08 戦果
文字数 2,668文字
「深く撃ち込まず!」
ジュリーは声に出して自分に言い聞かせ、コボルドの首を狙って刀を振り下ろす。
それでもタイミングが遅かったのか、かなり深く斬りつけることになったが骨にまでは到達せず、刃こぼれなしで最初の敵に血 飛沫 を上げさせた。
サスケは腰に手 挟 んでいた短刀を逆手抜き打ちに、体を捻るようにして首を搔き切る。
その間にレイナは残りの二体を撃ち倒していた。
「一対一なら負ける気がしないぞ」
「気を引き締めねば足元をすくわれるでござる」
「次はオークです」
ゼンはジュリーとサスケにすぐさま次の目標を指示することで、命を奪う不快感をアドレナリンによる戦闘の高揚感で押さえ込ませる。
最も近いオークは近くに二体だが、そこに向かうと乱戦の中に入り込むことになる。
無手のコボルドと違ってオークは棍棒 を振るってくるので注意が必要だ。
その危険度の分二人が慎重になると言う判断をゼンが下したものとみて、ロムは彼が冷静な判断力を維持していると評価したが、エクスポ以来彼らの戦いぶりを知らないレイナは驕りと見て取った。
「オークとコボルドは強さが違うよ。無理しないでコボルドを狙おうよ」
「いいや、ゼンの判断は正しい」
それをジュリーが否定するものだからますますレイナは危機感を募らせる。
なおも主張しようとするレイナの肩をロムは掴んだ。
「なんとかする」
先ほどの模擬戦で圧倒的な力を見せつけたロムが言った言葉はレイナに相当の安心感を与えてくれた。
実際にはロムは何もする気は無い。
周りの戦闘状況から判断してオークであっても一対一なら負けようがないと思っていたからだ。
被弾したとしても彼の鎧を貫くほどの打撃力はないともみている。
事実、二人はレイナの力を借りることもなく一体ずつきっちり倒して見せた。
「この二年半、あなたを救うために彼らがどれほど努力して来たか……信頼してあげてください。決して無茶はさせませんから」
見違えるほど強くなっていた二人を見るレイナにゼンは優しく語りかけた。
「……うん」
その逞しさに涙ぐみそうになるレイナにジュリーが声をかける。
「戦闘中だぞ」
そこはすでに乱戦になっている。
オークを倒した二人は、すでに次のコボルドの攻撃から身をかわし、反撃の機会を伺っていた。
「ロム、乱戦から一旦抜けますよ」
「了解」
ゼンに頼まれたロムは彼の背後から鋭い突きを放って瞬く間に二体のコボルドの喉を撃ち抜くと、二人に代わって前へ出る。
いや、それは彼らにとって反転の合図だった。
殿 を担うロムが襲いかかる四、五体の怪物を退けている間に四人はきっちり乱戦から抜け出していた。
レイナにはもう全てが驚天動地と言っていいほどの攻防だった。
「なんとかなるな」
呼吸を整えながらジュリーが言う。
初陣としては十分すぎる戦果だ。
ジュリーはすでに四体、サスケも三体倒している。
「あとはこちらにくる敵だけを倒すことに専念しましょう」
「それがいい。初めての集団戦で今までと勝手が違うでござるからな、不用意に乱戦に巻き込まれると大怪我をしかねん」
それを聞いてレイナは冷静だと舌を巻く。
「少し距離をとってゼンを守る。それでいいな?」
ジュリーが仲間を見回す。
「二人に任せるよ」
「ロム?」
「あれを倒さなきゃ戦況がひっくり返される」
と、棍で指し示す先には乱戦に割って入り、自警団メンバーを文字通り蹴散らすサイクロプスがいた。
事前の申し合わせで一般の戦士はサイクロプスに近づかない、近づいて来たならば逃げることになっており大きな被害には至っていないが、その度に戦線を崩され戦況が膠着しかけている。
他二体のサイクロプスは押してはいるが倒すまでには至っていない。
「無茶だよ」
と、思ったのはレイナ一人のようだった。
三人はロムに絶対の信頼を置いているようで、笑って送り出す気でいる。
「ど、どうしても行くって言うなら私も行く!」
普段レイナは華奢ではあるがしなやかで機動力の高いことを買われ、貴重な遊軍戦力として対サイクロプス戦力からは外されている。
彼女一人加わるだけで大抵の戦況をひっくり返せる。
そんな決定的戦力まで参加してしまうと戦況が悪化した際に踏ん張りが効かなくなるからだ。
「危なくなったら守るから」
レイナがロムを見つめて頬を染め、切々と訴える。
「じゃあ、任せたよ」
おかしそうに笑うと、ロムはサイクロプスに向かって散歩でもするように歩き出した。
まるで鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で戦場を歩くロムの数歩後ろをレイナは歩いていた。
コボルドもオークも彼に気を止めない。
それが不思議でならない。
やがて次の標的を探していたサイクロプスが自身に向かって来るロムに気づいたらしく、にまりと口を開いて悠然とこちらに向かって歩き出した。
「単なる喧嘩屋レベルだな」
立ち止まったロムはそう呟くと、棍を大きく回して突きの構えをとる。
サイクロプスは威嚇の叫びをあげて釘打ち 棍棒 を振り上げた。
レイナが振り下ろされるだろうそれを避けるために身構えた時にはサイクロプはロムの初撃を受けていた。
顔の三割は占めていた大きな目を撃ち抜かれたサイクロプスは耳をつんざく悲鳴をあげ、棍棒を落として両手で顔を覆う。
がら空きの喉と鳩尾 に二段付きが決まる。
サイクロプスは叫びもあげられなくなり悶絶してうずくまるがしかし、残念ながら棍には剣のような殺傷力がない。
「ま、仕方ないか」
その声でようやく目の前の事態に理解が追い付いたレイナが慌ててトドメを刺す。
「ど、どうなってるの? なんでサイクロプスが倒れてたの?」
「俺が倒したから?」
「いやいやいや、クロさんたちがあんなに苦労してるサイクロプスだよ、一体何したの?」
「苦労してるのは武器のせいでしょ。ヒビキさんだって出来ると思うけどなぁ」
「あ・加勢に行かなきゃ」
「そうだね、どっちに行く?」
ロムの戦力分析では不利なのは四人がかりの方である。
「アリカさん達の方へ」
レイナも即座に判断した。
「了解。急ぐよ」
そう言うとロムは棍を突き出した構えのまま軽やかに走り出した。
ジュリーは声に出して自分に言い聞かせ、コボルドの首を狙って刀を振り下ろす。
それでもタイミングが遅かったのか、かなり深く斬りつけることになったが骨にまでは到達せず、刃こぼれなしで最初の敵に
サスケは腰に
その間にレイナは残りの二体を撃ち倒していた。
「一対一なら負ける気がしないぞ」
「気を引き締めねば足元をすくわれるでござる」
「次はオークです」
ゼンはジュリーとサスケにすぐさま次の目標を指示することで、命を奪う不快感をアドレナリンによる戦闘の高揚感で押さえ込ませる。
最も近いオークは近くに二体だが、そこに向かうと乱戦の中に入り込むことになる。
無手のコボルドと違ってオークは
その危険度の分二人が慎重になると言う判断をゼンが下したものとみて、ロムは彼が冷静な判断力を維持していると評価したが、エクスポ以来彼らの戦いぶりを知らないレイナは驕りと見て取った。
「オークとコボルドは強さが違うよ。無理しないでコボルドを狙おうよ」
「いいや、ゼンの判断は正しい」
それをジュリーが否定するものだからますますレイナは危機感を募らせる。
なおも主張しようとするレイナの肩をロムは掴んだ。
「なんとかする」
先ほどの模擬戦で圧倒的な力を見せつけたロムが言った言葉はレイナに相当の安心感を与えてくれた。
実際にはロムは何もする気は無い。
周りの戦闘状況から判断してオークであっても一対一なら負けようがないと思っていたからだ。
被弾したとしても彼の鎧を貫くほどの打撃力はないともみている。
事実、二人はレイナの力を借りることもなく一体ずつきっちり倒して見せた。
「この二年半、あなたを救うために彼らがどれほど努力して来たか……信頼してあげてください。決して無茶はさせませんから」
見違えるほど強くなっていた二人を見るレイナにゼンは優しく語りかけた。
「……うん」
その逞しさに涙ぐみそうになるレイナにジュリーが声をかける。
「戦闘中だぞ」
そこはすでに乱戦になっている。
オークを倒した二人は、すでに次のコボルドの攻撃から身をかわし、反撃の機会を伺っていた。
「ロム、乱戦から一旦抜けますよ」
「了解」
ゼンに頼まれたロムは彼の背後から鋭い突きを放って瞬く間に二体のコボルドの喉を撃ち抜くと、二人に代わって前へ出る。
いや、それは彼らにとって反転の合図だった。
レイナにはもう全てが驚天動地と言っていいほどの攻防だった。
「なんとかなるな」
呼吸を整えながらジュリーが言う。
初陣としては十分すぎる戦果だ。
ジュリーはすでに四体、サスケも三体倒している。
「あとはこちらにくる敵だけを倒すことに専念しましょう」
「それがいい。初めての集団戦で今までと勝手が違うでござるからな、不用意に乱戦に巻き込まれると大怪我をしかねん」
それを聞いてレイナは冷静だと舌を巻く。
「少し距離をとってゼンを守る。それでいいな?」
ジュリーが仲間を見回す。
「二人に任せるよ」
「ロム?」
「あれを倒さなきゃ戦況がひっくり返される」
と、棍で指し示す先には乱戦に割って入り、自警団メンバーを文字通り蹴散らすサイクロプスがいた。
事前の申し合わせで一般の戦士はサイクロプスに近づかない、近づいて来たならば逃げることになっており大きな被害には至っていないが、その度に戦線を崩され戦況が膠着しかけている。
他二体のサイクロプスは押してはいるが倒すまでには至っていない。
「無茶だよ」
と、思ったのはレイナ一人のようだった。
三人はロムに絶対の信頼を置いているようで、笑って送り出す気でいる。
「ど、どうしても行くって言うなら私も行く!」
普段レイナは華奢ではあるがしなやかで機動力の高いことを買われ、貴重な遊軍戦力として対サイクロプス戦力からは外されている。
彼女一人加わるだけで大抵の戦況をひっくり返せる。
そんな決定的戦力まで参加してしまうと戦況が悪化した際に踏ん張りが効かなくなるからだ。
「危なくなったら守るから」
レイナがロムを見つめて頬を染め、切々と訴える。
「じゃあ、任せたよ」
おかしそうに笑うと、ロムはサイクロプスに向かって散歩でもするように歩き出した。
まるで鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で戦場を歩くロムの数歩後ろをレイナは歩いていた。
コボルドもオークも彼に気を止めない。
それが不思議でならない。
やがて次の標的を探していたサイクロプスが自身に向かって来るロムに気づいたらしく、にまりと口を開いて悠然とこちらに向かって歩き出した。
「単なる喧嘩屋レベルだな」
立ち止まったロムはそう呟くと、棍を大きく回して突きの構えをとる。
サイクロプスは威嚇の叫びをあげて
レイナが振り下ろされるだろうそれを避けるために身構えた時にはサイクロプはロムの初撃を受けていた。
顔の三割は占めていた大きな目を撃ち抜かれたサイクロプスは耳をつんざく悲鳴をあげ、棍棒を落として両手で顔を覆う。
がら空きの喉と
サイクロプスは叫びもあげられなくなり悶絶してうずくまるがしかし、残念ながら棍には剣のような殺傷力がない。
「ま、仕方ないか」
その声でようやく目の前の事態に理解が追い付いたレイナが慌ててトドメを刺す。
「ど、どうなってるの? なんでサイクロプスが倒れてたの?」
「俺が倒したから?」
「いやいやいや、クロさんたちがあんなに苦労してるサイクロプスだよ、一体何したの?」
「苦労してるのは武器のせいでしょ。ヒビキさんだって出来ると思うけどなぁ」
「あ・加勢に行かなきゃ」
「そうだね、どっちに行く?」
ロムの戦力分析では不利なのは四人がかりの方である。
「アリカさん達の方へ」
レイナも即座に判断した。
「了解。急ぐよ」
そう言うとロムは棍を突き出した構えのまま軽やかに走り出した。