12 飛び道具の重要性

文字数 1,335文字

 彼女はベルトに挟んでいた護身用のナイフを棒手裏剣のように打ち込んだのだ。
 ナイフはサイクロプスの脇あたりに刺さる。
 痛みで動きが止まったのをクロとヒビキが見逃すはずもなく、リーチの長いヒビキの三節棍がクラブを握っていた右前腕を打ち付け、一拍遅れてクロが袈裟斬りに打ちおろす。
 悲鳴とともに鮮血が吹き出す中、それでもクロに攻撃を加えようとしていたサイクロプスの腹めがけて出遅れたシュウトがホームランスイングの一撃を見舞い、くの字になったサイクロプスの頭を打ち砕く。
 レイナはその時のシュウトの表情にゾッとした。
 恐怖に歪んでいたのか愉悦に歪んでいたのかは判らないが、それは確かに笑みだったからだ。

「レイナ、助かった」

 大きく息を吐き、全身に返り血を浴びたままのクロが言う。
 自分の姿に遠慮したのか、近づこうとはしないところにレイナに対する最大限の配慮を感じて、ヒビキは彼を改めて尊敬の眼差しで見つめる。

「やっぱり弓兵は必要じゃないっすか?」

 一連のやりとりをコーも見ていたのだろう、クロの隣に来るとそう言った。
 実は何度も進言していたのだ。

「コーちゃんの言う通りですよ、クロさん」

 ヒビキも、もちろんコーもクロが弓兵設立に難色を示している理由は判っている。
 まず現在の主力兵器である打撃兵器と違って加工技術が高度な弓と、消耗品である矢を資源の乏しい現状で量産できるかといえば難しい。
 しかもここは十分の一世界だ。
 元の世界のように威力と飛距離を生み出す弓矢になるかは未知数である。
 接近戦で振り回せばある程度戦果の望める打撃兵器と違い物量で弾幕を張ると言った戦術の望めない以上、弓兵には戦士以上に熟練が必要なことも二の足を踏む要因だった。
 しかし、ことはもうそうも言っていられない段階(フェーズ)に入ったと言わざるを得ない。
 今後、サイクロプスが集団で襲って来る可能性は高いのだ。

「殺傷力は高くなくってもいいんですよ、さっきの投げナイフみたいに接敵する前にタメージを与えてくれれば」

「……そうだな」

 クロは頭を砕かれうつぶせに倒れているほとんど人と変わらないサイクロプスの亡骸を見下ろして呟いた。





 門内に戻って来たレイナをやっさんが待ち受けていた。
 ヒビキは二人の間にレイナをかばうように割って入る。

「この()に何か用かい?」

 そう訊ねられたやっさんはニヤリと笑うと頭をぽりぽりとかきむしりながら下を向く。
 クロはその仕草がどこから話して何を隠すのかを考えていると言う風に見えた。

「コー、後始末を頼む」

 通常、戦闘の後始末は自警団の団長であるクロの指揮下で行われているが、時折今日のように誰かに指揮を委ねることがある。
 戦闘の後始末より重要と思われる案件が発生した時なのだけれど、そういう事案は大抵戦闘の前に発生している場合が多く、いつもならコーたちにもだいたい雰囲気で判ることが多いのだが、今日はいつもと違う突発的な事案のようだ。

「何かあったんですか?」

「ちょっとな」

 クロは言葉を濁してその場を離れると、レイナとヒビキ、やっさんを連れて街へと歩き出した。
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