⒕  不可解な襲撃者

文字数 1,136文字

 (やぶ)の向こうから聞こえたそれは、たちまち戦いの騒音へと移行した。激しく打ち合う剣戟(けんげき)の音。

 二人は顔を見合わせる。

 「何事だ・・・聖なる森の中で。」
 ギルが鋭い声で言った。
 「これは・・・多勢に無勢かもしれない。」
 音のたつ感じからそう推測して、エミリオが眉をひそめる。
 「盗賊か!」
 ギルはやにわに立ち上がり、エミリオもさっと腰を上げていた。

 二人は火を消したあと急いでズボンを履き、剣を手に取ると、現場へまっしぐらに駆けだした。

 ところが、すぐさま駆けつけた二人は唖然(あぜん)となり、思わず茂みの陰にしゃがみ込んだ。

 そこで繰り広げられていた戦いは、案の定、多勢に無勢だった。しかし()に落ちないことには、多勢の方はどう見ても盗賊のようなごろつきではない。だらしなさも見られないし、軽装だが無駄のない装備。それに、戦い方、剣の扱い方も知っているようだ。訓練を受けたと分かる動きをしている。

 さらに驚いたことには、もう一方の四人のうち三人を知っていた。ヴェネッサの町の酒場で会っていたからだ。額に赤いバンダナの精悍(せいかん)な若者と、金髪の美青年。その二人は、ミナという名前のあの少女と、そしてもう一人、誰か見知らぬ少年を背後に(かば)いながら、十四、五人いる敵を相手に、苦戦を強いられているようなのである。それも、そのはず。ただでさえ明らかに戦力が足りないのに、金髪青年は丸腰で、剣を振るう相手に素手で対抗しているのだ。ただ、その戦いぶりには度肝を抜かれていた。

 徒手武術 ―― 拳法 ―― というもの。それは、ギルとエミリオの頭に、知識としてはあった。恐らく、金髪の美青年はその達人だ。どうもまともに反撃に出ないだけで、襲い来るものを見事に蹴散(けち)らしている。赤いバンダナの剣士も。

 「相手はどこの戦士だ、傭兵(ようへい)か? いったい何の手下に成り下がりやがった。」
 ギルは(うな)るように言った。

 二人には、さっぱり訳が分からない。相手が盗賊ならば頷けるが、何が気に入らなくて、少年少女を連れている、ただの旅人を襲うのか。喧嘩や、恨みがあるとも思えなかった。考えられるとすれば、何か望むものがあるということ。

 そしてギルは、その精悍(せいかん)な剣士が凄腕であるのも、すでに噂で聞いたことがあり、知っていた。しかしその彼は、敵の攻撃を受け流すか弾き返すかで、武闘家の青年も、相手の数の多さと自由な行動が利かずに、本来の力を発揮できてはいない様子。背後の少年と少女を庇っていては無理もなかったが、ひょっとして、その二人のうちどちらかが目当てだろうか・・・。エミリオもギルも首を(ひね)るばかりである。

 ともあれ、善悪ははっきりしていた。

 エミリオは顔をしかめ、剣を握る手に力を加える。
 「・・・加勢しよう。」

 ギルも不敵に微笑(ほほえ)んだ。


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