04 楽園の場所

文字数 1,129文字

「なるほどね」

 ロムは一応納得の態度を示した。
 新参である彼にはそれ以上言う資格がないと思ったからだ。

「でも、状況を変える必要があることは認識しているんでしょう?」

「変える手段があるのか?」

 コーが訊く。

「あると言えるものかどうか……」

 ここに来るまでに打てる手は打って来ている。
 しかし、その布石が目論見通りに効くかどうかは正直賭けみたいなものもあって、ここで全てを話す気にはならない。

「まぁ、いくつか言えることはありますがね」

 言葉を濁したロムに代わってゼンは小さく咳払いをすると自分の見解を話し始めた。

「一つ目がここが北海道の海沿いのどこかであると言うこと」

「なぜ北海道だと?」

 タニが訊ねる。
 海沿いであることは街の住人も大方そうではないかと思っている。
 北海道というのはその候補地として確かに有力ではあった。

「我々は東京のダンジョンで事故に遭った後、ある筋に頼んで系列とみられる地方のダンジョンの調査を行ってもらっています。その結果北海道のどこかに組織の本拠地があるというところまで突き止めています。そしてここが我々が捕まったダンジョンのある札幌より随分寒いこと、集められた冒険者が南から送り出されていること、その背後から潮の香りが漂って来たことなどから推察するに南に海がある札幌より寒い地域という結論が導き出せます」

 この辺りロムはいつもかなり独善的だと思うが、ゼンの考察が間違っていることはほとんどないこともまた事実だ。

「直近の天気ニュースによれば道南と呼ばれている地域は海沿いでも既にそれなりに暖かくなっていましたから、候補としては知床半島か太平洋沿岸。知床にこの規模の秘密施設を作るのは地理的にも世界遺産であるという状況的にも難しいと考えれば、もう少し範囲も狭められます」

「なるほど、道東のどこかということだな?」

「もう少し狭められると思いますよ」

 ゼンの考察は止まらない。

「我々が運ばされた物資、定期的に一度に大量に購入するという調達のことを考えると、それなりの規模の街でなければ怪しまれるのではないでしょうか?」

「少しずつ買えば……」

「生鮮食品をですか?」

 コーの発言を即座に否定する様はオタクの遠慮のなさか。

「最低でも十万人規模の都市近く、郊外だろうとして都市から五十キロと離れていないだろうと思います」

「その規模の街といえば……」

 誰もが頭の中に北海道地図を思い浮かべる。
 海沿いの大きな都市……というより彼らが道東で名前が浮かぶ都市は一つしかなかった。

「釧路か」

 誰とはなく呟いた街の名にゼンはニヤリと笑って見せた。
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