった感じだ。
中には前回より太い鎖 帷子 を着て、光沢のない赤銅 色 の手甲 、籠手 、脛 当 て履 き。
ゼンは二人に合わせてか葡萄 色 のローブでフードを目 深 に被っている。
今回は彼も鎖帷子を着ている。
今回彼らは単なるミクロンダンジョンへのアタックではなく本格的な冒険 を想定して本格的な装備を整えていて、基本的に戦闘に参加しないゼンはその荷物の半分近くを背負い袋 に入れて背負っている。
一列縦隊の殿 を歩くロムは今日も藍色の憲法着姿だ。
武器には
巾着は有事の際に胸の前で結ばれている紐を引けばするりと解けて身軽になれるようにしてある。
今の所ロムがこの巾着を捨てて戦闘に参加するような事態は起きていない。
「中にいるのが虫と判っていて、どこへ行けば先へ進めるかも判っているわけだが、今の実力を確認したいんだ。オレのわがままを許してくれるか?」
ジュリーの問いに三人が賛同したためだ。
石の扉の奥にあるいくつかの部屋に入り、中にいた蟻をジュリーとサスケが倒して行く。
それはもう十分に戦えるなどというレベルではなく、安心して見ていられる危なげない戦闘だった。
修行の成果はもちろんある。
二人は自分たちの実力の無さを自覚し修行を始めてからずっと、ほとんど休まず剣を振って来た。
その間に狂戦士 の墓標亭、東京の帰らずの地下迷宮で実戦を経験している。
そう、彼らは着実に経験を積み実力を養って来たのだ。
「もういいだろう。行くぞ」
満足したと言っていいのか、ジュリーが表情を崩さずに宣言する。
閂で閉じられている木製の扉にたどり着くとサスケが調べ始める。
「気配がないでござる」
「ここは階層ボスがいるはずの部屋だろ?」
「しかし気配を感じられないのであるから他に言いようはないでござる。少なくともカマキリはおらんでござる」
「判った。でも、中にはいるという前提で突っ込むぜ」
短く息を吐いてジュリーは勢いよく扉をあけ、サスケとともに部屋の中へ踊り込んだ。
四人の冒険者が最後のダンジョンアタックになる。
いや、すると決めた札幌のダンジョンに足を踏み入れたところだ。
東京同様縮小前に一人、縮小後にも一人受付担当の女性が
必要以上にリアリティを追求した内装と演出に
第一階層の地図を書き上げる頃、サスケが確信をもって呟く。
「同じでござる」
「何がだ?」
いつもの芝居臭い言い回しでジュリーが訊ねる。
「ダンジョンの構造が、ですね」
答えたのはサスケではなくゼンだった。前世紀のアニメのお気に入りキャラクターを真似た鼻にかかった声である。
「まったく同じ?」
「うむ」
「
「家具の配置までそっくり同じでござる」
「それってつまり……」
二の句が継げられずごくりとジュリーは生唾を飲む。
「同じことが起きるってことだな」
沈黙を破ったのはロムだった。
ようやく気を取り直したゼンが推測を口にする。
「このダンジョンは一種の
「てことは仙台や広島のダンジョンも」
「ええ、同じダンジョンでしょうね」
「じゃあ、とっととクリア……」
「いいえ、いつもの通り淡々と。です」
ジュリーの提案をゼンは即座に否定する。
「それでは早すぎます。
彼ら
が来るとすれば夕方頃、タイミングを合わせなければ」「本当に来ると思うか?」
「ええ、少なくともちゃんと指示した店長と蒼龍騎は必ず来ます」
「充さんも来ると思うよ」
ロムの声にも確信めいた響きがある。
ジュリーがサスケを見上げると、彼もまた力強く頷いた。
「じゃあ、いつもの通り。だ」
階下への入り口が完全に開くのを待って階段を下る。
東京のダンジョン同様に石の扉は自然に閉まり後戻りができなくなった。
ゼンが呟く。
「東京のような幸運は期待できませんよね」
「あの事故が幸運というかは別として、ここでは何があっても戻らず先へ進むでござる」
「『抗うな、捕まれ』だったよな?」
ジュリーの問いにロムは静かに頷いた。
「さて、このフロアもまったく同じなのか一応確認するとしようか」
ジュリーは記憶を頼って
東京の時同様誰かが落ちた痕跡があった。
ロムが棍で開けると、やはり針山があって血がついている。
「同じでござるな」
「てことは蟻が一匹ダンジョン内を徘徊しているってことだな」
ジュリーは東京のダンジョンの時と同じく腰にショートソードを戻し、背負っていた日本刀を抜く。
今日のジュリーは戦国時代末期の防御力と機動性に優れたデザインをベースに、ダンジョンアタックを繰り返してきた経験に基づくダンジョンアタックに最適と思える改良を重ねた、威圧感のある真新しい朱塗りの南蛮胴の具足を身につけている。
兜もアニメのロボット風にデザインされてはいるが、
その和風然とした鎧に不釣り合いな西洋風のショートソードを腰に
下町の迷宮亭以来使い続けている剣はしかし、ジュリー自身の真剣かつ熱心な修行という不断の努力によって本来の攻撃力を十分に引き出されており、前回のダンジョンで苦労していたAI搭載の
サスケも帯に挟んでいる刃引きされた脇差ではなく、ジュリー同様背負っていた
今日の忍者装束はデザインこそ変わらない
自ら
中には前回より太い
ゼンは二人に合わせてか
今回は彼も鎖帷子を着ている。
今回彼らは単なるミクロンダンジョンへのアタックではなく本格的な
一列縦隊の
武器には
本来のサイズ
で振った時と同じ手応え、しなりが生まれるように加工された合成木材で新調された二メートル相当の棍と、ゼンが持ちきれなかった荷物を入れている巾着を背負っている。巾着は有事の際に胸の前で結ばれている紐を引けばするりと解けて身軽になれるようにしてある。
今の所ロムがこの巾着を捨てて戦闘に参加するような事態は起きていない。
「中にいるのが虫と判っていて、どこへ行けば先へ進めるかも判っているわけだが、今の実力を確認したいんだ。オレのわがままを許してくれるか?」
ジュリーの問いに三人が賛同したためだ。
石の扉の奥にあるいくつかの部屋に入り、中にいた蟻をジュリーとサスケが倒して行く。
それはもう十分に戦えるなどというレベルではなく、安心して見ていられる危なげない戦闘だった。
修行の成果はもちろんある。
二人は自分たちの実力の無さを自覚し修行を始めてからずっと、ほとんど休まず剣を振って来た。
その間に
そう、彼らは着実に経験を積み実力を養って来たのだ。
「もういいだろう。行くぞ」
満足したと言っていいのか、ジュリーが表情を崩さずに宣言する。
閂で閉じられている木製の扉にたどり着くとサスケが調べ始める。
「気配がないでござる」
「ここは階層ボスがいるはずの部屋だろ?」
「しかし気配を感じられないのであるから他に言いようはないでござる。少なくともカマキリはおらんでござる」
「判った。でも、中にはいるという前提で突っ込むぜ」
短く息を吐いてジュリーは勢いよく扉をあけ、サスケとともに部屋の中へ踊り込んだ。