07 それは最初から想定していなければ決して見つかるものじゃない
文字数 2,291文字
「完成でござる」
たどり着いたこの行き止まりでサスケが見せてくれたのは隙間なく描き込まれた第一階層の地図である。
「完成?」
部屋の中で遭遇 した怪物 の種類(キャラクターとしての名称やゲーム上の仕掛け・設定)から罠の位置、仕掛けのスペースまで書き込まれている。
「つまり第二階層に上がる階段が見つからないってことか? マニア泣かせだなぁ」
ジュリーがまじまじと地図を見つめてホゥと息を吐く。
「罠 ばかりの階層 だったね」
一時間近く歩き回って疲れたのか地べたに腰を下ろし壁に背を預けて休んでいるレイナがこれまでの感想をつぶやく。
「そうですね……どちらかというと上級者向けのダンジョンですね。初心者には派手な戦闘場面が用意されていない分、少々物足りないでしょう?」
「ん? ……そうだな」
視線を向けられたロムはそう返す。
RPGと銘打っているそのイメージから怪物が出てくるのをバッタバッタと打ち倒すものと思っていたことから考えれば物足りなさは確かにあった。
しかし、仕掛けられた罠を次々と回避し進む彼らと初めてのダンジョンアタックという物珍しさもあって決して退屈はしていない。
「しかし困りましたねぇ」
ゼンは鼻に人差し指、顎 に親指を当てぶつぶつと独り言を始める。
「普通に考えれば隠し扉 を探すんでしょうが、もらった地図 枠が全て埋まっているとなるとどうにも手掛かりが……しらみ潰しにするような時間も残っていないでしょうし……」
「ちぇっ、そういうの捜すの得意じゃねぇからなぁ」
ジュリーは八つ当たりに目の前の壁を蹴り飛ばす。
「!」
ロムはその音に違和感を覚え、試しとばかりに手近な壁をコンコンと叩いてみた。
その音は確かに地図を書き込みながらサスケが入り口から続けてきた壁の硬質な打音と同じものだった。
やはりジュリーの蹴飛ばした壁の、こもった鈍 めの音とは明らかに違う。
「気づいたでござるな」
覆面の奥でニタリと笑うのが判る。
「どういうこと?」
レイナに聞かれたサスケは再びマップを開いて指し示した。
現在位置は入り口のある辺の対面で突き当たりになっている角に当たる部分である。
「このフロア枠は正しくないでござる」
「間違っているってこと?」
「より正確には『意図的』に隠してござる」
「隠す?」
それに興味を示し再び地図を覗き込むジュリーに対し、サスケは地図を指差しながら説明し始めた。
「外から見たこのダンジョン、拙者の見立てでは僅かながら長辺と短辺がござった」
「長辺と短辺?」
「つまり、渡された正方形のフロア枠と違って実際は長方形だった……ということですね?」
「うむ」
「つまり、さっきお兄ちゃんが蹴ったところにシークレットドアがあるのね?」
「オレが蹴った?」
「音が違ってたでしょ?」
「音?」
今ひとつ理解できていないジュリーに呆れた視線を向けるレイナ。
その間にロムはゼンの持つランタンの揺れる灯りを頼りに隠し扉を見つけていた。
ジュリーとゼンがランタンと顔を近づけ壁を確認すると、なるほど壁に幅にして六十センチ(実際には十分の一)ほどの間隔をあけ二箇所、床から天井に向けてまっすぐ縦に切れ込みがあるのが判る。
「継ぎ目が綺麗すぎてこれでは動きそうにありませんよ」
「横には回転しない。床から五十センチと百五十センチあたりの目地が深くえぐれてるだろ?」
言われてゼンがランタンを持ち上げると確かにその高さの目地は普段なら気にならない程度に深くえぐれ、レンガも角が丸くなっているようだ。
「縦回転扉ですか……さすがはトラップマスターの悪名高き安田GM監修のダンジョンというところでしょうかね?」
「お前がそれを言うかね?」
そう言いながらジュリーは腰に吊るしていたショートソードを外して左手に握ると、壁に手を当て仲間を振り返る。
「じゃあオレから行かせてもらうぜ」
と、壁に置いた右手に力を込める。
それは縦回転の、それも上が向こう側に倒れて行く隠し扉だった。
「うおっ!」
勢い良く回転する扉に乗り上げ壁の裏に消えて行くジュリー。
「大丈夫ですかぁ?」
ゼンが壁の向こうに声をかけると「な、なんとか」と、ややくぐもった苦しそうな声が下の方から聞こえてくる。
壁の向こうでは狭い通路のせいで頭を下に海老反りの姿勢でもがくジュリーの姿があった。
「中は狭そうです。気を付けましょう」
四人はロム、レイナ、サスケ、ゼンの順に隠し扉をくぐる。
ちなみに、五人の被害状況だが、
ジュリー=自慢の盾(木製)の破損。
サスケ=落ち方悪く、左手首捻挫。
ゼン=通り抜けに失敗、おでこにコブ。
ロムとレイナは無傷である。
「オレの盾があっ!」
ジュリーのダメージが、精神的で一番大きいようだ。
「体が無事なら立派に防具の役を果たしておる。良かったではないか。拙者を見るがいい」
「あなたのは自業自得ですよ。格好などつけようとするから……あたたた」
ロムとレイナは、顔を見合わせてため息をつくしかない。
「そろそろ先に進まねぇとタイムアップしちまうんじゃないか?」
ひとしきり不幸を嘆く三人を見ていたロムが、心持ち大きな声で先を促すと
「……そうでした」
と、三人は重い腰を上げた。
たどり着いたこの行き止まりでサスケが見せてくれたのは隙間なく描き込まれた第一階層の地図である。
「完成?」
部屋の中で
「つまり第二階層に上がる階段が見つからないってことか? マニア泣かせだなぁ」
ジュリーがまじまじと地図を見つめてホゥと息を吐く。
「
一時間近く歩き回って疲れたのか地べたに腰を下ろし壁に背を預けて休んでいるレイナがこれまでの感想をつぶやく。
「そうですね……どちらかというと上級者向けのダンジョンですね。初心者には派手な戦闘場面が用意されていない分、少々物足りないでしょう?」
「ん? ……そうだな」
視線を向けられたロムはそう返す。
RPGと銘打っているそのイメージから怪物が出てくるのをバッタバッタと打ち倒すものと思っていたことから考えれば物足りなさは確かにあった。
しかし、仕掛けられた罠を次々と回避し進む彼らと初めてのダンジョンアタックという物珍しさもあって決して退屈はしていない。
「しかし困りましたねぇ」
ゼンは鼻に人差し指、
「普通に考えれば
「ちぇっ、そういうの捜すの得意じゃねぇからなぁ」
ジュリーは八つ当たりに目の前の壁を蹴り飛ばす。
「!」
ロムはその音に違和感を覚え、試しとばかりに手近な壁をコンコンと叩いてみた。
その音は確かに地図を書き込みながらサスケが入り口から続けてきた壁の硬質な打音と同じものだった。
やはりジュリーの蹴飛ばした壁の、こもった
「気づいたでござるな」
覆面の奥でニタリと笑うのが判る。
「どういうこと?」
レイナに聞かれたサスケは再びマップを開いて指し示した。
現在位置は入り口のある辺の対面で突き当たりになっている角に当たる部分である。
「このフロア枠は正しくないでござる」
「間違っているってこと?」
「より正確には『意図的』に隠してござる」
「隠す?」
それに興味を示し再び地図を覗き込むジュリーに対し、サスケは地図を指差しながら説明し始めた。
「外から見たこのダンジョン、拙者の見立てでは僅かながら長辺と短辺がござった」
「長辺と短辺?」
「つまり、渡された正方形のフロア枠と違って実際は長方形だった……ということですね?」
「うむ」
「つまり、さっきお兄ちゃんが蹴ったところにシークレットドアがあるのね?」
「オレが蹴った?」
「音が違ってたでしょ?」
「音?」
今ひとつ理解できていないジュリーに呆れた視線を向けるレイナ。
その間にロムはゼンの持つランタンの揺れる灯りを頼りに隠し扉を見つけていた。
ジュリーとゼンがランタンと顔を近づけ壁を確認すると、なるほど壁に幅にして六十センチ(実際には十分の一)ほどの間隔をあけ二箇所、床から天井に向けてまっすぐ縦に切れ込みがあるのが判る。
「継ぎ目が綺麗すぎてこれでは動きそうにありませんよ」
「横には回転しない。床から五十センチと百五十センチあたりの目地が深くえぐれてるだろ?」
言われてゼンがランタンを持ち上げると確かにその高さの目地は普段なら気にならない程度に深くえぐれ、レンガも角が丸くなっているようだ。
「縦回転扉ですか……さすがはトラップマスターの悪名高き安田GM監修のダンジョンというところでしょうかね?」
「お前がそれを言うかね?」
そう言いながらジュリーは腰に吊るしていたショートソードを外して左手に握ると、壁に手を当て仲間を振り返る。
「じゃあオレから行かせてもらうぜ」
と、壁に置いた右手に力を込める。
それは縦回転の、それも上が向こう側に倒れて行く隠し扉だった。
「うおっ!」
勢い良く回転する扉に乗り上げ壁の裏に消えて行くジュリー。
「大丈夫ですかぁ?」
ゼンが壁の向こうに声をかけると「な、なんとか」と、ややくぐもった苦しそうな声が下の方から聞こえてくる。
壁の向こうでは狭い通路のせいで頭を下に海老反りの姿勢でもがくジュリーの姿があった。
「中は狭そうです。気を付けましょう」
四人はロム、レイナ、サスケ、ゼンの順に隠し扉をくぐる。
ちなみに、五人の被害状況だが、
ジュリー=自慢の盾(木製)の破損。
サスケ=落ち方悪く、左手首捻挫。
ゼン=通り抜けに失敗、おでこにコブ。
ロムとレイナは無傷である。
「オレの盾があっ!」
ジュリーのダメージが、精神的で一番大きいようだ。
「体が無事なら立派に防具の役を果たしておる。良かったではないか。拙者を見るがいい」
「あなたのは自業自得ですよ。格好などつけようとするから……あたたた」
ロムとレイナは、顔を見合わせてため息をつくしかない。
「そろそろ先に進まねぇとタイムアップしちまうんじゃないか?」
ひとしきり不幸を嘆く三人を見ていたロムが、心持ち大きな声で先を促すと
「……そうでした」
と、三人は重い腰を上げた。