明晰夢 2 ― 神々の中心人物 

文字数 1,337文字


 すると、夢は上手い具合にちょうどさきの続きから始まって、またレッドを悩ませた。

 甘い記憶も楽しい思い出も多々ある。なのに、なぜまた・・・と、レッドは浅い眠りの中で苦悩する。認めたくはないが、彼女を傷つけたことが、何よりも印象的なものとなってしまったのか。

 そして流れる、そんな切ない夢の続き・・・。


〝ごめんなさい。あなたが意地悪言うから・・・。〟

 細い指先が、取り(つくろ)うように彼の左頬を()でた。 
 その手首を軽く(つか)んだレッドは、それから彼女の目をじっと見つめた。
 
〝無くなるんだろ・・・。〟

 レッドは、重苦しいため息をついて、悲しい声で言った。

〝無くなっちまうんだろ・・・その・・・男と・・・。〟

 彼女は、彼の気が変わってしまった最大の理由に、この時、ようやく気付いた。

〝いつ・・・知ったの。〟

 レッドは、それには答えなかった。そして代わりにこう言った。

〝誰かを好きになるなとは言わない。だが・・・ごめん、俺にはできない。〟

〝失っても構わないわ。〟

〝どうしても奪いたくないんだ。そばにいてやりたいし、いて欲しい。でも・・・そばにいれば俺はきっと・・・君に手を出す。怖くて仕方がない。〟

〝怖い・・・?〟

〝俺を救ってくれたその力を・・・人を救うことのできるその貴重な力を・・・奪っちまうかもしれないと考えるだけで怖いんだ。〟

 息詰まるような沈黙が続いた。

 だがその彼女には、実は、彼に内緒にしていたことがもう一つあった。彼女は自分の能力のことと共に、それを隠しているのがずっと心苦しかった。彼とはこれで終わる・・・。そうだとしても、彼以外に自分の全てを捧げる気になどなれない彼女は、彼がもし戻って来てくれることがあるなら、もう全てを知ってもらったうえで待ちたいと思った。

 それで、彼女はやがて口を開いた。

〝レッド・・・私、実は・・・待っている人がいるの。〟と。

〝え・・・。〟

 思わぬそのセリフに意表を突かれて、レッドは唖然(あぜん)

〝は・・・!?

〝違うの、ある時いきなり勝手に決めつけられて・・・私が修道女の、言ってみればリーダーみたいな役に選ばれた時だったわ。その(あかし)にこのペンダントを(ゆず)り受けたんだけど・・・。〟

 彼女は、オレンジ色の宝石が光るそれをたくし上げて、レッドに見せた。

〝その時にエマカトラ(修道女の長という意味の称号)様が急に顔色を変えられて・・・そのあと、そんな話をされたの。〟

〝そんな話って?〟

〝時が来たら、ある人につき従うようにって。〟

〝ある人?誰・・・?〟

〝神々の中心人物。〟

〝・・・なんだって?〟

〝私にもよく理解できなくて。なんでも、アルタクティスがどうとか・・・時が来たら分かるとしか教えてもらえなかったの。〟

〝それって、この大陸の名前だろう?〟

〝いいえ、そうなんだけど、また違う意味があるみたいなの。とにかく、このペンダントを肌身離さずに持っていなさいって言われたのよ。あなたを(むか)えに来る人がきっといるからって。でも全く訳が分からないんだもの。だから真剣に考える気にもなれなくて・・・。〟

 レッドにとっても意味不明だったが、しばらくすると静かな声で言った。

〝・・・だったら尚更(なおさら)だ。君は、何か大きな使命を負っている。そんな気がする。俺には・・・遠い存在だ。〟



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