21. 殺せない・・・
文字数 2,269文字
ジュリアスはニヤニヤしながら相手の剣を受け流していた。
「まだやる気か? 血を見るぞ。」
「くそっ。」
その時、斜 め前にいた別の男が、大上段から剣を振るってきた。
隙 をついたつもりのそれをものともせず、ジュリアスは、そのあとの同時攻撃をも余裕綽々 で応戦した。矢継 ぎ早の襲撃に対する彼の剣捌 きは、見事のひと言に尽きた。その素早さは相手を遥かに上回っているどころか、神業 の域に達している。剣術の試合では、レッドのおかげでジュリアスは存分に腕前を披露できなかったため、観衆のほとんどは今になってそのことに気付いた。
「ほら、敵わねえって。とっとと失せろよ。俺たちが本気を出したくなる前に。」
完全に相手を翻弄 しながら、ジュリアスはさかんに軽口を叩いていた。
「いい腕してるな。あの相方も。」ギルが言った。
「ジュリアスは早業 の天才よ。レッドも一目置いてたわ。」と、シャナイア。
「どういうことだい。」
「レトラビアの仕事では、ジュリアスも一緒だったのよ。」
シャナイアは語り口調で答えた。
「そしてレッドは、私たち傭兵 部隊の隊長。初めは、レッドがあまりにも年若いっていう理由だけで、誰も彼を認めようとしなかった。でもレッドは・・・見事に隊を一つにしたのよ。誰もが、知らないうちに彼に惹 かれ始めたわ。彼のあの強さだけが理由じゃなくてね。もっとも、ブルグだけは最後まで素直じゃなかったけど。」
肩口を目がけて振り下ろされた剣、それをレッドは一瞬で弾 き返した。すぐさま反撃の構え。だがレッドは、後ろへよろめいた相手の胸に切っ先を掠 め、次いで水平に構えた剣を、脇腹 を外して繰り出した。
レッドにとって殺すのは造作もないこと。だが、多くの子供の目に、殺害の場面を焼き付けるのはためらわれる。例えそれが、殺されても仕方がない非道な悪人の死にざまであっても。その衝撃のせいで、精神の病にかかる子が出るかもしれない。それを思うと、どうしても殺せなかった。予想したより長引いているこの状況に、嫌な胸騒ぎを覚えながらも。
「わざと外してやっているのが、分かるか?」
レッドは、男の顔面の真横に剣を突き入れて言った。
「ひっ!」
短い悲鳴を上げた男は、腰を抜かして倒れ込む。
そこへ横合いから斬りかかってきた別の攻撃。
目もくれずに跳ね飛ばされたその剣は、落下したあと、観衆の輪へ向かって地面を滑走 していった。
そしてそれは、亜麻色の髪の美女の足元で止まった。正確には、止められたのである。その美女シャナイアが、勢いよく滑り込んできたそれを、すっと出した右足で踏みつけていたのだ。
剣を拾い上げに男が駆けてくる。
そこで男は、スリットから腿 まで見えている色っぽい足にまず見惚 れ、それから徐々に視線を上げていき、最後はシャナイアの美しい顔に目を留めた。
「欲しい?」
腕組みをした呆 れ顔の美女が、そう言って見下ろしてきた。
男は呆然としたまま、間抜けにもひとつうなずいた。
「そ、じゃあ・・・。」
優雅な仕草 でそれを拾い上げたシャナイアは、一歩前へ出て、にこりとほほ笑んだ。
いつまでも彼女の美貌 に見惚れているその男は、ほとんど無意識に手を差し伸べた。
すると。
シャナイアは、いま拾い上げた剣を、いきなり真上へ放り投げたのである。さらにはステップを踏みだし、落下してくるそれを華麗に舞いながらキャッチすると、二、三度、閃 かせて構えた。巧 みに使いこなすことができる、というアピールだ。
「腕ずくでどうぞ。」
男は声もなく、度肝 を抜かれて目をみはった。そして別の武器を引き抜くでもなく、戦いに戻るでもなく、ひどく慌てふためきながら親分のもとへ逃げて行った。
エミリオもギルも、思わず唖然 と口を開けたまま、そんな彼女を見つめていた。
「今度・・・手合わせ願えるかな。」と、目を丸くしたままでギルは言った。
戦いの場では、一向に反撃に出ようとしないレッドとジュリアスよりも、珍しいという理由から、リューイの方が注目されていた。興味を引かれる鮮やかな身ごなしに、中には喝采 を上げる者まで出始めた。
だがその声に、リューイが応えて調子に乗ることはなかった。リューイは嫌な予感を覚えていた。早くどうにか片をつけないと、何か具合の悪いことが起こりそうな気がした。
だが、戦いながら周囲を見渡してみれば、目につくのは多くの子供たち。
殺せない・・・。
サッと腰を落としたリューイは、背後で振りかぶった男の鳩尾 に肘鉄 をめり込ませ、さらに側頭部を殴りつけた。
リューイは、男が脳震盪 で前のめりに倒れるのを見届けた。気を失わせたのは、狙ってだ。それを見てやっと恐れをなした残りの三人を睨 みつけ、こう言い放つために。
「いい加減にしねえと、まとめてこうだぞっ!」
「そこまでだ!」
突然駆け抜けた大声に、場内で戦っていた誰もが動きを止めた。
リューイもレッドも、そしてジュリアスも、一様に強張 った顔を、声がした方へ向けてみる。
人質 をとられた・・・。
「まだやる気か? 血を見るぞ。」
「くそっ。」
その時、
「ほら、敵わねえって。とっとと失せろよ。俺たちが本気を出したくなる前に。」
完全に相手を
「いい腕してるな。あの相方も。」ギルが言った。
「ジュリアスは
「どういうことだい。」
「レトラビアの仕事では、ジュリアスも一緒だったのよ。」
シャナイアは語り口調で答えた。
「そしてレッドは、私たち
肩口を目がけて振り下ろされた剣、それをレッドは一瞬で
レッドにとって殺すのは造作もないこと。だが、多くの子供の目に、殺害の場面を焼き付けるのはためらわれる。例えそれが、殺されても仕方がない非道な悪人の死にざまであっても。その衝撃のせいで、精神の病にかかる子が出るかもしれない。それを思うと、どうしても殺せなかった。予想したより長引いているこの状況に、嫌な胸騒ぎを覚えながらも。
「わざと外してやっているのが、分かるか?」
レッドは、男の顔面の真横に剣を突き入れて言った。
「ひっ!」
短い悲鳴を上げた男は、腰を抜かして倒れ込む。
そこへ横合いから斬りかかってきた別の攻撃。
目もくれずに跳ね飛ばされたその剣は、落下したあと、観衆の輪へ向かって地面を
そしてそれは、亜麻色の髪の美女の足元で止まった。正確には、止められたのである。その美女シャナイアが、勢いよく滑り込んできたそれを、すっと出した右足で踏みつけていたのだ。
剣を拾い上げに男が駆けてくる。
そこで男は、スリットから
「欲しい?」
腕組みをした
男は呆然としたまま、間抜けにもひとつうなずいた。
「そ、じゃあ・・・。」
優雅な
いつまでも彼女の
すると。
シャナイアは、いま拾い上げた剣を、いきなり真上へ放り投げたのである。さらにはステップを踏みだし、落下してくるそれを華麗に舞いながらキャッチすると、二、三度、
「腕ずくでどうぞ。」
男は声もなく、
エミリオもギルも、思わず
「今度・・・手合わせ願えるかな。」と、目を丸くしたままでギルは言った。
戦いの場では、一向に反撃に出ようとしないレッドとジュリアスよりも、珍しいという理由から、リューイの方が注目されていた。興味を引かれる鮮やかな身ごなしに、中には
だがその声に、リューイが応えて調子に乗ることはなかった。リューイは嫌な予感を覚えていた。早くどうにか片をつけないと、何か具合の悪いことが起こりそうな気がした。
だが、戦いながら周囲を見渡してみれば、目につくのは多くの子供たち。
殺せない・・・。
サッと腰を落としたリューイは、背後で振りかぶった男の
リューイは、男が
「いい加減にしねえと、まとめてこうだぞっ!」
「そこまでだ!」
突然駆け抜けた大声に、場内で戦っていた誰もが動きを止めた。
リューイもレッドも、そしてジュリアスも、一様に
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)