4. 競技への参加

文字数 2,256文字

 シャナイアは、カイルと手をつないで置物のように立っている愛らしい少女に目を向けた。レッドを知る限り、彼と、この貴族のような気品ある彼らとの関係は皆目(かいもく)見当がつかなかったが、その少女については、レッドの・・・でさえなければ特におかしくはなかった。

 それで、シャナイアはカイルを見て言った。
「可愛い子ね、妹さん?」

 するとカイルは戸惑いながら、「え・・・あ、違う。」と、答えた。これから仲間になる予定だとはいえ、本当のことを他人の口から打ち明けていいものかどうか、ためらわれた。

「じゃあ、あなたの?」と、シャナイアは、今度はリューイに首を向けた。

 リューイは、「いや違う。」と、だけ答えた。

「そうなの?じゃあ・・・。」
 続いて、シャナイアはまさかと思いながらも、次にエミリオとギルを見てこうきいた。
「もしかして・・・あなたか、あなたのお子さん?」

 エミリオとギルは、無言で顔を見合った。何となく、ここで違うと答えれば、レッドが困ることになるような気がした。

 だがこの時、カイルが困惑したような顔でレッドの顔を(うかが)っていることに、シャナイアは気付いた。

「うそ、あなたの⁉」シャナイアは大声を上げた。「いつ、つくったのよ⁉」
「は⁉」
 レッドはびっくりして目を(またた)いた。
「妹じゃないわよね? だってあなた、幼い頃に孤児(みなしご)になったって言ってたものね?」
 レッドはその時のことを思い出し、参ったなと苦い顔。
「ああいや・・・話せば長くなる事情がいろいろとあるんだ。きかないでくれ。」
 するとシャナイアは、いよいよ軽蔑(けいべつ)したというように早口で言い(つの)った。
「やだ、信じらんない! どこの行きずりの女性(ひと)と、どんな事情でそんなことになったわけ⁉ あなたがそんなことしていいと思ってるの⁉」
「お前、頭の中で中途半端に考えてもの言ってるだろ! いいか、この子は四歳だっ。その頃の俺に、そんな暇と余裕があったと思うか⁉」

 シャナイアはピタリと黙った。以前に、レッドといつ資格をとったかなどの話をした時のことを思い出したのである。それが、アイアスの・・・であることを知ったのは、もう少しあとの話だったが。レッドがその少女の親とすれば、逆算すると、だいたい子供をつくったと考えられるのは、彼がアイアスを目指して奮闘しているそのあいだ・・・つまり、恩師のもとで訓練中ということになるのだ。しかも、子供をつくる年齢にしては若すぎる。

「じゃあ・・・なに? そもそもあなたたち、どういう集団?」
「この子は・・・ちょっとした知り合いの子だ。預かってるんだよ。で、あての無い気楽な旅人が、道中たまたま気が合って寄り集まってきた結果、こうなった。つまり、ただの旅仲間だ。」

 ここでカイルが何か口を挟みたそうにしたが、エミリオがそれをさせなかった。この場で、突拍子も無い信じ難い話をするには間が悪すぎる。

「ねえ、ところで剣術の試合には出るの?」
「競技って、それか。」と、レッド。
「入場料払ってるんだから、出場しなさいな。」
「いや、止めておく。」
「賞金がもらえるのよ。」
「だから出られない。」
 レッドは言下に答えた。
「でも、その子を連れて旅をするなら、何かと必要なんじゃない? スエヴィと旅をするのとは、わけが違うでしょう。」

 レッドは思わず、それも一理あるな・・・と、考えてしまった。
「それも・・・そうか。」
 レッドはそして、「あんたもどうだ。」と、足を痛めているエミリオと、剣の方はいまいちらしいリューイはさておき、ギルを誘った。あの華麗な剣捌(けんさば)きをもう一度見たいと思った。

 ところがギルは遠慮した。
「俺はいい。お前と当たると、きっと俺が恥をかくことになる。」
「何言ってんだ。」
 レッドには少し残念だった。見るだけでなく、手合せしたいという期待にも似た気持ちがあったからだ。

「あら、お兄さんは弓が使えるみたいだから、そっちに出ればいいじゃない。」
「そんなのもあるのか。」
 ギルの双眸(そうぼう)が、まるで育ち盛りの少年のように(きらめ)いた。

 そんな姿を見ると、彼のもう一つの顔を知るエミリオは、つい頬に笑みを浮かべてしまう。ギルは、相手を辟易(へきえき)させる威厳と貫禄を持ち合わせていながら、時に子供とさして変わらなくなる。不思議な男だ・・・という思いは、彼を知れば知るほど強くなっていった。

「思えば・・・何か考えないといけないな。」

 もともとエミリオやギルには、皇子ゆえに多額の所持金があった。だが、命を狙われているエミリオは、最初の襲撃で大剣以外の全てを失ったものの、その後の孤独な旅路での出会いによって生き延びることができた。盗賊に襲われている、とある行商人一行をたまたま助けたのである(※)。そうして、彼らがひと仕事終えるまでのあいだ、エミリオは一行の護衛を務めることになった。そして、彼が何も持たずに旅をしていることが気になったその主人は、良心から旅の支度を整えてやり、護衛のお礼としてじゅうぶんな報酬(ほうしゅう)を手渡した(※)。そのおかげで、ギルと出会うまでは、エミリオは特に困ることもなく過ごすことができたのである。もっとも、フルザの軍隊とやり合った時に、また多くを失うことになったが、これまでの経験から、剣同様に財布も肌身離さず持つべきであることを覚え、また一文無しになることもなかったのだった。

 一方、夜遊びの習慣があったギルには、すでに着衣に財布を入れる癖がついていた。
 ただ、二人とも、ほとんどは荷物の方に入れていて失っている。




(※)『アルタクティスzero』・・・「外伝5 王家の闇」


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