⒎  超自然の戦い

文字数 1,705文字

 「う・・・。」
 カイルは、砂地にがくりと手を付いた。

 「大丈夫か。」と、リューイが(かたわ)らにきて、ひどく疲れている少年の肩に手を置いた。

 すると伝わって来たのは(かす)かな振動。ドクドクと震える体からは、傍目(はため)にも激しい動悸(どうき)まで感じられる。まるでひと晩中 重荷を(かつ)いで歩き続けたかのような、疲労感。今無理に立ち上がれば、ふらふらと倒れてしまうだろう。

 それでリューイは、少しでも楽にさせてやりたくて、正面から肩を支えてやった。そして、腰に下げている自分の水を与えた。しかしその時、顔を(のぞ)いて嫌な予感を覚えた。

 カイルの目は、依然(いぜん)として少しも気を抜いてなどいない。

 「やったのか?」

 息の上がったカイルは、(のど)(から)ませながら答えた。
 「まだ・・・。」と。

 おぼつかない動きで背中を起こしたカイルは、リューイを見て、引き()った笑みを浮かべた。

 「ごめん、前じゃなくて、後ろから僕を支えててくれる?」
 「ああけど・・・。」

 リューイの頭の中には、ききたいことが(いく)つもあった。相手はどこにいるとか、誰と戦っているのかとか、どうなったらこの勝負はつくのかとか・・・。だが、ひと言 喋らせるだけでも無駄に体力を使わせることになる・・・そう思い、何を問うこともなく言葉を飲み込んだのだった。

 カイルはまた、スッと右手を上げた。そして再び呪術の体勢に入ると、間もなく周りの砂がざっと動いて円陣を組んだ。砂は竜巻のように横に流れてぐるぐると四人を取り巻いていたが、綺麗な一定の円を描くと、それ以上迫ってくることはなかった。それでレッドもリューイも、それが、カイルが再び張った結界であることを理解した。

 たちまち、超自然の戦いが再開された。

 レッドとリューイは、敵が次に寄越してきたそれらを見て、ぎょっとした。何の精霊かと問うまでもなかった。紅蓮(ぐれん)の炎に囲まれているのだから! 砂が目の前で(うず)巻いているために視界は悪かったが、それは確かに見てとれた。むしろ気のせいだと思いたかった。 

 体力や意識をじわじわ奪っていく、陰湿(いんしつ)な戦法がしかけられた。味方の砂の精霊たちも負けじと抵抗している。敵の炎は思うように追い詰められずに、燃え(さか)っては(おとろ)えを繰り返す。

 今度のこの防壁は、ただやられるばかりではなかった。懸命に押し返しながら少しずつ輪を広げ、踏み消そうとしている。相手の威力に押されながらも、出たり引いたり、少しずつ。でなければ、防ぐだけでは、反撃しなければ、この窮地(きゅうち)は切り抜けられない。

 そうして、特に大きなことは何も起こらないまま、やや時間がたった。

 ただそのうち、レッドもリューイも、異様に熱さを肌身に感じるようになってきた。レッドはミーアのことが気になり、リューイはカイルが・・・。それで、二人共に最初の炎を見てからそうなるまでは、竜巻の向こうに目を向けることもなく、それぞれが気になるものをただひたすら見つめていたのである。しかし、次第に増していくこの熱気・・・さすがに状況を確かめずにはいられなくなった。二人は、顔を上げた。熱さを感じるということは、防御が(もろ)くなったに違いない。

 すると案の定、いつの間にか遠くまで見渡せるようになっていた。それが、結界が弱くなっている証拠であることは、おのずと理解できた。

 そして、とたんに愕然(がくぜん)となる。

 辺り一面、煌々(こうこう)と燃え盛る火の海だ!

 その理由に、二人は一目瞭然で気付いた。またしても空に鳥の形をした化け物がいて、しきりに羽をばたつかせては炎に拍車をかけている。

 その助力を受けてメラメラと躍動(やくどう)し、派手に火の()を散らす敵の精霊群。一方、防御の精霊たちは、容赦(ようしゃ)なく火の粉が降りかかるその度に喰い(つぶ)されていき、迎え撃っていたものたちも、もはや反撃 (かな)わず弱り果てていた。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み