08 迷宮探索とは地味なもの

文字数 2,211文字

 狭い通路の突き当たりには電卓のような液晶画面とテンキーの埋め込まれた壁があった。
 ジュリーがそのキーパッドを(しょう)(てい)で押し込みIDを入力すると、液晶に数字が表示される。
 ゼンがその数字を指差し確認し間違いがないことを確かめると、ジュリーはエンターキーを叩くように押す。
 ファンファーレが鳴り、壁が天井を支点に奥へと開く。

「第一階層最初のクリア……だよな? オレたち」

「そうなりますね、たぶん」

 開いた通路の奥には階段があり、五人の冒険者は高揚感を覚えながら登って行く。
 登った先には右側に扉があり、開けると小部屋になっていた。

「出口は一つか」

「マップ作成の準備が整うまでしばし待たれよ」

 新たに取り出した地図用方眼紙を第一階層の地図と重ね合わせて座標を書き込む。

「第一階層がああでしたからね、この階層もトリッキーなダンジョンである可能性が高いですよ」

 それを聞いてうんざりと言う仕草と芝居がかった言い方でジュリーがぼやく。

「またオレ、トラップ担当かよ」

「俺、替わろうか?」

 最後尾で特に何もすることがなかったロムが言うと、

「それはそれでつまらん」

 と返ってくる。
 なんだかんだと先頭の役割を楽しんでいるのだろう。

「いいさ、最上階のドラゴンがオレの見せ場なのさっ!」

 サスケの合図を確認し、ジュリーは言いながら木製の扉を押し開く。

「うわっ!」

 開けた瞬間、目の前に迫ってきたのは三体の怪物だった。
 もちろんそれらは人形である。
 彼らの行く手をふさぐための単なる木偶(でく)人形だ。

「第一階層にあったのと同じパンチングマシーン型のモンスター……オークですね」

 第一階層は全体的には複雑な迷路だったが申し訳程度に部屋があり、中には固定された怪物が設置されていた。
 今、目の前に

のは和製RPGのビジュアルとして描かれる典型的な豚型の怪物で、ジュリーの鳩尾(みぞおち)あたりの体高(たいこう)しかない人形(フィギュア)が台車に乗せられて前後に行ったり来たりしているものだった。
 「木偶」と書いたが正しくは発泡ウレタン製で、中心にはゲームセンターではお馴染みのパワー測定機が芯として内蔵されている。
 これが一定のパワーを感知すると〈やられた〉と判定して撤退するようにできているようだった。

「じゃあ私左ね」

 レイナがジュリーの横に立って言う。

「俺にもやらせてくれるよね?」

 後ろからロムも声をかけた。

「ま・独り占めも良くないし、みんなで楽しまなきゃな」

 腰のショートソードを抜きながらジュリーが言うとロムは右の、レイナは左のオークの前に立つ。
 ジュリーが中央のオークを殴りつけるのを合図に二人もオークに攻撃する。
 レイピアで肩口から袈裟(けさ)斬りに打ち据えるレイナの打撃は威力がありそうだったが、一撃とはいかずウレタンの弾力に弾かれる。
 レイナは構え直すと一度下がって再び迫ってくるオークの胴を横薙ぎに払う。
 衝撃を受けたオークは動きを止め、やがて壁際まで退いて行く。
 ロムの方はタイミングを測るためだったのだろう、前後するオークを二度三度と見送り四度目に迫って来たオークの胸に下突きを打ち込む。
 カウンターブローのように放たれたそれは一撃で規定値を超え、やすやすと退けた。
 それぞれの受け持ち怪物を

二人が期せずして視線を交わした後「さて」と視線を移した先、裂帛(れっぱく)の気合いとポクポクと手数だけは多いジュリーはしかし、なかなかダメージ判定の設定値を超えられずにいた。

「くそっ! オレのトコだけ設定値高かったんじゃねぇか?」

「なワケないよね」

 やっとの思いで倒し、肩で息をしながらぼやくジュリーに対して、感情の乏しい一瞥(いちべつ)をくれてボソリと呟くレイナ。
 そのツッコミにロムは苦笑いするしかなかった。
 三体のオーク人形が壁際、所定の位置に収まると出口となる部屋の扉からカチリと鍵の解除する音が聞こえる。

「ロックが解除されたでござる」

「よし、行くぞ」

 開けた扉の先は長めの廊下で、正面突き当たりにはゼンが持つランタンの灯りでかろうじて扉が見える。

「一本道ですね」

「楽でいいや」

 先行する三人から大分遅れて地図を書き込んでいたサスケが呼び止める。

「しばし待たれ。暗くてマップが書けぬでござる」

「こっちに来てから書けばいいじゃねぇか」

「そうは行かぬ。正確な測量をせねばマッピングが破綻してしまうではござらぬか」

「そうですね、地図が正確でなければ攻略ができません」

「うむ、特にこのダンジョンはリアリティを追求するためにブロック数が判りにくくなってござる」

 サスケの言うブロックとはミクロンダンジョンの基本単位のことで一ブロック十センチで統一されている。
 従来のダンジョンは壁や床にラインが引かれていたりタイルそのものがブロック単位になっていたりしたのだが、このダンジョンは壁も床も天井も十分の一スケールのレンガを模して造形されており、非常に判りにくい。
 通路一つでもそれなりに時間がかかった地図作成(マッピング)を終えて扉を開くと、さっきと同じシチュエーションでオークが待ち構えていた。
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