18. リューイと形見の青い石
文字数 1,996文字
「じっちゃん、俺の母ちゃんと父ちゃんはどこにいるの?」
不思議そうな顔でそう尋 ねるのは、天真爛漫 な金髪碧眼 の美少年。そして、その少年と面と向かい合っているのは、ロブ・ハウエルという名の中年男性である。ロブは、一種独特な伝統を守り続けている、とある道場で育った驚異的な武術の達人だった。だが、そこを統 べることのできる才能と腕を買われていたものの、己の信念のもとにその話を断り、アースリーヴェの樹海で独自の修行に一人励んでいた。生まれて一年も経たない赤ん坊を抱いた女性が倒れているのを見つけ、その彼女の死を看取 るまでは・・・。
「リューイ・・・。」
ロブは悲しげにリューイを見つめた。
「だって、キースにも、ラビにもウィリーにもタムタムにも、母ちゃんと父ちゃんがいるのに、俺にはじっちゃんしかいないんだもん。」
リューイが並べ挙げた名は、どれも人間のものではなかった。キースは、リューイの森の相棒で黒豹の子供(当時)のことである。以下、全てリューイが名付けた猛獣の子供ばかり。だが、リューイにとっては友達だった。
修行場所に密林を選んだだけのロブは、完全に世間を切り離した生活をしていたわけではなかった。だから、リューイにある程度の教養をつけさせようと、リューイを町へ連れて行くこともあった。しかし、普段の生活の中では、人間の会話ができる相手がたった一人に限られているために、リューイがさっぱり興味を示さないこともあって、それが彼の年齢に追いつかなかった。武術の技や体力や腕力などは、恐ろしいまでの速さでとっくに年齢を追い越して身についていったというのに。
「リューイ・・・お前の母ちゃんがいるところは、神様のところだよ・・・分かるね。」
リューイは、驚いたように顔を強張 らせた。
それから俯 いて口を利 かなかったが、しばらくすると微 かに頷 いてみせた。
「リューイ、これはお前の母ちゃんが持っていたものだよ。だから、お前も大切にずっと持っていなさい。もう無くさずにいられるね。これが母ちゃんだ。」
ロブはそう言って、花をイメージした型に、青い宝石が埋め込まれた金のペンダント ―― のちにリューイが、ごつごつして邪魔だという理由で宝石だけをくり抜いてしまうが ―― を手渡した。
「母ちゃん・・・。」
リューイは、自分の両手の上で輝いている、初めて見るその怪しいまでの美しさに呆然 と見惚 れた。
「リューイ・・・それを持っていれば、もしかすると父ちゃんに会えるかもしれない。お前が大きくなったら、父ちゃんを探しに行くといい。」
ロブは、内心これを言うのを何度もためらってきた。その男が生きているという確証はなく、どういう人物であるかも分からないだけに、勧 めてやることができなかったのだ。なにしろ、リューイの母親の死に様はどう考えても異常だった。その男から逃げてきた可能性も否定できないのである。
だが、リューイには自分で道を選び決める権利があるはずだった。
するとリューイは、首を大きく左右に振ってみせた。
「じっちゃんがずっと一緒にいてくれるんだったら、母ちゃんいなくていい。父ちゃんもいらない。寂しくなんかない。」
ロブはリューイの小さな体をたぐり寄せて、強く抱きしめた。その腕の中で、リューイは込み上げる涙を零さないように必死で堪 えた。
「お前は優しくて強い子だ。だが、もっと強くなれ。大きくなったお前のその力は、きっとたくさんの人のためになるだろう。」
「俺、どこにも行かないよ。ずっとじっちゃんとここにいるんだ。」
「どうかな・・・運命を感じるんだ。お前は、そういう目をしている。」
リューイが浅い眠りについた頃、レッドの体に異変が起こっていた。
レッドは、この感じに覚えがあった。凄まじい気分の悪さと頭痛、そして眩暈 。
レッドはふらつきながら、そばにあったと思われる木の方へ寄って行った・・・というのは、長引く眩暈のせいで平衡 感覚がなく、それを見定 めることができないのである。とにかく背中をつけて座れる場所へ行きたかった。探るようにして腕を伸ばせば、幹に手をつけることができた。この間にも襲ってきたのは、あの血の気が引くような感覚と、胸や背中をじっとりと濡らす脂汗 。体がどうしようもなく震え、座るどころかガクンと膝が折れて、レッドはその場に崩れ落ちた。いつの間にかそばにきていたミーアの存在にも、すぐには気付けなかった。目を開けているつもりでも、全てが霞 んで見えていた。ひどくうろたえているミーアの声が聞こえる。だがその声はずいぶん遠くから聞こえてくるようだ。
楽になりたくて、レッドは身悶 えながらハアハアと浅い呼吸を繰り返した。一向に良くはならない。これがそうなら、あの時だって彼女に一晩 介抱してもらってやっと回復したのである。あがくだけ無駄か・・・。
そう失望したとたん、レッドは気を失ってしまった。
不思議そうな顔でそう
「リューイ・・・。」
ロブは悲しげにリューイを見つめた。
「だって、キースにも、ラビにもウィリーにもタムタムにも、母ちゃんと父ちゃんがいるのに、俺にはじっちゃんしかいないんだもん。」
リューイが並べ挙げた名は、どれも人間のものではなかった。キースは、リューイの森の相棒で黒豹の子供(当時)のことである。以下、全てリューイが名付けた猛獣の子供ばかり。だが、リューイにとっては友達だった。
修行場所に密林を選んだだけのロブは、完全に世間を切り離した生活をしていたわけではなかった。だから、リューイにある程度の教養をつけさせようと、リューイを町へ連れて行くこともあった。しかし、普段の生活の中では、人間の会話ができる相手がたった一人に限られているために、リューイがさっぱり興味を示さないこともあって、それが彼の年齢に追いつかなかった。武術の技や体力や腕力などは、恐ろしいまでの速さでとっくに年齢を追い越して身についていったというのに。
「リューイ・・・お前の母ちゃんがいるところは、神様のところだよ・・・分かるね。」
リューイは、驚いたように顔を
それから
「リューイ、これはお前の母ちゃんが持っていたものだよ。だから、お前も大切にずっと持っていなさい。もう無くさずにいられるね。これが母ちゃんだ。」
ロブはそう言って、花をイメージした型に、青い宝石が埋め込まれた金のペンダント ―― のちにリューイが、ごつごつして邪魔だという理由で宝石だけをくり抜いてしまうが ―― を手渡した。
「母ちゃん・・・。」
リューイは、自分の両手の上で輝いている、初めて見るその怪しいまでの美しさに
「リューイ・・・それを持っていれば、もしかすると父ちゃんに会えるかもしれない。お前が大きくなったら、父ちゃんを探しに行くといい。」
ロブは、内心これを言うのを何度もためらってきた。その男が生きているという確証はなく、どういう人物であるかも分からないだけに、
だが、リューイには自分で道を選び決める権利があるはずだった。
するとリューイは、首を大きく左右に振ってみせた。
「じっちゃんがずっと一緒にいてくれるんだったら、母ちゃんいなくていい。父ちゃんもいらない。寂しくなんかない。」
ロブはリューイの小さな体をたぐり寄せて、強く抱きしめた。その腕の中で、リューイは込み上げる涙を零さないように必死で
「お前は優しくて強い子だ。だが、もっと強くなれ。大きくなったお前のその力は、きっとたくさんの人のためになるだろう。」
「俺、どこにも行かないよ。ずっとじっちゃんとここにいるんだ。」
「どうかな・・・運命を感じるんだ。お前は、そういう目をしている。」
リューイが浅い眠りについた頃、レッドの体に異変が起こっていた。
レッドは、この感じに覚えがあった。凄まじい気分の悪さと頭痛、そして
レッドはふらつきながら、そばにあったと思われる木の方へ寄って行った・・・というのは、長引く眩暈のせいで
楽になりたくて、レッドは
そう失望したとたん、レッドは気を失ってしまった。
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