12 ファンタジー系RPGには必要不可欠と言える そんな泉
文字数 2,955文字
武器の方はかなり損傷が激しい。
クロは第二階層がパワープレイであるということを確認して以降、戦利品をショートソードなどを都度使い潰してきたのでジュリーから譲り受けた刀を温存できているが、コーの剣は刃 毀 れが酷い。
剣道有段者のクロと違って鈍 らでは手数が増えるため自分の武器を優先した結果がここに現れていた。
ヒビキの槍もダメージが深刻だ。
ロムの特注品と違って硬い木でしかないそれは前衛を担うことが多いせいもあっていつ折れてもおかしくない状態といってもいい。
そのロムの棍も先ほどの孤軍奮闘でかなりダメージを負っているようだ。
レイナのレイピアもその特質上丈夫には出来ているものの、限られた条件下で作られたそれは決して業物といはいえない。
こういう事態を想定して作られた特注品であるジュリーのショートソードも使用者の技量が拙いせいか、刃毀れを起こしている。
みんなそれぞれに予備の武器を持っているとはいえ所詮は予備であり、決戦を迎えて頼りになるかといえば覚束ない。
「TRPGでは意識しませんけど、武器というのは本当に消耗品なのですね」
「日本でも古来合戦場では業物 ではなく数打物 を使い捨てていたというでござるからな。十分の一世界で多少条件が違うとはいえ物理法則は変えられんでござる」
「先に進もうぜ」
「まだ、確認してないものがあります。もう少し待ってください」
それは、武具防具以外の装備品のことだった。
水がなくなったことによる確認である。
その他の装備品も在庫状況を確認しないわけにはいかなかったのだ。
もっとも確認しなければならなかったのがランタンオイルの数だった。
時間を図る目安にするため一本一時間で小分けにされているそれは、残り二十三本になっている。これもこのダンジョンがあとどれくらい残っているのか判らない現状では多いのか少ないのか。食べ物は水と同様一週間分を用意して今日が二日目。
持ち物としてはだいぶ軽くなったが、その分心細くなったともいえた。
「冒険ってものは大変なもんだな」
出発前にも装備点検の際にジュリーが言っていたが、本当に大変だ。
「他の装備品で言えば救急セットが半分くらい消費されていますが、他は概ね心配ありませんね」
一通り確認しおえた冒険者は、クロの言葉を待つ。
「よし、じゃあ隊列を組み替えて出発しよう」
通路は一本道でアップダウンを繰り返していた。
サスケの測量が正しければ、第一階層と同レベルまで上がっている。
つまり地下三階がいつの間にか地下一階になっているという状況だ。
複雑に入り組んだ長い通路を歩くのは、この第三階層ではまだ一度も敵に出会ってはいないとはいえ、なかなか体力的にも精神的にも疲労がたまる。
時折罠 が仕掛けられていたのが精神をすり減らすのに一役買っている。
冒険者の喉が乾き始めて誰とはなしに焦り始めた頃、唐突に階段が現れた。
冒険者は互いに顔を見合わせ無言で頷きあうと、階段をのぼる。
マンホールのような扉を上に押し上げ先頭のコーが顔を出すと、そこには清らかな湧き水をたたえた泉を囲む緑豊かな森があった。
気温は心持ち暖かく、初夏のようだ。
「ロムの言った通りというか……それ以上のシチュエーションだな」
ジュリーがつぶやく。
「ええ、私もダンジョンの中に部屋として設置されているものとばかり考えていましたが、やられましたね。憎い演出です」
彼らはひとまず辺りを警戒しながら順に水を確保し、休憩を取ることにした。
森は彼らのサイズに合わせて作られたジオラマだろうか。
ロムが手近な木の幹に触れると、しっかりとした木の感触がある。
手の届くあたりの枝を手繰り寄せるとしなやかにたわむ。
「これ、十分の一の木?」
ゼンが近寄り、同じように木を触り、あれこれ調べる。
「縮小されたものというより盆栽的なものですね。人の手が加えられていることに変わりはありませんが」
「だとしたらすごい手間だぜ?」
コーが傷だらけの体を手ぬぐいで拭きながら言う。
「ジオラマというより温室カーデニングでござるな」
「ここは安全圏という認識でいいんだろうか?」
鎧を脱いで体を拭いているコーを見ながらクロがゼンに訊ねる。
「どうでしょうか? シナリオ的には一息ついた頃に何かしらイベントが発生する可能性も捨て切れませんが……」
「ふむ」
クロは傷の手当ても兼ねて一人ずつ水浴びすることを提案した。
コーがそろそろ終わる頃だった。
次にジュリーが、その後はゼン、サスケ、シュウト、クロ、ロムの順で男性陣が体を拭き、残るはヒビキとレイナだけとなる。
「…………」
気まずい沈黙の中、二人の女性は伏し目がちに互いに視線を送り合う。
「どうしたんだよ、早くしようぜ」
と、コーが言えば
「コーさん、それはさすがにデリカシーがなさすぎですよ」
と、ロムが突っ込む。
「ん? あー、そうだな」
と、ややあって二人が躊躇う理由に思い至ったようでガシガシと頭を掻く。
「でも、いつまでもここにいるわけにいかないだろ?」
「それはそうだけど……」
と、ヒビキも言ってはみたものの流石に踏ん切りがつかない様子だ。
「そうだな。少し離れるとしようか」
クロの提案で男たちは泉から少し離れることにした。
と言ってもいつ何に襲われるか判らない。
いつでもすぐさま駆けつけることができる程度の距離にはいることになる。
とりあえず彼らは泉のある開けたところから森の中へ少し入ることにした。
残された二人は、彼らが一応視界にチラチラと見え隠れしているくらいのところに遠ざかったのを見計らって、二人で泉に入ることにした。
すでに各自が持ってきた水袋に水の確保はした。
泉の水は浸 るには少々冷たくはあったが、汚れを落とすのに手早く済ませるためだ。
水の中に入れば遠くから覗かれてもマシだろうという考えもある。
二人は返り血などで汚れた鎧や服を脱いでいく。
ヒビキは腹筋がはっきり割れているなどアクション女優らしく筋肉質ではあるが、すらりと長い手足がその印象を薄めている。
いつもライダーススーツに無理やり押し込まれている胸はやはりとても豊満だ。
レイナの方は、こちらもこの世界で長く戦士として戦っているだけあって均整のとれた魅力的な肢体だ。
十代特有の瑞々しい張りのある肌が水を弾いている。
彼女の胸も決して小さくはないが、ヒビキの隣では若干ボリューム的に見劣りするなと自分で見比べながらため息をつく。
二人は軽く水を浴びて汚れを落とした後、泉に身をしずめる。
お湯でないのが残念といえば残念ではあるが、天を仰げば人工とはいえ青い空が広がっている。
空気は初夏のように爽やかで心地よい風が木々を揺らしている。
二人は心が開放的になり気が緩んだのか、すぐに上がるつもりで五分ほどその開放感に身を委ねてしまい、人の気配に気づくのが遅れた。
クロは第二階層がパワープレイであるということを確認して以降、戦利品をショートソードなどを都度使い潰してきたのでジュリーから譲り受けた刀を温存できているが、コーの剣は
剣道有段者のクロと違って
ヒビキの槍もダメージが深刻だ。
ロムの特注品と違って硬い木でしかないそれは前衛を担うことが多いせいもあっていつ折れてもおかしくない状態といってもいい。
そのロムの棍も先ほどの孤軍奮闘でかなりダメージを負っているようだ。
レイナのレイピアもその特質上丈夫には出来ているものの、限られた条件下で作られたそれは決して業物といはいえない。
こういう事態を想定して作られた特注品であるジュリーのショートソードも使用者の技量が拙いせいか、刃毀れを起こしている。
みんなそれぞれに予備の武器を持っているとはいえ所詮は予備であり、決戦を迎えて頼りになるかといえば覚束ない。
「TRPGでは意識しませんけど、武器というのは本当に消耗品なのですね」
「日本でも古来合戦場では
「先に進もうぜ」
「まだ、確認してないものがあります。もう少し待ってください」
それは、武具防具以外の装備品のことだった。
水がなくなったことによる確認である。
その他の装備品も在庫状況を確認しないわけにはいかなかったのだ。
もっとも確認しなければならなかったのがランタンオイルの数だった。
時間を図る目安にするため一本一時間で小分けにされているそれは、残り二十三本になっている。これもこのダンジョンがあとどれくらい残っているのか判らない現状では多いのか少ないのか。食べ物は水と同様一週間分を用意して今日が二日目。
持ち物としてはだいぶ軽くなったが、その分心細くなったともいえた。
「冒険ってものは大変なもんだな」
出発前にも装備点検の際にジュリーが言っていたが、本当に大変だ。
「他の装備品で言えば救急セットが半分くらい消費されていますが、他は概ね心配ありませんね」
一通り確認しおえた冒険者は、クロの言葉を待つ。
「よし、じゃあ隊列を組み替えて出発しよう」
通路は一本道でアップダウンを繰り返していた。
サスケの測量が正しければ、第一階層と同レベルまで上がっている。
つまり地下三階がいつの間にか地下一階になっているという状況だ。
複雑に入り組んだ長い通路を歩くのは、この第三階層ではまだ一度も敵に出会ってはいないとはいえ、なかなか体力的にも精神的にも疲労がたまる。
時折
冒険者の喉が乾き始めて誰とはなしに焦り始めた頃、唐突に階段が現れた。
冒険者は互いに顔を見合わせ無言で頷きあうと、階段をのぼる。
マンホールのような扉を上に押し上げ先頭のコーが顔を出すと、そこには清らかな湧き水をたたえた泉を囲む緑豊かな森があった。
気温は心持ち暖かく、初夏のようだ。
「ロムの言った通りというか……それ以上のシチュエーションだな」
ジュリーがつぶやく。
「ええ、私もダンジョンの中に部屋として設置されているものとばかり考えていましたが、やられましたね。憎い演出です」
彼らはひとまず辺りを警戒しながら順に水を確保し、休憩を取ることにした。
森は彼らのサイズに合わせて作られたジオラマだろうか。
ロムが手近な木の幹に触れると、しっかりとした木の感触がある。
手の届くあたりの枝を手繰り寄せるとしなやかにたわむ。
「これ、十分の一の木?」
ゼンが近寄り、同じように木を触り、あれこれ調べる。
「縮小されたものというより盆栽的なものですね。人の手が加えられていることに変わりはありませんが」
「だとしたらすごい手間だぜ?」
コーが傷だらけの体を手ぬぐいで拭きながら言う。
「ジオラマというより温室カーデニングでござるな」
「ここは安全圏という認識でいいんだろうか?」
鎧を脱いで体を拭いているコーを見ながらクロがゼンに訊ねる。
「どうでしょうか? シナリオ的には一息ついた頃に何かしらイベントが発生する可能性も捨て切れませんが……」
「ふむ」
クロは傷の手当ても兼ねて一人ずつ水浴びすることを提案した。
コーがそろそろ終わる頃だった。
次にジュリーが、その後はゼン、サスケ、シュウト、クロ、ロムの順で男性陣が体を拭き、残るはヒビキとレイナだけとなる。
「…………」
気まずい沈黙の中、二人の女性は伏し目がちに互いに視線を送り合う。
「どうしたんだよ、早くしようぜ」
と、コーが言えば
「コーさん、それはさすがにデリカシーがなさすぎですよ」
と、ロムが突っ込む。
「ん? あー、そうだな」
と、ややあって二人が躊躇う理由に思い至ったようでガシガシと頭を掻く。
「でも、いつまでもここにいるわけにいかないだろ?」
「それはそうだけど……」
と、ヒビキも言ってはみたものの流石に踏ん切りがつかない様子だ。
「そうだな。少し離れるとしようか」
クロの提案で男たちは泉から少し離れることにした。
と言ってもいつ何に襲われるか判らない。
いつでもすぐさま駆けつけることができる程度の距離にはいることになる。
とりあえず彼らは泉のある開けたところから森の中へ少し入ることにした。
残された二人は、彼らが一応視界にチラチラと見え隠れしているくらいのところに遠ざかったのを見計らって、二人で泉に入ることにした。
すでに各自が持ってきた水袋に水の確保はした。
泉の水は
水の中に入れば遠くから覗かれてもマシだろうという考えもある。
二人は返り血などで汚れた鎧や服を脱いでいく。
ヒビキは腹筋がはっきり割れているなどアクション女優らしく筋肉質ではあるが、すらりと長い手足がその印象を薄めている。
いつもライダーススーツに無理やり押し込まれている胸はやはりとても豊満だ。
レイナの方は、こちらもこの世界で長く戦士として戦っているだけあって均整のとれた魅力的な肢体だ。
十代特有の瑞々しい張りのある肌が水を弾いている。
彼女の胸も決して小さくはないが、ヒビキの隣では若干ボリューム的に見劣りするなと自分で見比べながらため息をつく。
二人は軽く水を浴びて汚れを落とした後、泉に身をしずめる。
お湯でないのが残念といえば残念ではあるが、天を仰げば人工とはいえ青い空が広がっている。
空気は初夏のように爽やかで心地よい風が木々を揺らしている。
二人は心が開放的になり気が緩んだのか、すぐに上がるつもりで五分ほどその開放感に身を委ねてしまい、人の気配に気づくのが遅れた。