11 生き残りを賭けた戦い
文字数 2,564文字
北門に辿り着いた時、まだ戦闘は始まっていなかった。
門内にはまともに戦える戦士が全て集まっていたがその数は二十に届かない。
「来たか」
クロがレイナたちに気づいてこちらを見る。
「まだ始まってなかったんですね」
ヒビキがクロに近づきながら言う。
「向こうが警戒しているのか近づいてこないんだ」
「知能がある?」
「レイナもそう思うか」
「でも、このままってわけにもいかないだろ。増援なんか来られたら、ただでさえジリ貧な状況だってのに」
クロの隣にいたコーが言う。
確かにこのまま睨み合っていてもこちらの精神力 を削られていくだけだ。
クロは集まった男たちを見回す。
ここに集まれたと言うことは戦えると言うことではあるが、ほとんどみんな何かしらの怪我を抱えている。
ほとんど無傷と言っていいのはクロとヒビキ、それにレイナくらいか。
コーは左の太ももに血の滲む包帯を巻いているし、シュウトも左上腕に包帯がきつく巻かれている。
「コボルドはなんとかなるだろう。問題はサイクロプスだ。どれくらい強いのか、どんな攻撃をしてくるか予想できないからな」
「人数使って囲めばいいだろ」
シュウトがイラついたトゲのある言い方で提案する。
「誰がやる?」
「……チッ、オレがやってやんよ」
クロは自身とヒビキをシュウトとともにサイクロプス戦に投入することを決め、五人一組のチームを編成してコーを班長に据える。
レイナには遊撃として単独でフォローに回ってもらうことにした。
レイナは思い出したように「おじさん」を見つけ、
「おじさんは……」
「やっさんだ」
「やっさんさんは念のためにそこの階段から門に上がっていてください」
「判った。それと『さん』は二回もいらない」
そういって、階段を登り始めた。
「よし、行くぞ」
クロの号令一下、北門が開かれ戦士たちは敵に向かって走り出した。
五人一組三班の先頭を走るコーは鬨 をあげさせながら魚鱗の陣形で左に展開していく。
それに反応したコボルドたちをサイクロプスが声と手で制した。
「やっぱり知性があるぞ」
いつもなら威嚇に反応しててんでに襲いかかって来るコボルドがじれながらも指示に従っていることに驚きながら、クロはヒビキ、シュウトとともに集団から少し遅れて粛々と右手に進む。
「サイクロプスが向こうに行かないかな?」
「あいつにどこまでの知性があるか判らないが、こっちの方が強いと判ってるよ」
確かにクロの言う通り、コボルドを制しつつもサイクロプスの注意はこちらに多く向けられている。
これまでの力任せの襲撃とは様相が違う。
どのタイミングでどちらが戦端を開くか?
ちょっとした合戦の様相を呈している。
「コボルドがコーたちに向いているからこちら側に薄い部分がある。そこをヒビキとシュウトで切り開いてくれ」
「テメェがやれよ」
「サイクロプスを一時的に一人で抑えてくれるならやってもいいぞ」
言われてシュウトは舌打ちを残して黙り込む。
ここ数ヶ月の戦いで流石に自身とクロの実力差くらいは認識しているようだし、戦闘力が未知数のサイクロプスと一対一でやり合うのも、今の状態を考えればリクスが高いと言う判断くらいできているようだ。
クロは肩に担いでいた刀を一度振り上げる。
コーはそれを確認して、先頭の五人を魚鱗陣形に維持しつつ後続の二班に左右に開くよう指示を出す。
人数的に貧弱ではあるが鶴翼の陣である。
陣が完成すると改めて鬨をあげて突撃を開始する。
それに合わせてクロたちも突撃する。
レイナは鶴翼の後ろをさらに左に進み背後へ回る。
二度目の鬨にコボルドがこらえきれず、広げた翼めがけて襲って来るのをコーの号令が迎え撃つ。
「三人一組だ! 一対一になるなよ! オレはこのまま押し出してコボルドを左右に分断する、各個撃破!」
クロは突きを繰り出すことでサイクロプスの牽制に成功する。
その間にヒビキとシュウトは出遅れたコボルドを一体づつ殴り倒す。
ヒビキは三節棍でコボルドの後頭部を往復殴打したあと、腰めがけて厚底になっているヒールで蹴り出す。
シュウトは星球式鎚矛 の一撃を脳天から叩き落とすと、クロとともにサイクロプスを囲むようにそれぞれの武器を構える。
サイクロプスが唸り、それに反応したコボルドが一匹だけ振り返ったが、背中を向けていたヒビキとの間にレイナが割り込んでサイクロプスは完全に孤立した。
「やるもんだねぇ」
門に登って一連の動きを見ていたやっさんは率直に言葉にしていた。
「しかし誰だよ近代化以前の陣形戦術なんて教えられたオタク野郎は」
コーの部隊は二倍強の兵力で六体のコボルドを倒していく。
数的有利はあるものの決して圧倒できたわけではない。
二日続きの戦闘であり、誰もが怪我を負っていて動きが鈍い。
それでも一人でコボルドとやりあえるコーがいて、サイクロプスに呼び戻された一体をレイナが引き受けたことで誰一人離脱することなくコボルドを屠っていく。
サイクロプスは取り囲んだ三人を寄せ付けまいと釘打ち 棍棒 を振り回す。
背丈は大柄なクロよりもなお頭一つ大きい。
盛り上がった僧帽筋や正面からも見えるほど発達した広背筋、三角筋・上腕二頭筋・三頭筋とはっきりキレテル肉体から繰り出される攻撃は怖 気 が立つほどだった。
数分の膠着が生まれる。
振り回されるスパイククラブを掻い潜って一撃必殺というのは難しい。
誰かが打ち合って動きを止めなければならないだろうが、ヒビキの三節棍やクロの刀ではクラブと打ち合うには硬度が足りないし、かといってシュウトのモーニングスターもリーチが短くリスクが高い。
よってコーたちがコボルドを殲滅 して加勢に来るのを待っているのだ。
もっとも、加勢に来たからといって何か有効な戦略が生まれるかといえば簡単なことではない。
サイクロプス攻略に苦慮していたクロを拍子抜けするような解決策で救ったのはレイナだった。
門内にはまともに戦える戦士が全て集まっていたがその数は二十に届かない。
「来たか」
クロがレイナたちに気づいてこちらを見る。
「まだ始まってなかったんですね」
ヒビキがクロに近づきながら言う。
「向こうが警戒しているのか近づいてこないんだ」
「知能がある?」
「レイナもそう思うか」
「でも、このままってわけにもいかないだろ。増援なんか来られたら、ただでさえジリ貧な状況だってのに」
クロの隣にいたコーが言う。
確かにこのまま睨み合っていてもこちらの
クロは集まった男たちを見回す。
ここに集まれたと言うことは戦えると言うことではあるが、ほとんどみんな何かしらの怪我を抱えている。
ほとんど無傷と言っていいのはクロとヒビキ、それにレイナくらいか。
コーは左の太ももに血の滲む包帯を巻いているし、シュウトも左上腕に包帯がきつく巻かれている。
「コボルドはなんとかなるだろう。問題はサイクロプスだ。どれくらい強いのか、どんな攻撃をしてくるか予想できないからな」
「人数使って囲めばいいだろ」
シュウトがイラついたトゲのある言い方で提案する。
「誰がやる?」
「……チッ、オレがやってやんよ」
クロは自身とヒビキをシュウトとともにサイクロプス戦に投入することを決め、五人一組のチームを編成してコーを班長に据える。
レイナには遊撃として単独でフォローに回ってもらうことにした。
レイナは思い出したように「おじさん」を見つけ、
「おじさんは……」
「やっさんだ」
「やっさんさんは念のためにそこの階段から門に上がっていてください」
「判った。それと『さん』は二回もいらない」
そういって、階段を登り始めた。
「よし、行くぞ」
クロの号令一下、北門が開かれ戦士たちは敵に向かって走り出した。
五人一組三班の先頭を走るコーは
それに反応したコボルドたちをサイクロプスが声と手で制した。
「やっぱり知性があるぞ」
いつもなら威嚇に反応しててんでに襲いかかって来るコボルドがじれながらも指示に従っていることに驚きながら、クロはヒビキ、シュウトとともに集団から少し遅れて粛々と右手に進む。
「サイクロプスが向こうに行かないかな?」
「あいつにどこまでの知性があるか判らないが、こっちの方が強いと判ってるよ」
確かにクロの言う通り、コボルドを制しつつもサイクロプスの注意はこちらに多く向けられている。
これまでの力任せの襲撃とは様相が違う。
どのタイミングでどちらが戦端を開くか?
ちょっとした合戦の様相を呈している。
「コボルドがコーたちに向いているからこちら側に薄い部分がある。そこをヒビキとシュウトで切り開いてくれ」
「テメェがやれよ」
「サイクロプスを一時的に一人で抑えてくれるならやってもいいぞ」
言われてシュウトは舌打ちを残して黙り込む。
ここ数ヶ月の戦いで流石に自身とクロの実力差くらいは認識しているようだし、戦闘力が未知数のサイクロプスと一対一でやり合うのも、今の状態を考えればリクスが高いと言う判断くらいできているようだ。
クロは肩に担いでいた刀を一度振り上げる。
コーはそれを確認して、先頭の五人を魚鱗陣形に維持しつつ後続の二班に左右に開くよう指示を出す。
人数的に貧弱ではあるが鶴翼の陣である。
陣が完成すると改めて鬨をあげて突撃を開始する。
それに合わせてクロたちも突撃する。
レイナは鶴翼の後ろをさらに左に進み背後へ回る。
二度目の鬨にコボルドがこらえきれず、広げた翼めがけて襲って来るのをコーの号令が迎え撃つ。
「三人一組だ! 一対一になるなよ! オレはこのまま押し出してコボルドを左右に分断する、各個撃破!」
クロは突きを繰り出すことでサイクロプスの牽制に成功する。
その間にヒビキとシュウトは出遅れたコボルドを一体づつ殴り倒す。
ヒビキは三節棍でコボルドの後頭部を往復殴打したあと、腰めがけて厚底になっているヒールで蹴り出す。
シュウトは
サイクロプスが唸り、それに反応したコボルドが一匹だけ振り返ったが、背中を向けていたヒビキとの間にレイナが割り込んでサイクロプスは完全に孤立した。
「やるもんだねぇ」
門に登って一連の動きを見ていたやっさんは率直に言葉にしていた。
「しかし誰だよ近代化以前の陣形戦術なんて教えられたオタク野郎は」
コーの部隊は二倍強の兵力で六体のコボルドを倒していく。
数的有利はあるものの決して圧倒できたわけではない。
二日続きの戦闘であり、誰もが怪我を負っていて動きが鈍い。
それでも一人でコボルドとやりあえるコーがいて、サイクロプスに呼び戻された一体をレイナが引き受けたことで誰一人離脱することなくコボルドを屠っていく。
サイクロプスは取り囲んだ三人を寄せ付けまいと
背丈は大柄なクロよりもなお頭一つ大きい。
盛り上がった僧帽筋や正面からも見えるほど発達した広背筋、三角筋・上腕二頭筋・三頭筋とはっきりキレテル肉体から繰り出される攻撃は
数分の膠着が生まれる。
振り回されるスパイククラブを掻い潜って一撃必殺というのは難しい。
誰かが打ち合って動きを止めなければならないだろうが、ヒビキの三節棍やクロの刀ではクラブと打ち合うには硬度が足りないし、かといってシュウトのモーニングスターもリーチが短くリスクが高い。
よってコーたちがコボルドを
もっとも、加勢に来たからといって何か有効な戦略が生まれるかといえば簡単なことではない。
サイクロプス攻略に苦慮していたクロを拍子抜けするような解決策で救ったのはレイナだった。