03 名にし負う大迷宮

文字数 2,636文字

「棍を止めろ」

 後ろからクロの声がする。
ヒビキが素直に従うと彼女の両側面から二本の白刃が突き出され、オーク二体の胸を貫く。
右の刀が素早く引き戻され、遅れて左の剣が後ろに消える。
間髪入れずに正面のオークの顎を三節棍で跳ね上げると、再び刀がそのオークの喉笛に突き入れられた。
 どうと倒れる三体を踏み越えて残りのオークの後ろへ回り込むヒビキとジュリー。
その動きに気を取られた二体のうち一体をクロが一閃、たちまちのうちに形成を圧倒的有利にした彼らは一気に攻勢にでる。
シュウトがそれまで牽制のために振り回していたのを一歩踏み込み、勢いに任せて横殴りにオークに叩き込むとその勢いは一体目のオークの顔を砕き二体目の頬にめり込む。
後ろで様子を伺っていたサスケがシュウトに迫るオークに苦無を投げ打ち、怯んだところをシュウトが星球で脳天から砕き潰す。
 残りの二体は後ろに回ったヒビキとジュリーがそれぞれ打ち倒し、この戦闘も無傷で勝利を収めた。
 サスケは手早くオークたちの持っていたナイフを回収すると、一行はもう一つの扉の先を進む。
それなりに複雑な通路の迷宮は探索し残してきた一つの部屋と別の扉で繋がり、もう一つ新しい扉を発見して行き止まった。

「さて、どの扉を開けましょうか?」

 目の前には今発見したばかりの扉がある。
開いていない扉はここを含めて四つ。
そのうち二つは同じ部屋への出入り口であることがサスケの描いたマップから明らかであった。

「ここが部屋なのは地図を見て判るな」

 コーが地図を覗きながら言う。

「ええ」

 ゼンも頷きクロを見た。

「どうします?」

 クロは腕を組んでむむと唸る。
ゼンが決断を促すように語りかける。

「我々の現在の目的は迷宮探索です。迷宮の全容を調べると言うなら(しらみ)(つぶ)しに扉を開けることもやぶさかではないのですが、本来の目的は迷宮の先に何があるのかを調べることだと思います。このダンジョンアタックで可惜(あたら)神経と体力をすり減らすのは得策ではないと思いますが……」

「てことはゼンはここか、もう一箇所の扉の二択で考えているってことか?」

 ジュリーが言葉尻を濁したゼンに問いかける。

「でも、もう一方の扉に行くとしたらその部屋を通るのが近道じゃない?」

「レイナの言うことももっともだ」

 ヒビキが地図を確認しながら同意を示す。

「この扉も特殊な構造はしてござらん。少なくともここで戻ってこられぬと言う事態にはならぬと思うが、如何致す」

 クロはほとんど話し合いに参加してこないシュウトに問いかけてみルことにした。

「お前はどう考えている?」

 彼は面倒臭そうにクロを一瞥すると「戦えればそれでいい」とだけ答えた。

「お前……」

 何か言いかけたコーを片手で制してロムが発言する。

「『敵』ってやつがさ、あえてこんなダンジョンを作ったんならそれ相応の意味ってのがあると思うんだ。それを踏まえて考えてみるってのはどう?」

「なるほど、確かに

は何らかの意図を持って構築されています。その意図の延長線上にこのダンジョンがあるとすれば、ダンジョンにはその謎が隠されていると考えるのが自然ですね。我々の目的がその謎解きとなれば探索しない場所があると言うのはナゾを解く鍵を取りこぼすことになりかねません」

「判った。目的をそこに絞って虱潰しに探索することにしよう」

 クロの最終決断がくだり、冒険者たちはダンジョンの扉を全て開けるべく歩き出した。
 部屋になっていたところには全て怪物が配置されていたが、コボルドやオークは彼らの敵ではない。
 ほとんど無傷で戦闘を切り抜けていくつかのアイテムを手にして全ての領域を踏破した。
 比較的広い部屋に移動してもらいゼンは入手したアイテムを広げていた。
 アイテムはほとんどが倒した怪物からの戦利品でありナイフや硬貨、食べられるのか疑問な食料などおよそRPG世界の冒険者が身につけているだろうと思われる一般的な装備品所持品ばかりだったが、ある部屋に置かれた宝箱の中から時代がかった《アンティークな》鍵といかにも謎解きに使いそうな形に加工された三種の宝石なども手に入れていた。

「手詰まりだな」

「予想してましたけどね」

 広げたアイテムを右に左にと選り分けながらゼンがブツブツと呟いている。
 前衛組は腰を下ろして体を休め、ロムたち後衛三人は念の為に入り口と天井を警戒している。

「予想していたのか?」

「ええ」

 ゼンはいくつかの戦利品を選り分けて持って行くことを決めると質問したコーに向き直る。

「このダンジョンは相当練られた上級者向けダンジョンです。ゲームなどでは判りやすく隠し扉(シークレットドア)が示唆されますが、隠し扉というのは本来、人を入れないための仕掛けなんですからちょっとやそっとで見つけられるようにはできていませんよ」

「どうやって探すんだい? 地道にダンジョン中をくまなく見て回るなんてごめんだよ」

 ジュリーと先頭を任されてきたヒビキは薄暗く先の見通せない迷宮探索と度重なる連戦で神経と体力をだいぶ奪われているようだった。

「いえいえ、それでも隠し扉は割と探し出せるんですよ」

「何を根拠に言っている?」

 クロが渡された刃渡り二十センチ級のダガーナイフを受け取りながら訊ねると、ゼンは得意そうにその独特の節を持った話し方で答える。

「壁の向こうが判らない場所、つまり通路の行き止まりですとか扉のない部屋の壁面などの『隠し扉の向こう側を感じられる場所』を探すんです。それだけで探す場所は半減しますよ」

「壁にあるならそうだろうけど、床に仕掛けられているとしたら?」

「ヒビキさんが隠し扉を作るとして通り道の中途半端な位置、自分でもどこか判らなくなるような場所に仕掛けますか? (トラップ)ならともかく」

「ああ、仕掛けないね」

「そういうことです」

「で? どの辺りだと思う?」

 クロがサスケを促して地図を広げる。

「壁の向こうが書き込まれていないこの行き止まり、唯一地図の辺と接しているこの部屋、あとはよく冒険者を引っかけるためにG《ゲーム》M《マスター》が仕掛けるダンジョンの入り口付近というのが探すポイントでしょうか?」
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