03 兵装と防衛戦力

文字数 3,073文字

「これは……」

 コーとヒビキが息を飲むのも無理はない。 防具は機能性を追求した本格的な金属鎧だ。
ミクロンダンジョン(遊び)と思って拉致された彼らの最初に身につけていたものとは全く違う。
なるほどこれなら彼らが軽傷だったことも頷ける。
 武器の方もまた

だった。
主武装は真剣であり、予備の刃引きされた刀剣もここで造られた武器以上の殺傷力を今すぐにも発揮しそうだ。
そして、ゼンの杖はいくつものスイッチがついていてそれが彼の攻撃力を補っているのだと容易に察しがつく。
 彼らは(はな)からここで何が待ち受けているか知っていて、そのための準備・戦うための装備を整えて来ていたのだ。

「確かに他人(ひと)には預けたくないな……この件も会議に(はか)ろう。ただし、今は一時的にオレとヒビキに預からせてもらう」

 コーは装備品を片付けるために待っていた自警団のメンバーに後を託して防具を持つ。
レイナがそれを手伝いヒビキは武器を手に取った。

「これは……」

 ロムの棍を手に取ったきり動かなくなったヒビキにロムが自慢するように話しかける。

「すごいでしょ? 俺の要望通りに作ってくれたんだ」

 ロムはヒビキが(もちろんコーも)有名人であることを当然知っている。
特にヒビキがアクションスターとして、いや武闘家として実力があることも知っている。
だからこそ彼の棍を持った瞬間その性能に気付いたのが判ったのだ。

「要望通り?」

 (おう)()返しに問い返したのは無意識だったが、そこにはこの棍を作るのにどれほど繊細な感覚を説明したのかと言う思いが確かに込められていた。
 棍は究極的には単なる棒である。
 しかし、材質や長さ太さによってその特性が変わり、剣術などと同様にその特性を利用した使い方もある。
 この縮小世界でヒビキたち腕に覚えのある戦士が最も苦労しているのがこの「武器の再現度」だったのだ。
 たとえ材質が同じであってもサイズが違えば特性が変わる。棍でいえば

、強度やバランスが歴然と違う。
 ヒビキが三節棍を使っているのはその誤差が少ないからだ。
 その三節棍でさえ未だに試行錯誤を続けている。

 例の会議室でテーブルの上に並べられた武装を見つめながら、ヒビキはクロたちが来るのを待っていた。
 その様子は心ここに在らずといった有様で、コーは珍しいこともあるもんだと呆れていた。

「遅くなってすまないね」

 扉を開けて連れ立って入ってきたのはクロとタニ、そしてイサミの三人。
 会議室で待っていたコー、ヒビキ、レイナにやっさんを足した七人が現在のこの街の最高意思決定権を持つメンバーである。
 そう、クロが自分たちの自己紹介をすると、タニが「自警団メンバーに偏りすぎてるけどな」と肩をすくめて付け足した。
 「さて」と組んだ手をテーブルに置いてクロが参加者を見回すと、四人のためにざっとこの街の概要を経緯とともに語る。
 語り慣れているのかとても簡潔で判りやすい。
 いくつかの質疑に答えた後、やっさんを指名して事の発端でありレイナが拐われたゲームエクスポミクロンダンジョン崩壊事故から、これまでにやっさんが調べたミクロンがらみの事件などの説明がなされた。
 こちらの方は特に目新しい情報ではなかったようで四人から特に質問などはなかった。

「こちらからの情報は以上だ」

 クロはそう言うと一度椅子の背もたれに体を預ける。

「そういえば、食事がまだだったな」

「用意させているよ。続きは食べながらといこうか」

 タニはそう言うと立ち上がって一度退出する。
 戻ってきた彼の後からはマユとアリカが温かい食事を持って入ってきてそれぞれの前に配膳していく。
 食事を取り始めてしばらくはとりとめもない会話が続いた。
 特にレイナとジュリーが家族の話題で盛り上がるのを微笑ましく見ている大人たちという図がしばらく続き、いつしか話題は戦闘の話に移っていった。

「君たちは

ダンジョンを通ってきた割には怪我が軽いね」

 最初に口火を切ったのはタニだった。

「虫のフロアはともかくクリーチャーと戦ってその程度で済んだ冒険者は私の知る限りそこの二人だけだ」

 と視線をクロとヒビキに向ける。

「つまり君たちは彼らに匹敵する実力を持っているという認識でいいのかな?」

「まさか。我々はあなたたちと違って十分な準備をしていただけですよ」

 それは謙遜ではなく事実である。
 実際の実力のほどは測りようがなくとも芸能界でも屈指の実力と言われる剣道有段者の黒川(クロ)やアクションスターの響木(ヒビキ)の戦闘力とは比べようがないことなど自明である。

「そう。すごいんですよ、彼らの装備」

 食事のために壁際に追いやられていた武具防具を指してヒビキが言う。

「ほう、そんなにすごいのかい?」

「見ますか?」

「ぜひとも」

 食事が一段落していたこともあり、食器が片付けられ再びテーブルに装備品が並べられた。

「本格的だな」

 と漏らしたのはクロである。
 俳優としてそれなりのキャリアを持つ彼は歴史物の映画に出演した経験もあり、武将として鎧を身につけたことがある。
 そこはオタクの性というところだろうか、褒められたことに気を良くしたのか作ったジュリーが得意げに長々と説明を始める。

「これが量産出来れば街の防衛もずいぶん楽になるのにな」

 タニが言うと、不思議そうにロムが問う。

「防衛?」

「話を聞いてなかったのかい? この街には時々怪物の襲撃があるんだ」

「それは聞いていたよ。俺が聞きたいのはずっと街に籠もっているつもりなのかって事」

 それを聞いてコーが少し強い調子で反論する。

「ミクロンダンジョンとは違うんだよ」

「でも、出来ればこちらから討って出たいのは事実よ、コーちゃん」

「討って出たくても頭数が足りないってのはスズネも言ってる事だろうが」

「頭数ってのはどれくらいを想定しているのですか?」

「ん? うん、過去に編成された調査隊は二パーティ。八人と十二人だったかな?」

 タニが答える。
 この中では彼がレイナに次いで古株だった。
 最初の調査隊は襲撃が始まる前、南門から出た探検隊が人造人間(ホムンクルス)(なぶ)り殺されてしばらく経ってからだ。
 北門から調査隊が出発したちょうど一週間後に最初の襲撃が始まった。
 二度目の調査隊は人口規模が百人を超えた頃。
 このとき編成されたのは調査することを強硬に主張した五人組パーティと、志願した七人の好戦的なメンバーだった。
 彼らもそれなりに実力のある戦士たちだったが、帰って来ていない。
 その調査隊のことはアリカも覚えている。
 彼らがいなくなったことで戦力が大幅にダウンし、ヒビキが来るまでに随分と戦死者が出た。
 ネバルが足を引きずるようになるほどの大怪我をしたのもその頃のことだ。

「当時とは状況が違うから一概には言えないが、同等以上の編成は必要だろう」

「そんな戦力は現状割けないよ」

 クロが言う。
 現有戦力としてはここにいるクロ、ヒビキ、コー、アリカ、イサミにレイナ。
 他にはネバルとシュート、不和に目をつぶれるならシュウトたち六人も計算に入れられるだろう。
 しかし、その全員を調査に出すと街の防衛戦力が崩壊する。
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