01 ヒーローの素質
文字数 2,598文字
話をレイナたちが襲われる少し前に遡ろう。
二人が沐浴するというので男たちが泉から離れて森の中に入った頃だ。
戦闘に自信の無い三人は固まって森の中へ入った。
森の植生は広葉樹で本来なら葉が落ちていなければいけないはずの季節にも関わらず、青々と繁っている。
下草は芝だろう。
泉の周りは十分の一に縮小されたものだったがこの辺りは原寸のものらしく、今の彼らの胸ほどに伸びている。
「これからどうする?」
ジュリーがゼンに訊ねる。
「森を探検する以外にはありませんけど?」
「そうだよなぁ。この森どれくらいの規模なんだろうか」
「それは測りかねますが、地下空間であることに変わりありませんし、通ってきたダンジョン以上に広がっていないと期待したいですね」
「それでも広いなぁ……」
と、続きを言いかけた時「しっ!」とサスケが覆面越しに口に人差し指を当て注意を促してきた。
さっと緊張する二人は、サスケの指差す方向に『人』を発見した。
茂みに見え隠れしているため男性二人であるとしか判らないが、あれは確かに人間である。
三人は一度茂みの中に屈み込み互いに目配せして意思を確認し合う。
「我々だけでは心細いです。他のメンバーと合流しましょう」
三人は、見失わないように気をつけながらも、彼らの後を追いつつ、仲間との合流を模索する。
進行方向から行ってロムとの合流は難しい。
進んだ先にはクロがいたはずとゼンが言う。
慌ててわさわさと移動した三人だが、すぐにこのままでは気がつかれてしまう可能性が高いと、サスケ、ジュリー、ゼンの順に一列になる。
なるべく静かに踏み荒さないように注意ながらサスケとジュリーが男たちを見張り、ゼンがクロを探して森の茂みの中を進む。
「いました」
と、ゼンがジュリーの肩をたたく。
クロを発見したのだ。
ジュリーは無言で頷くと、クロの元へ移動する。
「クロさん」
小声で呼びかけられたクロは何かを感じてくれたらしく「ん?」と一言呟いただけでこちらの発言を待っている。
「二人組の男を発見しました。今、尾行しているんですが、オレたちだけじゃ心細いんで一緒に来てもらえますか?」
「判った、念のためコーも連れて行こう」
そう判断したのは、ひとまず何事もなさそうな泉周辺と何が起こるか判らない行き先との勘案の結果だったのだろう。
「ここで待っていてくれ」
と、茂みをかき分け一分と経たないうちにコーを連れて戻ってきた。
「二人組を発見したって?」
「ええ」
コーたちを先導する形でサスケたちの後を追うジュリーは、道行きの時間を使ってあらましを説明する。
やがて注意深く見れば前方に背の高いサスケの黒装束が見え隠れするのが確認できて、心持ち足を早める。
合流した三人は二人組を確認し、無言で彼らを尾行する。
ほどなくして森の中にひらけた場所があり、三階建アール・デコ建築の洋館が現れた。
尾行していた男たちはその中に入っていく。
安全のため、洋館から少し離れた森の中まで戻った彼らは話し合う。
アール・デコは二十世紀前半に流行した装飾美術だ。
彼らが閉じ込められた産業革命前夜の近世ヨーロッパ建築を模した街の建築物とは一世紀ほど隔たりがある。
その中に入っていく男たちの服装も彼らのものとは出来が違って、遠目に見ても工業製品然とした仕立てになっていた。
「どうする?」
「どうするもこうするも『虎穴に入らずんば虎子を得ず』だろ?」
「コーさん、単純すぎます」
「ったって、行かない選択肢はないだろ」
「ありますよ、一旦戻るって選択肢が」
「ああ」
「でもよ、結局行くしかないんだろ?」
と、ジュリーが言う。
「行くにしてもどういうアプローチでいくかを話し合うってことだろう?」
クロに言われてコーとジュリーはなるほどと合点顔をする。
「大きな洋館でござる。二人で住んでいるとは拙者には思えぬ」
「ああ、その意見にはオレも賛成するよ」
「確かに二、三人で住んでるなんてなったら毎日掃除で終わりそうだ」
「何を言ってるんですか、ジュリーは」
「ん? 何かおかしなこと言ったか?」
「議論の本筋から外れてるんです」
「ああ、すまないな」
「ゼンはどうすべきだと思う」
クロが意見を聞いてくる。
ゼンは例の仕草をしながらぶつぶつと声に出して頭の中の整理をし始めた。
「TRPG的には様子を伺いつつぐるりと洋館の周りを回って情報を集めるところですね。しかし、中に人がいることが確実な状況でそんなことをしているこちらに気付かれるのは、相手が敵にしろ味方にしろ心証が悪くなりますから実際の状況としては、得策ではありません。一旦戻ってヒビキさんたちと合流するのは……どうでしょう?」
「面倒だから正面から行こうぜ」
と、主張したのはジュリーである。
「オレもその意見に賛成だな。仮に敵だったとしても人間同士だ。見たところ問答無用タイプとも思えなかったぜ」
「人は見かけによりませんよ?」
「まぁ、最後まで言わせろよ。もし味方だったとしたら、コソコソしている俺たちを信頼してくれるか?」
浅見洸汰 はウルトラマン俳優である。
キャスティングの理由をプロデューサーは
「何が正義か判らない時代に少し単純なくらいポジティブで明快な答えを出してきた彼に、ウルトラマンという作品の本質を見た。彼なら新しくも伝統的なウルトラマンを子供達に提示してくれると思った」
と語っている。
彼は根っからのヒーローなのだ。
人を信じているのだろう。
同じ番組 に地球防衛隊の隊長役で共演したクロは、撮影中の彼を思い出しながらそのどこまでも青臭い性善説を恥ずかしげもなく大上段から語る姿を好ましく思いながら苦笑する。
「何がおかしいんすか?」
「いや、今回はコーの提案に乗ろう。正面から彼らに面会だ」
一決すると、先頭きって洋館に向かう。
ライオンを模したドアノッカーを二度叩くと、しばらくして先ほどまで彼らが後をつけていた男の一人が出迎える。
「あ」
彼はちょっと驚いて彼らを見回した後、館の中に招き入れてくれた。
二人が沐浴するというので男たちが泉から離れて森の中に入った頃だ。
戦闘に自信の無い三人は固まって森の中へ入った。
森の植生は広葉樹で本来なら葉が落ちていなければいけないはずの季節にも関わらず、青々と繁っている。
下草は芝だろう。
泉の周りは十分の一に縮小されたものだったがこの辺りは原寸のものらしく、今の彼らの胸ほどに伸びている。
「これからどうする?」
ジュリーがゼンに訊ねる。
「森を探検する以外にはありませんけど?」
「そうだよなぁ。この森どれくらいの規模なんだろうか」
「それは測りかねますが、地下空間であることに変わりありませんし、通ってきたダンジョン以上に広がっていないと期待したいですね」
「それでも広いなぁ……」
と、続きを言いかけた時「しっ!」とサスケが覆面越しに口に人差し指を当て注意を促してきた。
さっと緊張する二人は、サスケの指差す方向に『人』を発見した。
茂みに見え隠れしているため男性二人であるとしか判らないが、あれは確かに人間である。
三人は一度茂みの中に屈み込み互いに目配せして意思を確認し合う。
「我々だけでは心細いです。他のメンバーと合流しましょう」
三人は、見失わないように気をつけながらも、彼らの後を追いつつ、仲間との合流を模索する。
進行方向から行ってロムとの合流は難しい。
進んだ先にはクロがいたはずとゼンが言う。
慌ててわさわさと移動した三人だが、すぐにこのままでは気がつかれてしまう可能性が高いと、サスケ、ジュリー、ゼンの順に一列になる。
なるべく静かに踏み荒さないように注意ながらサスケとジュリーが男たちを見張り、ゼンがクロを探して森の茂みの中を進む。
「いました」
と、ゼンがジュリーの肩をたたく。
クロを発見したのだ。
ジュリーは無言で頷くと、クロの元へ移動する。
「クロさん」
小声で呼びかけられたクロは何かを感じてくれたらしく「ん?」と一言呟いただけでこちらの発言を待っている。
「二人組の男を発見しました。今、尾行しているんですが、オレたちだけじゃ心細いんで一緒に来てもらえますか?」
「判った、念のためコーも連れて行こう」
そう判断したのは、ひとまず何事もなさそうな泉周辺と何が起こるか判らない行き先との勘案の結果だったのだろう。
「ここで待っていてくれ」
と、茂みをかき分け一分と経たないうちにコーを連れて戻ってきた。
「二人組を発見したって?」
「ええ」
コーたちを先導する形でサスケたちの後を追うジュリーは、道行きの時間を使ってあらましを説明する。
やがて注意深く見れば前方に背の高いサスケの黒装束が見え隠れするのが確認できて、心持ち足を早める。
合流した三人は二人組を確認し、無言で彼らを尾行する。
ほどなくして森の中にひらけた場所があり、三階建アール・デコ建築の洋館が現れた。
尾行していた男たちはその中に入っていく。
安全のため、洋館から少し離れた森の中まで戻った彼らは話し合う。
アール・デコは二十世紀前半に流行した装飾美術だ。
彼らが閉じ込められた産業革命前夜の近世ヨーロッパ建築を模した街の建築物とは一世紀ほど隔たりがある。
その中に入っていく男たちの服装も彼らのものとは出来が違って、遠目に見ても工業製品然とした仕立てになっていた。
「どうする?」
「どうするもこうするも『虎穴に入らずんば虎子を得ず』だろ?」
「コーさん、単純すぎます」
「ったって、行かない選択肢はないだろ」
「ありますよ、一旦戻るって選択肢が」
「ああ」
「でもよ、結局行くしかないんだろ?」
と、ジュリーが言う。
「行くにしてもどういうアプローチでいくかを話し合うってことだろう?」
クロに言われてコーとジュリーはなるほどと合点顔をする。
「大きな洋館でござる。二人で住んでいるとは拙者には思えぬ」
「ああ、その意見にはオレも賛成するよ」
「確かに二、三人で住んでるなんてなったら毎日掃除で終わりそうだ」
「何を言ってるんですか、ジュリーは」
「ん? 何かおかしなこと言ったか?」
「議論の本筋から外れてるんです」
「ああ、すまないな」
「ゼンはどうすべきだと思う」
クロが意見を聞いてくる。
ゼンは例の仕草をしながらぶつぶつと声に出して頭の中の整理をし始めた。
「TRPG的には様子を伺いつつぐるりと洋館の周りを回って情報を集めるところですね。しかし、中に人がいることが確実な状況でそんなことをしているこちらに気付かれるのは、相手が敵にしろ味方にしろ心証が悪くなりますから実際の状況としては、得策ではありません。一旦戻ってヒビキさんたちと合流するのは……どうでしょう?」
「面倒だから正面から行こうぜ」
と、主張したのはジュリーである。
「オレもその意見に賛成だな。仮に敵だったとしても人間同士だ。見たところ問答無用タイプとも思えなかったぜ」
「人は見かけによりませんよ?」
「まぁ、最後まで言わせろよ。もし味方だったとしたら、コソコソしている俺たちを信頼してくれるか?」
キャスティングの理由をプロデューサーは
「何が正義か判らない時代に少し単純なくらいポジティブで明快な答えを出してきた彼に、ウルトラマンという作品の本質を見た。彼なら新しくも伝統的なウルトラマンを子供達に提示してくれると思った」
と語っている。
彼は根っからのヒーローなのだ。
人を信じているのだろう。
同じ
「何がおかしいんすか?」
「いや、今回はコーの提案に乗ろう。正面から彼らに面会だ」
一決すると、先頭きって洋館に向かう。
ライオンを模したドアノッカーを二度叩くと、しばらくして先ほどまで彼らが後をつけていた男の一人が出迎える。
「あ」
彼はちょっと驚いて彼らを見回した後、館の中に招き入れてくれた。