03 どこまでもゲームとして
文字数 2,259文字
「それにしても……」
と、沈黙を破ったのはロムであった。
「遅すぎない?」
とは席を外した三人のことだ。
ゆうに十分は経っている。
「確かに遅いですね」
と、ゼンが立ち上がる。
外の様子を確認するために扉を開けようとしたのだが開かない。
その様子にサスケが窓を開けようと試みたがこちらも開かない。
「はめ殺し?」
「窓はともかく扉はどう説明するんだ」
「鍵をかけられた音もなかったぜ?」
「困りましたねぇ……」
「こうなると謎が謎を呼ぶ展開って感じだな。どうする? もう少し様子を見るか、それとも扉をぶち破って脱出を試みるか?」
ジュリーの問いにゼンが答える。
「様子見もいいのですが、まずはこの部屋を探ってみましょう。ここは応接室のようです。こういうところは何かと仕掛けがあるものだと思いませんか?」
「ずいぶん乱暴なものの考え方だなぁおい。嫌いじゃないけどな」
と、コーが賛成すると社会常識的に抵抗感を示したクロ、レイナの同意を取り付けることもなくジュリー、サスケ、ゼンにコーと四人が部屋を調べ始めた。
レイナに視線を向けられたヒビキは肩をすくめ、ロムが苦笑いを浮かべる。
その結果、監視用と思われるカメラが三台見つかり、扉は電磁石によるロックで閉められていること。
男たちが背にしていた壁に隠し扉があることを突き止めた。
ジュリーたち三人は念の為カメラのないことを確認した部屋の隅で、音声会話が盗聴されている可能性を考慮してハンドサインで話し合う。
それはポケットベルという昔の連絡手段に使われていた数字を使った文章作成暗号を応用したものだ。
『用意周到ですね』
『これもRPGの作法に則ったものだろうな』
『であれば脱出が最適解でござろうな』
『その場合、ボス戦が待ってますよ』
『望むところだろ』
『ゲーム脳すぎませんか? これは現実で生死がかかってるんですよ』
三人は互いに視線を交わし合い無言で頷くと、仲間に振り返る。
「皆さんに確認します。我々の目的は?」
突然訊ねられた五人は面食らって質問の意図をはかりかねたような表情で周りを伺う。
ロムなどは(いつものこととはいえ、いくらなんでも唐突すぎるだろ?)と肚の中で毒づいたほどだ。
そして、ややあってレイナが言い返す。
「目的なの? 目標じゃなくて」
と。
「ええ、目的です」
「北門の向こうを探検すること……だったんじゃないのか?」
とコーがいえば、ジュリーが「それはこの冒険の当初の目標だ」という。
「なるほど、君たちが言いたいことが判った」
と、クロは言う。
「元の世界に戻ること。そう言いたいんだな」
言われてゼンが力強く頷いた。
「そのために考え、そのために行動する。初志貫徹ってやつだ。いいだろう、ここから先は君に指揮権を預けてやる」
「クロさん!?」
ヒビキもコーも突然のことに目を丸くし、ゼンは興奮に武者震いが抑えられなかった。
「ありがとうございます」
深くお辞儀をすると彼は決然とまなじりをあげて宣言する。
「隠し扉から脱出しましょう」
扉の向こうは暗い納戸のような場所だった。
ゼンは自身の杖の明かりを灯し、あたりを確認する。
「これは……」
そこは舞台袖や奈落のような、装置やセットなどが置かれた場所のようだった。
それらをかき分けると梯子があって上と下に行ける。
「流石にこの屋敷の間取りはマッピングしてござらんぞ」
「ですよね」
「だいたいでも判らないのか?」
コーに言われてサスケは目を細める。
「難しいでござるな。左右に百八十奥行き二百四十、およそ畳3畳分の敷地面積で地上三階建。判っているのはその程度でござる」
「そんだけ判ってるなら問題ないんじゃないのか?」
「間取りが判らないとどこに出るか判んないって言うんだろ?」
ヒビキがサスケの言いたいことをフォローする。
「なるほど、オレたちが知っているのはエントランスと応接室をつなぐ廊下だけ……どんな罠があるか予想もつかないってことだな?」
「そう言うこと。幸い怪物の気配はないからそっちの心配は今のところないけどね」
「気配?」
ジュリーがロムに近づき小声で訊ねる。
「そんな漫画の主人公みたいなこと出来るのか?」
「ある程度ね。ジュリーだって殺気立った怪物とか、部屋の向こうに人がいる……っくらいの気配は感じられるだろ?」
「ああ、確かに」
「むしろ気配がないのが問題だと思うがな」
と、目を閉じ神経を研ぎ澄まして気配を探っていたクロがヒビキに声をかける。
「どう言う……さっきの三人も!?」
「ああ、どうも屋敷のどこにもいる気配がない」
「そういえば……」
と、ロムがいえばジュリーもサスケもその超感覚に呆れるような表情をする。
「それはまずいですね。とりあえず、上に登って屋敷を探索しましょう」
「そんな悠長でいいのか?」
と、ジュリーがいえば
「焦って外へ出ても手がかりが掴めなくなる可能性があります。これは千載一遇のチャンスですよ」
「判った」
答えたのはコーだった。
彼は、率先して梯子を登る。
登り切った後、顔だけ穴から出すと「クリア」と一言発してまた消える。
「殿はオレが受け持とう」
とクロが買って出て、彼らは次々と梯子を上っていく。
と、沈黙を破ったのはロムであった。
「遅すぎない?」
とは席を外した三人のことだ。
ゆうに十分は経っている。
「確かに遅いですね」
と、ゼンが立ち上がる。
外の様子を確認するために扉を開けようとしたのだが開かない。
その様子にサスケが窓を開けようと試みたがこちらも開かない。
「はめ殺し?」
「窓はともかく扉はどう説明するんだ」
「鍵をかけられた音もなかったぜ?」
「困りましたねぇ……」
「こうなると謎が謎を呼ぶ展開って感じだな。どうする? もう少し様子を見るか、それとも扉をぶち破って脱出を試みるか?」
ジュリーの問いにゼンが答える。
「様子見もいいのですが、まずはこの部屋を探ってみましょう。ここは応接室のようです。こういうところは何かと仕掛けがあるものだと思いませんか?」
「ずいぶん乱暴なものの考え方だなぁおい。嫌いじゃないけどな」
と、コーが賛成すると社会常識的に抵抗感を示したクロ、レイナの同意を取り付けることもなくジュリー、サスケ、ゼンにコーと四人が部屋を調べ始めた。
レイナに視線を向けられたヒビキは肩をすくめ、ロムが苦笑いを浮かべる。
その結果、監視用と思われるカメラが三台見つかり、扉は電磁石によるロックで閉められていること。
男たちが背にしていた壁に隠し扉があることを突き止めた。
ジュリーたち三人は念の為カメラのないことを確認した部屋の隅で、音声会話が盗聴されている可能性を考慮してハンドサインで話し合う。
それはポケットベルという昔の連絡手段に使われていた数字を使った文章作成暗号を応用したものだ。
『用意周到ですね』
『これもRPGの作法に則ったものだろうな』
『であれば脱出が最適解でござろうな』
『その場合、ボス戦が待ってますよ』
『望むところだろ』
『ゲーム脳すぎませんか? これは現実で生死がかかってるんですよ』
三人は互いに視線を交わし合い無言で頷くと、仲間に振り返る。
「皆さんに確認します。我々の目的は?」
突然訊ねられた五人は面食らって質問の意図をはかりかねたような表情で周りを伺う。
ロムなどは(いつものこととはいえ、いくらなんでも唐突すぎるだろ?)と肚の中で毒づいたほどだ。
そして、ややあってレイナが言い返す。
「目的なの? 目標じゃなくて」
と。
「ええ、目的です」
「北門の向こうを探検すること……だったんじゃないのか?」
とコーがいえば、ジュリーが「それはこの冒険の当初の目標だ」という。
「なるほど、君たちが言いたいことが判った」
と、クロは言う。
「元の世界に戻ること。そう言いたいんだな」
言われてゼンが力強く頷いた。
「そのために考え、そのために行動する。初志貫徹ってやつだ。いいだろう、ここから先は君に指揮権を預けてやる」
「クロさん!?」
ヒビキもコーも突然のことに目を丸くし、ゼンは興奮に武者震いが抑えられなかった。
「ありがとうございます」
深くお辞儀をすると彼は決然とまなじりをあげて宣言する。
「隠し扉から脱出しましょう」
扉の向こうは暗い納戸のような場所だった。
ゼンは自身の杖の明かりを灯し、あたりを確認する。
「これは……」
そこは舞台袖や奈落のような、装置やセットなどが置かれた場所のようだった。
それらをかき分けると梯子があって上と下に行ける。
「流石にこの屋敷の間取りはマッピングしてござらんぞ」
「ですよね」
「だいたいでも判らないのか?」
コーに言われてサスケは目を細める。
「難しいでござるな。左右に百八十奥行き二百四十、およそ畳3畳分の敷地面積で地上三階建。判っているのはその程度でござる」
「そんだけ判ってるなら問題ないんじゃないのか?」
「間取りが判らないとどこに出るか判んないって言うんだろ?」
ヒビキがサスケの言いたいことをフォローする。
「なるほど、オレたちが知っているのはエントランスと応接室をつなぐ廊下だけ……どんな罠があるか予想もつかないってことだな?」
「そう言うこと。幸い怪物の気配はないからそっちの心配は今のところないけどね」
「気配?」
ジュリーがロムに近づき小声で訊ねる。
「そんな漫画の主人公みたいなこと出来るのか?」
「ある程度ね。ジュリーだって殺気立った怪物とか、部屋の向こうに人がいる……っくらいの気配は感じられるだろ?」
「ああ、確かに」
「むしろ気配がないのが問題だと思うがな」
と、目を閉じ神経を研ぎ澄まして気配を探っていたクロがヒビキに声をかける。
「どう言う……さっきの三人も!?」
「ああ、どうも屋敷のどこにもいる気配がない」
「そういえば……」
と、ロムがいえばジュリーもサスケもその超感覚に呆れるような表情をする。
「それはまずいですね。とりあえず、上に登って屋敷を探索しましょう」
「そんな悠長でいいのか?」
と、ジュリーがいえば
「焦って外へ出ても手がかりが掴めなくなる可能性があります。これは千載一遇のチャンスですよ」
「判った」
答えたのはコーだった。
彼は、率先して梯子を登る。
登り切った後、顔だけ穴から出すと「クリア」と一言発してまた消える。
「殿はオレが受け持とう」
とクロが買って出て、彼らは次々と梯子を上っていく。