12. 救世主の証

文字数 2,482文字

 遥か昔のこと。未曾有(みぞう)の大災害によって、大陸は一度 壊滅(かいめつ)しかけたという歴史がある。だが真実は、錯乱した精霊たちによって引き起こされたことだ・・・と語られている裏話(うらばなし)もまた存在する。

 それを(しず)めてみせた人物こそ、オルセイディウス。風神オルセイディウスの血を受け継いだ者。風の神は、全ての精霊を運ぶことができるという。その力を(さず)かった彼はその時、ほかの全ての神の力をも操り、大陸を救ったと伝説になっている。

 そして彼には、同じ宿命のもとに繋がった九人の仲間がいた。そもそも、ほかの神々の力は、この一人一人に(たく)されていた。神々の中心なる彼は、その仲間たちに支えられて使命を果たし、救世主となった。

 そうして、荒れ狂う精霊を神のごとく導いた彼と、その仲間たちのことは、神が創造し名付けたこの大陸と同じ名で称され、語り継がれた。

 アルタクティス・・・すなわちそのもう一つの意味は、神の血と精神を受け継ぎ、大陸を救った英雄たちの総称(そうしょう)。 

 しかしこのアルタクティス伝説は、術使いの間と、多くの物語が語られているインディグラーダ地方では有名な実話とされているものの、事実、大陸は絶望的な天変地異による災害から奇跡的に救われたという、表の歴史のみが広く知られているのが現状だった。

 ところがテオとカイルは、アルタクティス伝説それ以上のことをも知っていた。そのわけは、代々術使いの家系で育ったカイルの先祖に、ほかでもないアルタクティスの一人、闇の神ラグナザウロンの力を授けられた者がいるからである。

 その名は、ディオネス・グラント。

 そして、彼のその力は時代を越えて今、カイルに受け継がれていた。つまり、カイルはディオネスの生まれ変わりだ。

 そのことが明らかになったのは、約二年前のことだった。本来不可視であるはずの生態を取り巻く光彩と言われるもの・・・オーラが、カイルの体にうっすらと現れた。だが、それはテオにだけ辛うじて見て取れるもので、テオの知識の中にあるものとはずいぶん違っていた。

 最も近いものを挙げるとすれば、天然石のアクアオーラ。それ一色が、陽光を受けて(きら)めく水面のように光り輝いている。それは、神の血と精神を受け継ぎ、その宿命のもとに救世主となるべく生まれた者たちの(あかし)

 だから、アルタクティス伝説の詳細を知るテオは、それがまた違う特別なオーラだということを、たちどころに理解できたのである。

 こうして、そのことが何を意味するかに気付いたテオと、そしてカイルの旅は、その時からアルタクティスの仲間を探すものに変わった。

 カイルのそのオーラをテオは見ることができるが、カイル本人には自分のそれを見ることができないというのには、霊能力の差が関係している。

 中でもかなり能力が高いとはいえ、所詮カイルはまだ精霊使いに過ぎず、一方テオの霊能力は、神精術師の中でも上級レベル。それゆえ、救世主の生まれ変わりであってもカイル本人には分からず、テオには分かるというようなことが起こり、このことにテオもすぐに気付いた。

 さらにテオは、神々の中心であるオルセイディウスだけは、すでに覚醒(かくせい)しているに違いないという強い確信を覚えた。なぜなら、そもそも水晶を用意した時点で真っ先に反応したのは、カイルが持つ精霊石と同じ色をした黒と、そしてもう一つ・・・薄紫(うすむらさき)色。それだけだったのである。

 薄紫の水晶・・・それはオルセイディウスを示すものであり、そのことからテオは、オルセイディウスだけは完全に目覚めているはずだと予感したのだ。

 それによって、二人はすぐにヴルノーラ地方へ向かった。

 すると、そんな中もう一つ変化が起きた。ヴルノーラ地方へたどり着く矢先、また別の水晶が反応を表したのである。

 乳白色に輝く月の女神、スピラシャウアの水晶だった。

 スピラシャウアもまた、あらゆる方位を示した中でも、ヴルノーラ地方の上で力強く輝いていた。

 そのことから、テオはまた一つの推測(すいそく)を裏付けることができた。それは、ほかの者たちについては、ある程度近くにいなければ感知できないということ。

 そうして二人は、その確信のもとにエルファラム、アルバドルなど大陸の北東にある国の町から町を、村という村を歩き回って、気が済むまで仲間を探し求めた。

 しかし、そのどちらにも、なかなか出会うことができず・・・。

 そんなもどかしい日々が続いたある日、ようやくまた一つ反応を得た。

 ところが、次のそれが示す場所はヴルノーラ地方ではなかった。ただその時、二人はその大陸北東部にあたる地域と、東部にあるオリノスカラ地方とのほぼ境目(さかいめ)にいた。反応があったのは、そこ大陸の東に存在する国家、エルティマ王国内。

 そこで二人は、オルセイディウスとスピラシャウアの捜索を断念して、その水晶に導かれるままにやって来たのである。

 旅人にとっては荒野のオアシスとなるこの商業都市、ヴェネッサの町へと。

 そうして出会えたのが、保護神ミナルシア・・・オレンジ色の精霊石を持つ者であり、ミナルシア神殿の修道女であるイヴだった。

 そんな長い時間をかけ、苦労を重ねたというのに、今、その仲間たちを示す水晶のうち七つが、一度に反応を示しているのである。しかも一晩で輝きが増したばかりでなく、一箇所に集中するという反応を。

 カイルは知らずと胡散臭(うさんくさ)そうな顔になり、水晶を指差して言った。

「だってこれ・・・これによると、オルセイディウスを始めに、七人のアルタクティスがこの辺りにいるってことだよね? 最初にヴルノーラ地方で反応があったこの二つの時より接近してるし、物凄く近くにいるってことだよね?」

「うむ、それもその並び方によると、オルセイディウスとスピラシャウアの二神が、そしてグランディガ、ネプルスオーク、イクシローザの三神がすぐそばに、またはすでに運命の出会いを()げて共にいるということになる。」

「ディオネスの生まれ変わりである僕が、あんなに探し回ってダメだったのに・・・こんなことって。」
 カイルは両腕を組んで小さく(うな)った。
「やっぱり、(こわ)れちゃったんじゃないの?」

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