旅は道連れ

文字数 901文字


 「綺麗だな。」

 地平線の彼方(かなた)にもう半分以上姿を隠している、真っ赤に燃える巨大な太陽を右手に見ながら、ギルは(つぶや)いた。
 呟く気などなかったのに、エミリオに話しかけたつもりが何の反応も返ってはこないので、独り言になってしまったのである。

 ギルは、やれやれとため息をついた。また先ほどから、沈鬱(ちんうつ)な顔で黙り込んでしまったのだ・・・この男は。

 二人は、肩を並べてゆっくりと馬を歩かせていた。

 その背に揺られながら、手綱を握っている自分の手元にひたすら目を向けているエミリオを、ギルは眺めた。

「なあ・・・。」

 ギルは、今度は分かりやすく話しかけた。
 エミリオは、やおらギルに首を向ける。

 ギルは言った。
「まだ・・・返事を聞いてないんだがな。」
「え・・・。」
「俺と旅をするって話。あんたとは気が合いそうだ。」

 それを聞いても、エミリオはやはり、まだ躊躇(ちゅうちょ)した。

「・・・かつては剣を交えた仲だぞ。」
「だが、今日は一緒に戦った。ほら、すでにもう一緒に進み始めていることだしな。つまらないこだわりは捨てろ。」
「本気なのか。」
「旅は道連れだ。」

 エミリオはただ、事も無げにそう言ってみせる、ギルのその目を見つめた。不思議な男だ・・・今はまだ、彼に対して何よりもその思いが強かった。だが、素直になれば共に居て欲しい・・・そう思う自分がいることにも、エミリオは気付いていた。誰かに守られることはあっても、誰かと協力して窮地(きゅうち)を切り抜けたという経験もなかった。

 エミリオはギルに、どう言葉で表せばいいのか分からない魅力を感じていた。それは友達や親友を得た時の感じに似ていたが、それを知らずにきたエミリオにとっては、新鮮な感情だった。

 ギルの右側にいたエミリオは、この時になって初めて首をめぐらした。夕日を見たのである。それは、まさに心が洗われるような美しさだった。

「まず・・・どこへ行こうか。」

 ギルはふっと笑い声を漏らし、それからにんまりと微笑(ほほえ)んで返した。

「楽しい旅になりそうだ。」

 その言葉には、今回のようなことを想定した皮肉も込められている。

 だが・・・。

 ここからの前途多難(ぜんとたなん)は、この時の二人には思いもよらないことばかりだった。



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